長尾熊討伐完了
ヤマトの射撃で長尾熊が倒れるのを確認すると同時にまたシャリアとマナの二人が斬り掛かる。
時折血が飛ぶから刃は通っているのだろう。だが致命傷にはなり得ない。
「なんにせよ、辛うじて私の魔法が通ることが幸いね」
来る途中で御者の人に聞いたら、
しかも何とか討伐しても皮以外まともに売れないから旨みもない。そんなのだからみんな依頼を受けようとはしない。でもたまに畑とかを荒らしたりすることがあるみたいで討伐依頼はそれなりにあるらしい。
それにそこまで強力な魔物では無いから変に報酬を上げることは無理だから報酬狙いのパーティーが受けることも無いという悪循環みたいね。だから私たちみたいなパーティーの試験に使われるのかしら。
「まだ拘束魔法は使わない方が良いし、身体が小さいせいで下手に土属性系の魔法は使えないわね。シャリアたちに当たるかもしれない。なら水属性かしら」
私は杖を構える。ヤマトが銃を構える時地面と水平にしてるから私も真似する。こうすると魔法が当たりやすい気がするのよ。
「──水無き地に水を、乾きを恐れる我らに救いを、我らに恵みを、阻むものを砕く技を与えよ。〈
水属性中級魔法、水豪槍。
下級魔法である〈
ヤマトに言わせると「なぜ英語とラテン語なんだ……?言語が統一されてない訳じゃ無いし……」ってブツブツ言ってたけど英語とラテン語って何なのかしら。それに言語が統一されてるのは当然なのにね。何故かは知らないけど。ま、今度聞くとしましょう。
今は長尾熊よ。シャリアとマナを避ける位置から放ったからどうしても背中に当たってしまうけど貫通力が高い魔法だったからそれなりにはダメージが入ったはずね。
水でよくわからないけど血が流れてるみたいだから傷は付いたようね。でも立ち上がった長尾熊にとってはまだ軽傷みたいね。
でも長尾熊は本当はこんなに弱くないはず。まだ一度もあの尾の攻撃をしてないから。ヤマトが足を攻撃して倒してるのもあるはずだけどそれでも爪とかの攻撃も少ない。油断しない方が良いわね。
「うーん、じゃあ一応追加で光属性魔法も撃っとこうかな。シャリア、マナ!一旦離れて、ちょっと大きいの撃つわ!──煌めけ、我が望むは柱、熱と光、雷撃の如く激しい力をここに。〈
長尾熊の上に光球が浮かぶ。私が少し杖を動かすのに合わせてその光球も動くけどこれは最も当たる位置を探してるだけ。長尾熊はそれに気づかずに威嚇をしている。
「照射」
その声と同時に光球が縦に細長く変形する。すると、下の先端部分から光球の直径と同じくらいの太さの光の柱が出現する。真下の長尾熊はさっきの魔法で出来た傷に魔法が直撃し、また倒れ込む。見ると、背中がそれなりには抉れて骨が見えてるわね。あと少しかしら。
この魔法は光属性中級魔法〈
下級魔法〈光球〉の発展系でありながらも亜種に近い魔法だ。何故なら、光属性系の魔法でありながら風属性魔法との融合魔法でも放つことが出来、亜種三属性に含まれる雷属性魔法が含まれるからだ。本来の雷属性魔法とは違い、あくまでも性質を含んでいるだけだから相手をしびれさせることも無い。ただ雷撃などと同等の威力はあるから現状の私の最大火力の一つね。
でも難点があって中級魔法は総じて発動までが長いのね。私の扱える光、水、木、土の四属性で修行の甲斐があってどれも中級魔法までは修めたわ。でもまだ知らない魔法もあるみたいだから下級魔法も訓練しなきゃいけないけど。上級魔法はまだまだ遠いわね。
「これで!マナちゃん!」
「はい!はあぁぁっ!」
シャリアが短剣を背の傷に突き立て、マナも同じように剣を刺す。刃渡りの差でマナの剣の方が深く刺さる。だから止めはマナかな?
