ゴブリン討伐

 公開から一年が経ちました!これからもよろしくお願いします!


***************************************************



「ふふっ、マナちゃんは足が速いね」


「えへへー、そうでしょ?お兄ちゃんは足は速い?」


「ん?いや……そこまでじゃないな」


「ふーん、じゃあ私が教えてあげるね!まずこんな風に胸を張って……」


 俺は彼女の言うように胸を張りながら思う。なぜ、こうなった?と。




 時はしばらく遡る。

 あれは、俺たちがゴブリン討伐の依頼を受けて出かけようとしていた時だった。


「あ、少し待ってください。さすがに赤タグとはいえ三人では依頼に出発させることは……」


 そう受け付け嬢から言われたのだ。


「でも私たちは中間都市にいた頃も三人でやってたわ。何か問題でも?」


「い、いえ……ここだけの話、あなたがた三人に一人パーティーに加えて頂きたい方が居るんです。幼いながらも実力があり、ソロでもパーティーでも実績を残しているのであなたがたと同じ赤タグなのですが」


「で?私たちは普段から三人でやってて連携も三人でやることを前提としてるわ。そこにいきなり一人加えて欲しいって言われてもなかなか無理があるわよ」


 おお、ルルがなかなかの強気だ。でも一人加えることに何か嫌なことでもあるのか?まあ言い分も分かるから何も言わないが。


「む、無茶を承知なのはわかりますしハンターとは大抵固定のパーティーで行動するのは当然だと思います。ですがここに書いてあるんです。『彼らが依頼を受けに来た場合、彼らに見合った実力の者を一人パーティーに加えるように』って」


 そう言って受け付け嬢が出したのは俺たちが持ってきた手紙をだ。マジでそう書いてあんのか?


「………本当ね。確かに書いてある。しかも理由が無茶をさせないようにって……完全に後付ね。この理由は。大方、規則とかで三人じゃまともに依頼をこなせないからでしょう。特に赤タグ以上の依頼だとね」


 なるほど。三人では受けれる依頼も限られるからか。確かにウルフ系の討伐依頼は緑タグなどの初心者向けだから少人数でも受けれるが、ゴブリン討伐は緑タグで初心者向けではあっても数が増えると危険になる。それでも初心者でも達成可能だ。

 でも俺たちは赤タグで緑タグよりも受けれる依頼の幅は広い。赤タグには護衛依頼だったりいくらか強力な魔物の討伐依頼も出てくる。さすがにそんな依頼だと三人では無理があるな。つまりそろそろ仲間を増やさないとこれからやっていけない訳だ。


「わかったわ。一人加えるわ。で、それは誰?」


「えっと、酒場で待ってると言っていたのですが……あ、いました。あそこで座ってる小剣二本を持っている黒髪の人です」


 受け付け嬢が指を指して教えてくれた。

 あとアンタ、あの人後ろを向いていたから気づかれなかったが普通の人にはやっちゃダメだからな。




「あなたかしら?赤タグの実力があるって人は?」


 ルルが強気の口調で声をかける。

 初対面の相手に強気に出るのは相変わらずのルルの癖だな。最近は無くなってきたがかつて貴族だった頃はそれが顕著だった。彼女は生まれた頃から母親が居ないからな。貴族家のパーティーとかでは何か言われる前に舐められないようにしなきゃいけなかったんだ。なぜ片親かの細かな理由は言わないがまあ何となく察せるだろう。

 貴族じゃ無くなってからはそうする必要が無かったから素の性格で話せるようになったのだけど……


「は、はい!赤タグのマナと言います!よろしくお願いします」


 ルルの声に振り返ったのは黒髪を前髪も後ろで纏めるタイプのポニーテールで結んだ活発そうな少女だ。革鎧をメインとして重要な部分にだけ金属が貼られている動きやすさ重視の鎧を身につけ、腰にはショートソードと呼ばれる部類の剣を二本差している。長さ的にグラディウスと呼ばれる剣な気がする。


「私たちが今から受けるのはゴブリン討伐の依頼よ。あなたはそれでいいかしら?」


「はい。大丈夫です。ゴブリン討伐なども経験があります」


「なら早速出発するけどあなたは準備などは?」


 マナと名乗る少女は背嚢を背負っている。小さめだが中に色々詰め込めるようになっているのだろうか。


「私は大丈夫です。ゴブリン討伐なら日は跨ぎませんから食料なども大丈夫です」


「じゃあ行きましょ。討伐地域は指定されてないけどそれなりには行かないと出てこないでしょうし」


 俺たちはマナをパーティーに加え、王都から出発した。


「えーと、ヤマトさん?で良いですか?」


 俺たちは王都を西側に出て街道沿いを歩いていた。門の衛兵に聞いたところここから街道を五、六キール程行ったところで目撃情報があったらしい。ならまずはそこを目指すべきだろうと言うことでそちらに向かっている最中なのだ。


