長尾熊討伐

「討伐依頼があった現場までは王都から二日と半日と言ったところだからあと数時間で到着するわね。この辺りは角猪ホーンボアが生息していたりと初心者向けのフィールドがあるわ。だから早急に討伐して欲しいとの事よ」


 これから向かう地域以外には初心者向けのフィールドはいくつかあるが、近くにある多くが草原や森で、山のフィールドはそこしかないらしい。


「長尾熊は縄張りを決めたら毎日そこを周回することで過ごすそうです。今回の移動はかなり稀な事なので万一のことにも備えて欲しいとの事ですね」


 俺が調べた長尾熊の特徴は当然、長い尾だ。強靭な筋肉で構成され、表面を硬い皮と毛で覆われた尾は全力で振るわれると岩をも砕くという。

 さらにはその脚に備えた鋭い爪だ。長尾熊は高い脚力を有し、その突進を支える爪はスパイクとしても使われるのだ。当然それを攻撃にも使用する為、振るわれた爪をまともに食らうと金属鎧でも破壊されることもあるという。


「じゃあまずはいつも通りシャリアが先行して長尾熊を捜索。俺たちはその後をある程度離れてついて行き、発見と同時に戦闘態勢に移行する。俺は一旦離れて奇襲を掛けれる位置から狙いを定める。シャリアはルルたちと合流してくれ。俺が奇襲を掛けたらルルが拘束してくれ。その隙にシャリアとマナは出来るだけ柔らかい部分、例えば関節などを狙ってくれ。上手く行けば腱を潰せて動きを抑えられるからな。俺は出来るだけ動きを抑えるように長尾熊の動きを妨害するように撃っていくから」


 俺の長い説明をしっかりと聞いてくれた三人は改めて武具の確認に入っていく。


 俺は使用する弾を箱型クリップに込めていく。まず銃の中にフルメタルジャケットを六発込める。手元にある二つのクリップには鉛弾のみのとフルメタルジャケットのみを作る。


 ルルは魔法をいくつも展開し、発動せずに収束させていく。これは訓練だろう。


 シャリアは短剣の刃を確認したり投げナイフなどを確認している。そのナイフは店売りの使い捨てのものだ。


 マナも自分の剣を確認している。一度見せてもらったがやはりグラディウスのような剣だった。柄の先端は小さなおもり型で、地球のグラディウスとは違う。刃の幅が広く、鋭く光っているのでそれなりの業物だろう。マナ曰く、故郷の近くの街で買ったのだけど掘り出し物だったとか。


 到着まであと数時間。既に目的地の山は小さくだが見えているのだった。




「ありがとうございます」


「おう!そこの街道沿いで待ってるから終わったら教えてくれや!」


 ここまで乗ってきた馬車の御者さんに礼を言うと俺たちは早速目標を探し始める。


「今は昼前なので調査報告によるとこちらの方にいるようなのでまずはそっちを探してみますね」

 

 シャリアは小さな森の方を指さす。


「了解だ。怪我するなよ」


「もちろんです」


 そう言ってシャリアは駆けて行った。


「じゃあ私たちも追いかけましょう」


「そうだね。ところでお兄ちゃんたちは自分の馬車って買わないの?」


「馬車か……あんまり考えなかったな」


「私も考えなかったかな」


「馬車って高いからな。まだ必要無いんじゃないかって思ってたし」


 一応、買えるだけのお金は持っている。と言うか現状有り余っている。でもこの前ルルとシャリアの二人と話して馬車より先に拠点を買おうかと話したりもしたのだ。

 その事を伝えると、


「そっかー。でも馬車のなかにも拠点になる種類があるって聞くよ?」


「そう言うのは強い馬を数頭使わなくちゃならないのよ。するとエサ代がバカにならなくてね。それだったら先に拠点を買って単に移動用として使える馬車を後から用意すれば良いんじゃないかってなったの」


「そっかー。なら今度ギルドで聞いてみたら?いい拠点とか教えてくれるかもよ?」


「そうなの?」


「うん。私はいつもギルドがおすすめしてくれる宿に泊まってるんだけど、たまに拠点を探してる人たちがいるとギルドがいくつか用意してくれるの。赤タグとなると結構拠点持ってたりすることが多いから帰ったら聞いてみたら?」