「くっ!これ以上……刺さりません!」
マナの剣が長尾熊の筋肉などに阻まれて真ん中辺りから進まなくなってるわね。どうしようかな。まあ私が何か出来るわけじゃ無いんだけど。
「マナ、私に任せて……はっ!」
シャリアが自慢の脚力で飛び上がり、突き刺さっているマナの剣に踵落としを食らわせた。マナの剣は柄の先端が平らだから当てやすいだろう。
その攻撃によってマナの剣は根元まで深々と突き刺さった。
「グオォォッ!!」
しかし、長尾熊は最後の意地なのか無理やり立ち上がると足を踏ん張り、その長く太い尾を持ち上げた。
長尾熊の代名詞とも言える振り回しだ。今までその攻撃をさせないように立ち回って来たけどついにやるようだ。
でもまだ足元にマナが!
「マナ!早く避けて!」
シャリアがマナに向けてそう叫ぶ。
私やヤマトは遠距離専門だからそもそも問題無く、シャリアはその脚力で強引に脱出することが可能。でもマナは普通の少女だ。剣の腕は凄まじいようだが身体能力が追いついていないらしい。そのせいで脱出が遅れたのだ。
「まだ使わない予定だったけど……詠唱省略、〈
私は自分が会得している中で最も発動とそれが対象に作用するまでの時間が短い拘束魔法を発動させる。周囲数十メールが草原などで草花などが多量に存在している状況でしか発動できない、そして一度使うと二度目はその場では使えないという条件はあるが。
地面から飛び出た大量の根が持ち上げられた尾を包む。もちろん、この程度では止められるとは微塵も思っていない。単にマナが脱出出来る数秒を稼げればよかったのだ。
「グォッ!?」
自分の思ったように尾が動かせないだけで驚くのは当然だろう。何より長尾熊はその尾に筋肉などが密集していてかなりの重さだ。
長尾熊自身、尾を振り下ろすために体重移動していてちょうどいいバランスが保たれていたのだ。それが一瞬止められただけで崩された。自身は振り下ろすために後ろに倒れているのに尾だけはその場に残っているのだから長尾熊はひっくり返るのは当然なのだ。
「止めは貰うわ。──大地を讃えよ、其れは爪、母たる御身の護りの
目の前の土が盛り上がり、次の瞬間ものすごく勢いで地面から角の様なものが三本飛び出す。それはまるで鉤爪のようで、真下から
この魔法は土属性中級魔法、〈
目の前で起きている通り、地面などから岩の爪を生やして敵を貫く大技だ。今回は一節分多く詠唱した為に長尾熊を貫く速度と威力を上げるためのイメージをより強固に出来た。しかし、この魔法の本質は攻撃ではなく防御にある。出現した爪は複数あるため、そのものを障害物として利用することも出来る。さらに爪の出現位置はある程度決められるため、目の前にまとめて出現させれば壁ともなるのだ。
魔法の分類としては物質的な壁を生成して攻撃を防ぐ物理結界などされている。あくまでも防御の結界なので本物の結界とはまた別の意味合いではあるのだが。
「る、ルルちゃん……」
「ルルお姉ちゃん……」
目の前で巨大な長尾熊が地面から生えた巨大な爪に貫かれて宙に浮いているのはなかなかの衝撃なのだろう。
でも二人は半目でこちらを見つめてくる。
「と、とにかくこれで依頼は完了ね!あとは討伐証明を取らなきゃいけないから……はい、今から頑張ってこれを崩すので手伝ってください」
私は調子に乗って使った土属性魔法の後処理をする為に頑張って魔法を爪に当て続けたのだった。
……だって、中級魔法がお披露目出来たんだから使いたくなっちゃうじゃない!
そう、これはしょうがなかったのよ!
その日は草原に少女の泣き言が響き渡ったという。
「木属性魔法にしとけばよかったぁ〜っ!」
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