ギルド長への要求

「で、だ。君たちをここまで呼び出したのは他でもない、赤煉龍フィルグレアのことだ。既にこちらに君たちの金銭報酬は届いているから……そうだな、何か入用なものは無いかな?」


 ギルドの一番立派な部屋に入り、座るよう促された後の第一声である。

 まあとりあえず怪しいな。報酬はともかく、既に色々貰ってるのにさらに「入用の物は?」と聞かれたら警戒するしかないだろう。確かに必要な物はあるにはあるが、わざわざ言って変に借りを作る必要も無いだろう。


「入用の物は?って言われても私にはなぜその龍と関連するのかがわからないのだけど。確かに報酬は貰ってるから龍に関しての質問は受け付けるけど」


「いや、全くそういうことではなくてだね。君たちが持ってきたこの手紙に書いてあったのだよ」


 彼は俺たちが持ってきたバルムントさんの手紙を見せる。


「彼とは長い付き合いでね。昔は同じパーティーで活動していたこともある。そこの鍛冶工房のロックとエヴトも同じでね。あと二人いるのだけどどこにいるのかは教えられない。まだ活動を続けているとしか言えないんだ。すまないね」


「へぇー。そういうことなら貸し借り無しの要求って解釈でいいのかしら?なら必要なものは二つあるから頼みたいのだけど」


 おっと、まさかここでそれを出すのか?


「まず一つめよ。私たち、王都に来てからそろそろ一月が経つのよ。それで数年はここに腰を据えるつもりだから拠点が買いたいの。マナに聞いたらギルドでは拠点とかも紹介してくれるみたいね。お金は知っての通りまああるから広めのを頼むわ。馬車とかも買いたいからね」


 まずは拠点を考えていたが上手くやったな。


「良いだろう。二つ目は?」


 ギルド長は手元の紙に何か二言三言書いていつの間にか彼の後ろにいた人に手渡した。マジで気配も何も無かったぞ。誰なんだ?


「二つ目は……まあ良いわ。黒龍、もしくはそれに類するものの情報をちょうだい」


 ルルは一瞬マナの方を見ると、杖を持ち上げ、何かを呟いた。マナのまるで眠るように意識を失うと彼女はそのまま続けた。シャリアと同じようにはするまいと思ったのだろう。


「…………ほう?」


 お、今まで笑顔だったのに表情が変わったぞ。これは知ってる顔だな。でも絶対それだけじゃないと思う。


「何となく気づいてるんじゃないのかしら?」


 ギルド長は、はぁ、と息をつくと頭を下げた。

 

「改めまして、王国ハンターギルド本部ギルド長を務めているヴィル・ガードレアと申します。この度はルルフィリア=フーレン伯爵令嬢様に多大な無礼を働きましたことどうか御容赦を。そして、ご無事であることを心よりお喜び申し上げます」


「はい。ですが私は既に一度死んだ身。故に今は平民のルルです。なのでそうかしこまる必要はありません。さらに言えば特級ハンターならば王族にさえ頭を下げなくて良い立場。尚更そうする必要はありません」


 おお、ルルが久しぶりに貴族っぽい喋り方をした。シャリアは彼女が貴族だって知ってるから驚いてないけどマナは何も知らないからな。もし知った時どう対処するのやら。まあ今は眠らせているからこの場では知られないことは保証される。


「はっ。では黒龍についての情報を。フーレン伯爵家領都襲撃後にはどうやら東部を経由し、北部へ向かったとの情報があります。目撃情報もすべて『黒龍らしき影』になってしまうのですが……その確認された都市ではその都度小規模ですが調査隊が編成されました。そして結果は黒龍その物は確認出来なかったのですが痕跡は存在していました。そのためこれは国の上層部のみの情報となるのですが、現在は北部のどこかには存在していると思われます」


 この人は貴族に対しては随分とかしこまるな。別にルルが言ったように俺たちはもうそんな立場じゃないのに。


「しかし、定期的に、かつ秘密裏に行われている調査ではここ数ヶ月は痕跡すら見つかっていない。現状は他大陸に移動したとしているが……と、今はこれぐらいの情報がございません」


「ありがとう。あと、これからは私にもいつも通りに接してちょうだい。貴族みたいにされるとむず痒いのよ」


 ルルは手元の紙に色々メモしながら答える。


「わかった。そう言うならそうしよう。で、君たちの拠点はいくつか候補があるから明日もう一度来て欲しい。黒龍に関しては我々とてそこまで情報が無いのだ。それにこれは国家機密。くれぐれも外部には漏らさないで貰いたい」


 ルルは彼の言葉に頷く。


「ありがとう。じゃあこれで話は終わりかしら?」


「うむ。疲れているのにわざわざ済まなかった。今日はゆっくりと休んでくれ」


「じゃあそうさせてもらうわ。みんな、帰りましょ」


 ルルの声で俺たちは立ち上がり、ギルドを後にする。ようやく目が覚めたマナも宿を同じにするということで、移動の最中に俺たちの事情(もちろん、黒龍や俺たちが元貴族だってこと以外だ)を話してマナが納得と驚きの声を上げたのは言うまでもないのだった。

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