「別に呼び捨てでも構わないぞ。別に何とでも呼んでくれ。いちいち長ったらしい名前呼ぶのも大変だからな」


「あ、はい。じゃあ……お兄ちゃん……で良いですか?」


「っ!?」


 俺はすぐに胸を押さえた。何故かはわからないがものすごい衝撃だったのだ。初めての感覚と言うか、なんというか。確かに地球にいた頃の前世ではそう呼ばれたことはあったがこちらでは初めてなのだ。

 効果音を付けるなら「ズキューンッ!!」だろう。


「あ、ああ……、お、お兄ちゃん……だと」


「はい。お兄ちゃんじゃ……ダメですか?」


 ズキューンッ!! ドサッ


「や、ヤマト!?どうしたの、いきなり倒れちゃって!どこか悪いの!?」


 いや、俺はどこも悪くない。単に完璧に胸を撃ち抜かれただけだから軽傷だ。

 ただ年下の少女から穢れのない純粋無垢な瞳でこちらを見つめながら「お兄ちゃん」と呼ばれたことに対して俺が処理できなかっただけだ。

 

 ……一つだけ言うことがあるとするなら、



「ルル、マナを正式に俺たちのパーティーに加えようか」


 ただそれだけだ。




「来ました!ゴブリンが六……いえ、七です!」


 俺がキメ顔でそんなことを言ってルルがフリーズしていた所にシャリアの声が掛かる。


 十メール先の草原にに木を粗く削っただけのような棍棒や錆び付いて使い物にならなそうな剣を持ったゴブリンが七体いた。


 俺たちも三年近くもハンターをやってる訳じゃないのですぐに戦闘体勢に入ることが出来る。


「私は左の二体を殺ります。先頭のゴブリンはヤマトさん、お願いします」


「了解だ。先頭と最後尾は俺がやる」


「私は右の二体を担当しますね。お兄ちゃん、援護はよろしくね」


 胸がまた撃ち抜かれそうになるが何とか耐える。


「はぁ……私の出番が少ないじゃない。まあ良いわ。──光条よ、敵を撃ち抜け、〈光矢ライトアロー〉」


 詠唱はイメージが大事だから固定されていない。あくまでもイメージしやすくする為のものだからだ。


 さて、俺は既に銃を構えて狙いを定めている。

 ゴブリンの集団の中の一体にルルの魔法が直撃し、倒れる。胴体に穴が空いてるっぽかったから即死だろう。


 それに対しゴブリンは少し動揺する。これはほかの魔物でも同じで生物的な本能だろう。だから魔物を討伐する際は初撃を大きくすれば戦いやすくなるとされているのだ。


 俺はシャリアの要請通りに先頭のゴブリンの頭の中心を正確に撃ち抜く。距離は十メール程度しか無かったから外れる要素は皆無だ。スキルも絡んでいるからむしろ外れたら驚きだ。


 命中し、ゴブリンが倒れるのを合図に左右の二人が走り出す。シャリアはその自慢の脚力で一瞬でゴブリンたちの目の前まで接近し、両手に持った短剣を振るう。

 さすがのゴブリンもいくらか慣れたのか彼女の攻撃は避けた。しかし、彼女の自慢は速度である。空振りしたとしても強烈な蹴りがゴブリンを襲った。ゴブリンが顎に蹴りを喰らい吹き飛ぶが、彼女の後ろからゴブリンが近づいている。そのゴブリンは剣持ちだ。


「援護っと」


 俺は危なげなくそのゴブリンの頭を撃ち抜く。

 俺自身の位置も移動しているからシャリアに当たることは無い。


 ルルやマナの方を見るともう終わりそうだ。残りは最後尾のゴブリンだけでそれもルルが魔法で殺した。


 これでまずは半分だな。残り半分を探さないとならないけど近くにいるといいんだが。


「じゃあ私は少し先を探してきますね」


 シャリアが斥候らしく道を先行するようだ。敵を探すにしても先行している仲間がいるだけでだいぶ変わるからな。

 でも、今の戦闘でもわかったが俺たちにはもう一人前衛が必要だ。今まではルルの拘束魔法で押さえつけて討伐していたけど今回のゴブリンでわかったがこれからはそれが難しいだろう。もちろん拘束魔法は有用だが、ゴブリンは人型なだけあって獣よりかは知恵が回る。上位種ともなると魔法を予測して奇襲を掛けてくる個体もいるらしい。

 奇襲をかけられたら三人だと対応にかなり無理がある。シャリアは前衛で俺もある程度は剣をふるえるが、ルルが敵の前に晒されることになってしまうのだ。現状、ルルは俺たちの中では最高戦力だ。仮に魔法が使えないなんて状況には余程の場合出ない限りさせてはならないという訳だ。


 さて……そのことをどうやってルルに説明して納得してもらうかだな。


 俺はゴブリンの討伐証拠である右耳を集めながら少しずつ考えをまとめていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る