「そうね。考えてみるわ」


 そんな感じで一時間程歩いているとシャリアが帰ってきた。


「向こうに一キールほど行った辺りに長尾熊がいました。こちらに向かってきているので少し移動してから待ち受けましょう」


「了解。じゃあ作戦通りにね」


「わかったよ。シャリアお姉ちゃん、よろしくね」


「はい。任せてください」


「じゃあ俺は少し離れるわ。気をつけてな」


 そう言って俺は三人から一旦離れて長尾熊の元へ向かう。

 十分くらい走ると俺が元いた位置の方へ歩いている長尾熊を発見する。


「デカイな。大体全長三、四メールくらいか。でもそのうち二メールが尻尾とか、しかもそれを常に持ち上げているだと?筋肉量ふざけたことになってんだろうな」


 身体と同じくらいの長さを持つ尻尾を引きずらずに持ち上げて支え続けるのはかなりの労力のはずだがそれを苦もなく行っていているのだから尾の一撃で岩を砕くというのは本当なのだろう。


「なら尾を狙いたいとこだがそもそも弾丸が通らないだろうな。筋肉の鎧なんて漫画とかだけだと思ってたぜ」


 ゆっくりと数十メール先を歩いていく長尾熊テールベアーだが、後ろから見るとその筋肉量がよく分かる。その部分だけ毛の色が違うから筋肉で盛り上がっている部分がハッキリとしているのだ。


「シャリアたちもそろそろ近くにいる頃だろう。なら後ろ足の膝の裏だな」


 関節というのは大半の生物の弱点だ。もちろん関節が存在しなかったり関節を覆うように甲殻などが発達した魔物には無意味だ。


 俺はゆったりと歩いている長尾熊の後ろ足に狙いを定める。

 すると、向こうの方にシャリアの白い髪が見えた。長尾熊は気づいていないらしい。野生の動物でもこれくらいの距離まで近づかれたら気づくものだがどうやら油断しているようだ。

 ならば、その油断を利用させてもらおう。


 俺はしっかりと膝の裏を狙い、引き金を引いた。



 ……命中だ。

 膝の裏のから血を吹き出し倒れ込む。


 グオォォッ!!と叫び声を上げているが、おそらく膝の骨にヒビが入っているはずだ。なら下手に動かすと折れるから俺たちはそれを待てば良いだろう。


 そこに追い討ちをかけるようにルルの拘束魔法が発動する。地面が盛り上がり、脚などを巻き込んで固定していく。その中には尻尾も含まれていて、一時的にだが一番の武器を封じられたことになる。


 続けてシャリアとマナの斬撃が加わる。先に到着したのはシャリアの方でどうやら拘束魔法を利用して足を重点的に狙うようだ。対してマナは首などの重要な部分を狙っている。


 なら、次に俺が狙うべき場所は……


「命中っと。弾丸の座薬なんざ要らねえだろうが」


 当たったのは熊のお尻だ。口悪く言うならケツだ。

 これもまあ見事に当たって血を流している。十メールと無いくらいの距離から撃ったのだから当然だな。やはり〈射撃〉スキル様々だな。あくまでスキル名しかわからないのがなんとも言えないが。


「あと七秒で拘束が解ける!しばらくは拘束し直せないから注意!二、一、今!」


 ルルの声に従い、俺たちは一旦長尾熊から離れる。

 如何に足を潰そうとも相手は魔物だ。何があるかわからない。


「ヤマトさん、左後ろ足の膝は完全に砕けてました。ですが、私たちの攻撃では硬い毛と皮を切り裂く事が難しいですね」


「シャリアの短剣でもか?」


「はい。刃は通るのですが刃渡りが足りなくて」


 二十セールはある刃を持つ短剣を扱う彼女だが、彼女の技と龍の短剣を用いても致命傷は与えられないか。


 今はルルが魔法で牽制をしたり、マナが後ろから切りつけている。でも早いとこ倒さないとルルの魔力が持たないだろう。


「わかった。もう一度足を狙う。今度は右だ。もし倒れたら前足の肘?膝?どっちだかわからないがとにかくそこを狙ってくれ。ただし一撃離脱にしろ。その方が安全だ」


「わかりました」


 そう答え、彼女は俺から少し離れた位置ですぐにでも走り出せるように構えた。


 じゃあ俺は早速右膝に弾丸を撃ち込むとしよう。


 そうして、広い草原に雄叫びと重量物が倒れる鈍い音、そして破裂音が鳴り響いたのだった。

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