正式に赤タグへ

「なるほどね。あれは対大型魔物用の攻撃兵器なのか」


「うん。ヤマトの銃と同じように金属の球を飛ばしてるみたいなんだけど使ってるのは火薬じゃなくて火属性系の魔法みたいだね」


「そんなこともわかるのか?」


「さっき横を通った人が火属性魔法に特化させた杖を持って壁を登ってたから」


 俺たちは馬車に乗って王都に帰ってきたのだけど、この前見えた壁の上の筒について話している。御者さんに教えて貰ったら対魔物用の武器としかわからなかった。でもルルは前に聞いたことがあったみたいでそれなりには細かく教えてくれたのだ。


「火砲では無いけどそれに類するものか……そもそも火薬自体が鉱山くらいでしか使われてないから爆発そのものを武器に転用はしてもそれで何かを飛ばして飛び道具にしようとは考えなかったんだな」


 この世界ではドワーフが初めて銃の原型を作り出したことはわかっているし、そのレプリカの一つがかつて俺が使っていたものだ。だがそれは数がごく少なく、バナークさんは衛兵が持っている程度と言っていたがそんなことは無かった。おそらくはどこかの倉庫に仕舞われっぱなしなのだろう。それでも数は両手で数えられるほどだろうが。

 まあそんな感じで銃そのものが広まらなかったから火砲というものも廃れ、ようやくどこかの誰かが似たようなものを考えついたという感じだろうか。


「魔法を使ったバリスタは色んな都市にあるからヤマトの言う火砲って言うのは確かに広まらなかったのかもね。実際弩の方が遠くまで飛ぶみたいだし」


 そりゃそうだろう。多分風属性魔法で矢が飛ぶのを補助したりすれば普通に飛ばすよりは遠くへ届くだろう。 

 火砲、まあ今更だが大砲の事でこれにはニュートンの運動の第三法則が関わっている訳だ。一言で言うなら作用反作用の法則だな。要は鉄の球を飛ばすにはそれ相応の量の火薬が必要だから割に合わないということだろうな。確かにその大砲に付与魔法なりすればいいんだろうが……そこまで考えてもしょうがないだろう。だってもうギルドに着いたんだし。




「到着しましたぜ。また機会があれば乗ってくれや!」


「ありがとうございました」


 全く、ルルにもシャリアを見習って欲しいな。ちゃんとお礼をしているじゃないか。それなのにルルときたら……


「はぁ……昔は素直で良い子だったんだけどな」


「お兄ちゃん、老けた?」


 マナよ。俺はまだ十四歳だぞ。まあ一週間後には十五歳だが。あ、そういやもう年末か。


「このコートは基本暖かいから忘れてたな。主に人の熱でだけど」


 年末だと言うのにギルドの扉を開けるとムワッとした空気が出てくる。一応暖炉っぽいのは設置されているのだけどそれ以上に中にいるハンターたちの体温で温度が高い。はっきり言うと暑苦しい。


 カウンターの方まで行くと、……えーっと誰だっけ?


「ヤマトさん、ギルド長ですよ。名前は忘れましたけど」


「うーん、わからんからまあいいか。──ギルド長、とりあえず依頼の長尾熊テールベアーは討伐してきた。討伐証拠の爪はルルが持ってるから貰ってくれ」


 ルルがギルド長にポーチから取り出した鋭い爪を渡す。


「うん。確かに長尾熊の爪だな。四人とも、試験は合格だ」


「試験?って言いたいところだけど納得ね。体のいい依頼処分なんだから」


「バレてしまったか。どうしても長尾熊は依頼が残ってしまうからね。こうやってでも依頼は解決していかないといけない」


 帰り道にルルが教えてくれたけどやっぱり依頼処分だったんだな。


「ともかく、これで君たち四人は正式に赤タグへの昇格だ。おめでとう」


 正式に赤タグへの昇格?


「ギルドでは確かに今までの活動などから昇格を行っているけど、最初に受けさせる依頼があって、それが昇格試験代わりになっている。失敗したら昇格取り消しとかは無いがね。ただ一個上の青タグになるまでが遠くなるだけだ」


 なるほど。つまり俺たちは依頼を達成したからちゃんと活動してれば青タグには上がれると。まあそれ相応の実力も必要になるんだろうが。でも赤タグへの昇格で失敗するのはいるのだろうか?確かに今回は長尾熊だったが当然他にも試験になる依頼はあるはずだ。それにどうやら赤タグ昇格の頃には約六人程で組んだパーティーが固定で活動を始めるから連携なども取れているはず。俺たちみたいな遠距離にかなり頼ったチキン戦法はしなくてもいいはずなんだよな。


「君たちみたいに長尾熊テールベアーが試験になるのは結構珍しいからね。基本、試験は失敗しないと思っていい。青タグからはそれなりには難しいのだがね。まあこれでさっきも言ったが赤タグ昇格だ。……と終わりたいのだがね。少しだけこちらに来て欲しい」


 なんだろうな。嫌な予感といい事が起こりそうな予感がしている。できれば行きたくないのだけど……


「ヤマト、諦めよう?マナたちもあの人について行っちゃってるし」


 はぁ……俺、もう疲れたよ。なんか知らんけど王都に帰ってきてから三人の様子がおかしいんだもの。

 ルルはテンション高いのか先に行っちゃうしマナはまだよくわからんけど天真爛漫と言うよりかは自由だし、シャリアも何故か先に行っちゃうし。ルルがこの場に残ってくれたのは良かったけどみんな少しは怪しいとか思わなかったのか?


「なんというかね、私たち全員赤タグになるのがちょっとした目標だったから。シャリアだってお爺さんを目標にしてるし私だって黒龍以外にも目標はある。マナだって何かあるはず。ようやくこれで一人前って認められるんだから興奮しちゃうよ?」


 それもそうか。あんまり実感がわかなかったけど赤タグで一人前なんだっけな。それならしょうがないか。


 俺はそう納得して先に行った二人を追いかけ、上に登る階段へ向かうのだった。

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