拠点探し
「次はここですね」
俺たちは昨日ギルド長にお願いしたように拠点を探している。
王都も広いから空き家もいくつかはあるようで、今は三つ目を見ているところだな。最初と二つ目も良かったんだがいかんせん狭いのだ。四人で住むには丁度いいんだろうけど、それ以上となると狭く感じるのだ。
別に自慢じゃないが、パーティーにはルルにシャリア、マナの三人が居て全員少女である。彼女たちは気にしないと言ってはいるが、やはりプライベートは必要だろう。だから今は個人部屋が取れるくらいの広さがある物件を探しているのだ。それにこれからパーティーメンバーが増えるかもしれないからな。
忘れているかもしれないがこの世界でのハンターは最低六人でパーティーを組むから俺たちみたいな四人は逆に珍しいのだ。もうしばらくしたら五人目や六人目を加えなきゃいけないだろう。それを考えると拠点は狭いのはダメだな。
さて、目の前にあるのは三つ目だが大きさもなかなか良い。石造りで少し古そうだがかなり丈夫そうだな。
中に入るとその広さがわかる。
二階建てで一階には食堂と応接間、小さめの浴場だ。二階には個人部屋として使えそうな部屋が合計で七部屋。加えて地下に食料庫と地下室が一部屋ある。
間取りはこんな感じだな。個人的には結構いい物件だと思うな。
「広くて部屋数もあるから結構良いし、庭には馬車を置けそうなスペースがちゃんとあって井戸まで設置されてる。でも、市街地まで遠いわね」
この物件の場所は王都の南東。俺たちが初めて王都に来た時に居た港の近くになる。だが、建物から見てわかるようにそれなりに古くからあるらしく、今は周囲は倉庫などに囲まれている。お陰で市街地までがそれなりにあり、さらに馬車なども港まで出ないと無いため交通の便が悪い。それでもここは川沿いで倉庫が多いことを我慢すればかなり静かな土地なのでそれを好んで住む人も多いらしい。
「静かな場所なのはいいんだけど出来ればもうちょっとだけ交通の便がいい所はない?」
ルルの要求にここまで案内をしてくれている最近馴染みの受付嬢は苦笑する。
「そうですね……ここ以外となるともう無い……訳じゃないんですが……」
お?どうやらまだあるらしい。でも彼女の様子からその物件は何か訳ありなのか?
「はい。そこはここから北に行ったところの未開発地区にあるのですが……出るらしいんです」
出る、か。まあ予想しなくともわかるがアレだよなあ……
王都は広い。びっくりするくらいには広い。で、当然のように裏路地をいくらか行けばスラムなどに出る。中でもかつて存在していた王都北東のスラムは犯罪組織の温床だったという。しかし二十年ほど前に先代国王が王都北東に存在していた超巨大スラムの救済政策を行った。その内容は簡単に言えば王都の周囲に存在する四大都市の増強要員としてそこに住まう住人を給金付きで派遣したのだ。約二年ほど支援を続け、今ではほとんどの人が都市の衛兵であったりハンターになったりしているようだ。それには多くの騎士団も動員され、犠牲はあったものの犯罪組織の多くは潰すことが出来たらしい。
話を戻すと、そのスラムがあった場所に住んでいた人は政策によりいなくなったために住宅開発などが行われたのだ。しかし十五年前に国の西部から北西、そして北の極圏までを覆う巨大なバードダル大森海と呼ばれる巨大な森から大規模な魔物の
「出る……ねえ。だからという訳ではなさそうだけどこの辺りは閑散としてたのね」
「でも建ってる建物も土地も広いですね」
賑やかな王都のはずなのに北東地区へ足を踏み入れた途端に雰囲気がまるでゴーストタウンのようになった。人通りもあるが、繁華街に比べると圧倒的に少ない。ただ、酒場や露店なども皆落ち着いていて過ごしやすそうではある。
「で、その俺たちに紹介してくれて出るって言う物件はどこにあるんだ?」
「はい、確か……ありましたここです」
北東地区に入って少し行った所にある場所だった。
「え?もしかしてこの広い土地全部がこの家の土地?」
「はい。前所有者の方の遺言でこの土地全てを譲渡するとありますので。ですが先程も言ったように出るようで──」
「煌めけ、道を示せ、これは汝らの望む道標、浄化されよ、〈
ルルが放った魔法〈
「ひ、光属性魔法を使えたのですね……なら問題無い……かな?」
俺もつい最近知ったのだけど、光属性や闇属性、無属性の基本八属性に含まれるこの三種は他の五属性に比べ数が限られるらしい。当然ながら亜種三属性はさらに少ない。
この浄化魔法は光属性魔法が使えれば大抵の人が使えるといった簡単なものでは無い。浄化魔法が使える魔法士を大勢有している教会曰く「信仰心です」らしいがルルに言わせると「修行の賜物」との事。才能もいくらか必要だろうがやはり魔法を習得するなら修行らしいな。
「土地の広さが広さだから完全には浄化は出来てないだろうけど一旦はこれでいいでしょう。ところでこの物件の間取りとかは?」
「まずは土地の広さからですが、横三百二十メール、奥行二百三十メールです。次に建物ですが基本は平屋で、一部に二階があります。総部屋数は一階に食堂と浴室に居間、応接間に加えて部屋が七部屋です。二階には六部屋があり、寝室などに使える部屋は合わせて十三部屋となっています。加えて地下には食料庫と別で一部屋があります。これらは全て土地の右側にまとまっているのである程度ならば馬を放し飼いにできるスペースがあります」
「ふーん。この家って元は誰のだったの?これだけの土地、そうそう持てないわよ?」
「ここはとある公爵家の別邸として作られたのですが先の魔物の大暴走での影響でこの建物が放置されることになり、現在未完成の状態なのです。しかし、あくまでも公爵家にとっての未完成なので建物としては完成しています」
公爵家と言うくらいだからやっぱり豪華な装飾じゃないと嫌なんだろうな。偏見だけども。
「うーん、じゃあここの値段はいくらくらい?」
「確か、土地と建物含めて白金貨八枚ですね。……はい。やはりそうです」
彼女は手元の資料を確認し直してそう言う。
「白金貨八枚……」
俺は買ってもいいと思うな。実際金ならたんまりある訳だし。
見れば、マナもシャリアもなかなか好印象のようだ。
「みんな、ここで決めちゃっても良いかしら?」
「私は良いよー」
「私も構いません。ルルちゃんの好きなように」
「わかったわ。──買うわ。即金で良いかしら?」
こうして、俺たちは王都での拠点を手に入れた。広い拠点だ。さて、次は家具とかだな。
ちなみに、ルルが即金で白金貨を取り出した時に受付嬢がしばらく失神したのだがそれはまた別のお話。
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