ラナンサス王国ハンターギルド本部
「じゃあそろそろギルドに行ってみるか?」
俺はさっき三時間毎に鳴る時刻の鐘の内、九時に鳴る二の鐘を聴いて二人に声をかけた。
「そうですね。まだ日も高いですし時間的にもあまり混んでいないと思います」
「じゃあそうしようか。ルルもそれでいいか?」
「んー?私はそれでいいよー」
振り向きながら彼女は答える。でも絶対聞いてなかったな。
「はぁ……じゃあ行くか。親方……は寝ちゃってるな」
マダム・ジュリーは既に帰り、親方達は全員大工房の中で突っ伏してる。相当疲れていたのだろう。
俺たちは手近にあった紙にお礼の言葉と代金は受付に預けておくことを書いてそこに置いておく。
服装を整えて武器を携えいつでも戦闘が出来そうな格好になる。
おさらいすると俺は中にグレーのシャツと黒革のズボンを履き、その上から胸当てを付け、腕と足も龍の鱗の鎧で覆っている。
ベルトには小さめのナイフと弾などを入れているポーチに薬などを入れているポーチを下げている。そこにロングコートを羽織り、さらにその上からベルト兼剣帯のものを肩から掛け、剣とナイフ、予備の弾を付け、肩には銃と物を詰め込んだ魔法袋を背負っているな。
ルルは中に藍色のワンピースと黒のズボンを履き、腰には薬などを入れているポーチを付けている。当然俺やシャリアと同じような鎧を付けている。その上にローブを羽織り、頭にはとんがり帽子を被って杖を持っている。
シャリアは中は俺と似た色合いのシャツとズボン、その上から動きやすいようにされた鎧とジャケット、腰にはポーチと短剣とナイフだ。腰には腰部分の鎧からさげられた革のパーツがついている。
まあこんなところだな。そうして、俺たちは一旦宿に戻るのだった。
「大っきいねー」
「はい……。前に港湾都市で見たのも大きかったですけどそれの倍はあります……」
「こりゃあ、予想以上だな……」
場所は変わって王都の中心付近。
目の前にはこの世界では珍しい三階建ての建物があった。それもビルのように細いわけではなく横にもデカい。イメージとしては東京駅だな。当然、古い方の。
さっき道行く人に聞いてみたらに貴族家並な大きさなんだとか。
入口も傷だらけの重厚な扉で出来ていて今もひっきりなしに鎧や剣で武装した人が出入りしている。
その光景にしばらく立ち尽くしていたが、さすがに邪魔っぽかったので中に入ってみる。
「うわぁ……!」
「これはびっくりですね」
「ここまでデカいとはな」
外見だけでも相当だったが中もかなり広かった。入口から見て右側に依頼が貼ってあるボードが何枚も並び、いくつか依頼受注用のカウンターもある。左側には巨大な酒場になっていてどうやら一時的なパーティーを組む時の待ち合わせ場所にもなっているようだ。今も多くの人が酒を飲んだり乱闘したりそれで賭けをしたりとやっている事は様々だが、全員ある程度のルールは守っているらしい。
そして正面にもいくつもカウンターが並び、その左右には上へ行く階段と奥へ行く道があった。カウンターの奥にも直接繋がってるスペースがあるっぽいから恐らく奥に別で訓練場見たいのがあるのだろう。
「ほら、早くしないともっと混んじゃうかも。それにようやっと赤タグに昇格出来るんだから早く行こ!」
ルルが一番はしゃいでいた気もするがまあ良いだろう。ルルが昇格を最も楽しみにしてたんだからな。
カウンターに向かうと、その人の多さがより顕著になる。だいたい十近くカウンターがあるがそのどれにも六、七人は並んでいる。まあ何人かは同じパーティーで組んでる人が居るだろうからパーティーの総数は少ないはずだ。なら、どこに並んだものか……
「どこに並んでも同じみたいですし……それにルルちゃんもう並んじゃってます」
シャリアの指さす先には少し人数が少なく見える列の後ろに並んだルルがいた。
はぁ……ならしょうがないか。
俺たちはルルと一緒に列に並ぶ。
どうやらカウンターで対応している人の手際がかなり良いらしく、列はどんどん進んでいく。確かにこれだけの人がいたらそれを捌く人の手際が良くなきゃやってらんないな。
しばらくギルドの中の酒場を眺めたりしながら列が進むのを待つことだいたい十五分、俺たちの番が回ってきた。
