四人目
「これで依頼の討伐量は達成ね」
目の前には十二体のゴブリンの死体が転がっている。今回の依頼での討伐数は計十九体。討伐数に応じて報酬の増加有って書いてあったからいくらかは多く貰えるだろう。
「でも危なげなく終わることが出来ましたね。私としても前衛が増えることには賛成です」
「そう……」
ルルにはこの討伐現場に移動するまでの間に説得を試みていた。彼女は何となく納得していそうな反面、なにかに葛藤しているようだった。
「ルル、別に俺は『お兄ちゃん』って呼ばれたことに対してパーティーに加えることを提案した訳じゃ無いぞ。ルルもわかってるだろ?」
「理由もわかってるし私もそれには納得したわ。でも、どうしても曲げられないことが乙女にはあるのよ!」
ふむ、わからん。それはいわゆる乙女心ってやつなんだろうけど。
「えっと……私はこのまま皆さんと一緒にやって行けたら嬉しいです」
「確かにね、私も魔法の発動を急がなくて良くなったから戦いやすかったわ。でも……なんというか……」
頭を抱えているが、何を悩んでいるんだか……これも乙女心ってやつか?
「ルルちゃん、今は取られるかもとか考えてる場合じゃ無いと思いますよ」
「あの……ダメですか?……お姉ちゃん」
「はうっ!!」
あ、ルルも倒れた。
ルルよ、わかったか?年下の少女からお姉ちゃんと呼ばれることの恐ろしさを。シャリアなんて小声で「マナちゃん……恐ろしい子」なんて言ってるぞ。
「あ、ああ……」
ルルが胸を押さえて震えている。
「おい、ルル?」
「ルルちゃん?どうしたんですか?」
「ルルお姉ちゃん?」
あ、さらに蹲った。マナよ、話が進まないからしばらくやめてあげてくれ。あとゴブリンの討伐証拠もまだ取り終わってないんだからさ。
「大丈夫よ……ただ胸を完璧に撃ち抜かれただけだから」
うん。ルルも大丈夫みたいだな。全く俺と同じ状態になったな。つまりこの後来る言葉は、
「みんな、一つ伝えたいことがあるわ。みんな、マナを私たちのパーティーに加えましょう」
ほらな?
「まあ……私は良いですけど」
「じゃあ決まりね!早速王都に戻って歓迎会よ!」
ルルは機嫌が良くなったようで手際よくゴブリンの耳を切り取っていく。
ちなみに、ゴブリンの血というのは服につくと絶対取れないと言ってもいいくらいの汚れと臭いが付くから絶対に血を受けてはいけないのだ。だから今回の依頼は一切の怪我もない。俺とルルは遠距離に徹してたから当然として、シャリアとマナは血が吹き出る首を狙わず心臓をできるだけ一突きにして倒してきた。
ゴブリンの討伐証拠を取る時も同じで、普段使ってるグローブを使わず、適当なボロ布で作られた厚めの手袋を使っている。この手袋も雑貨屋で売られているもので、とんでもない安値なので使い捨て可能なのだ。
「これでゴブリンの討伐証拠十九体分の確保完了。じゃあ早速王都に戻って美味しい物を買わなくちゃ!」
ここから王都までは徒歩で二時間は掛からないくらいだから日が沈むまでには到着出来るだろう。
さて、のんびり帰るかな。
「あ、依頼完了したんですね。お疲れ様です」
日が沈む前には王都に到着出来た俺たちはそのままハンターギルドへと向かった。まだ夕方のピークの前だから空いている。
「はいこれ、ゴブリンの討伐証拠十九体分よ」
「では確認しますね。……はい、確認しました。依頼の討伐数を四体多く討伐しているので大銀貨一枚と銀貨六枚が追加報酬ですね。こちらがまとめた報酬になります」
受け付け嬢が報酬の入った袋を渡してくる。はっきり言ってかなり軽い袋だ。でもおそらく初心者には高めなんだろう。これからはこういう依頼は他の人に回してあげるべきだろう。
「あ、ちょっと待ってください。皆さんに少しお話がありまして」
俺たちは今から飯でもと思っていたところを受け付け嬢に止められる。
「皆さんに受けてもらいたい依頼があるんです」
