幕間 謝る王

「頼む、少しでいい、話をさせてくれないか?」


「……………」


 これは、ここ数日でこの城に仕えるメイドたちの間で話題となっている事件についてほんの一幕をお見せしよう。



 王城のとある一室の前で何やら頼み込んでいる男の姿がある。どうやらなにか話をしたいらしいが、部屋の主は全く答えない。


「頼むよ……」


 別に浮気がバレた訳では無い。

 この男はこの国の王である。十年ほど前の失態により、娘とその親友の仲を引き裂いてしまったのだ。単に男の発言の仕方が悪く、すぐに言い直せれば良かったのだがもはや遅い。娘の親友がまだこの王都に居るのかも分からなければ、情報すらない。


 彼とてその親友には久しぶりに会いたいのだ。しかし自分のせいでこうなった以上それを口に出すことはしない。




「はああぁー……」


「今日もダメだったみたいだな」


 今日も今日とて執務室には王と宰相の二人だけなので会話は軽い。


「もうこれで一週間。食事もほとんど取ってないみたいだしなぁ……」


「反省はしてるからいいものの、してなかったら問題だな。まあこれを見れば一目瞭然だが」


 王は本気で落ち込んでるのだ。まるで娘に「嫌い!」って言われたお父さん並に落ち込んでいるようだ。





 また別の日


「お願いします。王女殿下ネルハ様。どうかこの国の王である私めの話を一言でも聞いていただけませんでしょうか?」


 昨日と体勢は変わっていないが、多少へりくだった言動になっているようだ。


さらにまた別の日


「至高の御方で仰せられる王女殿下。どうか一瞬でもよろしいのでお声をお聞かせ願います」


 これでもこの国の王である。何故か麻の服を来て部屋の前で土下座しながらなにかを言っているもはや哀れと言っても良いくらいの姿を見せていても王である。一応こんなでも周囲の国からは賢王と呼ばれているのである。



 ついにメイド達の間では娘に嫌われた賢王として「嫌王」と呼ばれるようになっていた。ただし本人はショックでなにも聞こえておらず宰相自身は大笑いしていたそうだ。



「と、言うわけで宰相様からの指示で娘に嫌われた『嫌王』の名を城内に広め、笑い話となっているところで次の指示です。さすがにそろそろ姫様を部屋から出さないと不味いので何とかして出しましょう。あなた、姫様の親友という人物を自らの班を率いて探しなさい。その間の業務は無しとし、給与を上げてもらいます。頼みましたよ」


『はい!』


 こうして、宰相の手によって裏で何人も人が動くこととなったのだった。

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