「こんにちは。今日はなんの御用で……って見ない顔ですね。今日来たばかりですか?」
「まあそんなとこだな。とりあえずこれ、前に居た街のギルド長から預かって来てんだ。担当に渡して貰えるか?」
俺はカウンターで応対してくれたピンク髪の受け付け嬢に中間都市で貰った手紙を渡す。表面には宛名とギルド長の証明などが書かれているから偽物などといちゃもんを付けられる心配は無い。
「分かりました。しばらくお待ちください」
後ろにも列が伸びてるんだけど大丈夫なのか?それになんか他のカウンターの受け付け嬢からなぜか哀れみの目っぽいのが向けられている。
「お待たせしました。まずこれが新しいタグです。次に報酬はどうされますか?」
だいたい十分くらい待たされて戻ってきたのだけどもう少し早く戻ってきて欲しかったと言わざるを得ないだろう。
だって後ろの殺気が凄いんだもの。さっさと他の列に並べば良いのに頑なに動こうとしてないし。大方、このカウンターの受け付け嬢でも口説いてるんだろうな。こういう場ではお約束だろうし。
「そうだな……それなりには貯蓄があるから金貨二十に大銀貨を十五、あとは銀貨、銅貨を四十ずつかな。それを頼む」
俺は赤色のタグを三人分受け取るとチラリと後ろを見ながらそう答えた。
「わかりました。ではまた少々お待ちを」
これでもしギルドから出たらおそらくお約束が起きることだろう。まあ起こすつもりもないが。
「ねえヤマト、このまま依頼受けていくの?シャリアが今見繕ってくれてるけど」
「うーん、近場であるならそれでも良いかなって。本格的に王都周りのフィールドを見て回るのは明日以降でも良いわけだし……」
シャリアは今後ろの方で依頼のボードを眺めている。王都近辺なら案外今まで受けたことの無いあの依頼があるかもな。
「お待たせしました。金貨二十枚に大銀貨を十五枚、銀貨、銅貨をそれぞれ四十枚ずつ。ご確認ください」
そう言って差し出された袋には十枚ずつに纏められた金貨に大銀貨、小袋に分けられている銅貨などが入っていた。確認は後でするとしよう。
「ありがとう。すまんな、待たせた」
後ろで殺気を出し続けている男にそう断ると俺とルルはシャリアの元へ向かう。
「はい、シャリアのタグ」
「あ、ありがとうございます。それで今いくつかちょうど良さそうな依頼を見つけたんですけど、これなんてどうですか?」
シャリアから一枚の紙を渡される。えっとなになに……
『 ゴブリン討伐依頼〈常設版〉
場所:王都近郊の草原地域及び街道沿い
依頼者:王都ハンターギルド
上記の通りこの依頼は常設のため他の依頼と同時に受けることが可能であるため留意されたし。
繁殖力が高いゴブリンのため、諸君らにはゴブリンの十五体の討伐を頼みたい。討伐証明は右耳、もしくは右半身にある部位である。
報酬:大銀貨六枚(討伐数に応じて増加あり)
』
だそうだ。実を言うと俺たちはゴブリンというものを討伐したことは無かったりする。シャリアはあるらしいが。
実はゲームなどでもよく出てくるゴブリンなどにも生息地は決まっていて、基本的に奴らは広い平原や小さな山や森などに生息するのだ。もちろん大きな山などに巨大な集落が発見されることもあるが、それは稀な事だ。
俺たちは貿易都市から中間都市、学園都市などを通ってきたが、ゴブリンが大量に生息するような地域はできるだけ通らないようにしてきたのだ。フーレニア近辺にもゴブリンの巣は無かったけどあれは街のハンターたちが討伐していたのだろう。ちなみに、オークやオーガなどもいるらしいが、それらは西の方にある荒野や海沿いに巣を作るらしくこの近辺には生息していないらしい。
「なるほど、ゴブリンね。私たちにはまずはちょうどいいかもね。狼とかは慣れてるけど人型は無かったもの」
「じゃあこれで受けてきますね」
そう言ってシャリアはさっきとは別の列に並んだ。何故かって?未だにさっきの男が受け付け嬢を口説いてるからさ。受け付け嬢はもはや定型文みたいな受け答えしかしてないってのが笑えるけどな。
さて、初めての人型魔物の討伐依頼だし気合い入れるかね。
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