「それは何かしら?でも、さすがに今からは出かけないからそこはよろしくね」
「はい。それはわかっています。皆さんに受けてもらいたい依頼はこれです」
そう言って差し出されたのは討伐依頼だ。そこには
「あ、ヤマトさんこれって」
「燃石買った店のオッチャンが言ってたな。燃石の採掘場に居座ってるって」
俺は前に雑貨屋で聞いた話を思い出す。
「ご存知でしたか。現在その魔物は採掘場から移動して王都から西へ向かう街道にある小さな山や森などが集まった地域の入口に居座っていて既に被害が確認されています。その道は西部統一域の入口である魔法都市へ向かうことが難しくなっています」
魔法都市。学園都市の姉妹都市のような立場で、学園都市が教育なら魔法都市は研究である。卒業者が魔法都市の研究員になったり、魔法都市の研究者が学園都市の教師になったりするつまりウィンウィンの関係なのだ。
「でもなぜ私たちに?他にも赤タグのハンターはいるでしょう?」
依頼書には赤タグ以上とあるから俺たちでも可能だ。でも俺たち以上の実力の赤タグも居るだろうし何なら青タグとかもいるはずだ。
「それが……ギルド長からの指示で、あなたがたにこの依頼を受けさせろとしか」
「色々言いたいことはあるけれど、報酬は良いし期間もまだ長いから私は受けてもいいと思うわ」
依頼者は王都の商業ギルドだが期間が今日から三週間だ。まるで俺たちのために用意してたような期間だな。
「なんか納得いきませんけどルルちゃんが良いなら私は良いです」
「私も良いよー。お兄ちゃんとルルお姉ちゃんが良いならだけど」
マナのお兄ちゃん、お姉ちゃん呼びに受け付け嬢が眉をひそめたがどうやら気にしないことにしたらしい。
「では契約金として銀貨六枚を頂きます」
緑タグの討伐依頼ではあまり見られないのだが、赤タグ以上の討伐依頼は契約金という物が発生するのだ。大体が報酬の何分の一かと言った程度でそこまでは高くないのが普通で、今回の場合はおそらく報酬は金貨六枚は堅いだろう。ん、あれ?
「はぁ、まあ良いか。どうせバルムントさん辺りの差し金だろうよ。もしかしたらミードさんも関わってるかもな。どうせ
俺は後ろを向きながら問う。
「正解だ。初めまして。ラナンサス王国ハンターギルド長の〈白月〉ことヴィル・ガードレアだ。よろしく頼むよ」
振り返るとそこにはバルムントさんと同じくらいのナイスミドルがいた。でも確実にバルムントさんよりは強い。
それに〈白月〉ね。二つ名ってやつか。基本的に二つ名は本人の扱う武装や魔法、討伐した魔物や種族をモチーフとしているのだという。ギルド長は人族だし立ち姿から恐らく剣士だ。片手剣だろう。当時の姿を知らないからなんとも言えないが、おそらく討伐した魔物と言ったところだろうか。
「なるほど。君はなかなか見る目を持っているようだ……ねっ!」
「くっ!」
クソッ!速い!
ヴィルさんがいきなり俺に向けて貫手を放ってきた。右の貫手で心臓を狙っていたそれを自分の左手を何とか下に滑り込ませ俺自身も右に動くことで何とか避ける。
数メールは離れていたはずだが一気に肉薄されたことから縮地と言うやつだろうか。
「流石だね。今の一撃を流すとはね」
今の一瞬の攻防で静まり返ったギルド内で声が響く。
「思いっきり手加減しといて何を言うか。あんたなら俺が対応するまでもなく今の一瞬で心臓をぶち抜けただろう?」
「まあな。だが、私がこのギルド長という立場に就任してから二十年近く経っていて、優秀だと思った者達には今の一撃をやってきたのだけど対応出来たのは君だけだよ」
なるほど。一種の試験か。
「では改めて、私、ヴィル・ガードレアは貴殿に
こうして、パーティーにマナを加えた俺たちは王都ハンターギルド長ヴィル・ガードレアからの長尾熊討伐依頼を受けることとなったのだった。
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