龍翼膜のロングコート

「ここ?二人が昨日行ったってお店は」


 俺たちは今度はルルを連れて昨日来たすごい人がいる服飾屋に来ていた。今日は工房にも行かなきゃならないのだがそれは午後だ。


「アラ、来たようね。さあ入って♪寸法を取りましょウ」


 扉すら開けてないのに向こうから来た。昨日は普通の服だったのにどう染めたか気になるほどのどっピンク……何者なのか気になる人物が多い。


「……あの人?」


「はい。ルルちゃんの言いたいことはすごくわかりますけど腕は良いんです」


「わかった。信じる」


 ルルはものすごく訝しげだけどほんとに腕は良いんだよな。

 俺たちが中に入ると既にサンプルとして何着か服が用意されていた。

 

「ほらぁ、座りなさイ。ここにいくつかあるからどんな見た目かを決めてちょうだイ♪」


 俺は既に機能性優先のロングコートだから決める必要は無いんだが……ルルとシャリアはものすごく悩んでるな。これは長くなさそうだ。




 選び始めてから三時間後……もう正午過ぎだ。

 正直……舐めてた。女性の服に対する探求を。まさか服一着でここまで掛けるとは。


「はい。ルルちゃんの採寸は終わりよォ♪」


「ありがとうございます。マダム・ジュリー」


「店長ぉー、こっちの子の採寸も終わりましたぁ」


「あの、ありがとうございます」


 俺は肩幅とか腕とかいくつか測られただけで数分で終わったのに何故こんなに時間が掛かるのか。それにルルもシャリアもいつの間にかあの人と仲良くなっている。あの人、マダム・ジュリーって言ったんだな……


「それじゃあ細かな要望を聞いていくわぁ♪じゃあ少年、まずは君からヨ」


 まず俺か。

 俺はこのずっと待ってる間に要望は考えてあったのでそれを伝える。

 

「そうだな……裏にナイフとかを仕舞えるような物をつけて欲しい。あとは横にポケットと肩に紐を通せるような……軍服みたいな感じのやつが欲しいな。これぐらいかな」


「わかったワ。次はルルちゃんネ」


「えっと、基本は普通のローブで良いんですけど護身用のナイフを隠せそうな物が欲しいです」


「それでいいノ?……わかったワ。次はシャリアちゃん」


「私は近接戦闘をするのでコートは腰までの短めで良いんですけど腰に巻くベルトから下に下がる布というかが欲しいですね」


「ドレスアーマーみたいなやつネ。あれは案外実用的だからおすすめできるわネ」


「そうなんですか?」


「そうわね。あれはフワッとしてるけれどちゃんと素材を考えて作ると丈夫で場合によっては普通の鎧よりも動きやすいのよネ」


 へぇー、ドレスアーマーって実用性が低くてただのロマンだと思っていたけど現実にあるんだな。


「でもシャリアちゃんのはドレスアーマーじゃなくて腰の後ろを覆うタイプだから別に動くのには支障は無いわネ」


「じゃあそれでお願いします」


 シャリアがそう言うとマダム・ジュリーは気持ち悪いくらいの笑顔になった。もちろん、良い意味でだ。


「任せてちょうだイ。完璧なのを作ってあげル。完成したら泊まっている場所に届けてあげるけどどこかしラ?」


「冬の胡桃亭です」


「あそこなのネ。なら簡単だワ。そうね……五日後に持っていくから待っててねェ♪」


 ん?もしかして宿の女将さんと知り合いなのかな。でも五日後か。思ったよりも時間が掛からないものだな。龍の素材だからもっと時間がかかると思ってたけどやっぱりそこは王都だからかな。技術とかも集まるだろうし。


「それじゃあよろしくお願いします」


「任せてネ〜」


 手を振ってくるマダム・ジュリーに手を振り返すルルとシャリア。やっぱりあの人は謎だ……




 思ったよりも早く終わったから少し早めに工房へ来てみたが……なかなか大変そうだな。ちなみにルルたちは防具の方を見に行った。

 ここは俺たちがここの人たちを紹介されたのが大工房と言って、大きな炉や金床などがいくつも設置されてる場所なのだが今は龍の鱗などを加工するために様々な道具が散乱する場所となっていた。


「おお!ヤマトか!こっちに来てくれ!」


 奥の方からロックさんが顔を見せる。

 そちらに近づくと、


「試しに渡された龍の骨をこの紙通りにやってみた。これでどうだ?」


 彼の手には長さが一メールほどで中空の骨があった。一切の歪みもなく真っ直ぐでとても美しい。そして何よりもとても軽い。


「さすがだな。これ元はもう少し長かっただろ?」


「まあな。でも少し短くしても調整できるように長めに残すのは常識よ」


 横から覗くと反対側までよく見える。


「こいつは龍の翼の骨を使ったんだ。でも普通の骨じゃなくて翼膜と翼膜の間に通る細い骨を使ってみたんだ。いやー大変だったぜ。変形魔法を使って骨の両端を切り落としたのは良いんだがその中の骨髄をどうしようか迷ってな。ま、結局無理やり鉄の棒で押し出したがな」


 骨髄って鉄の棒で押し出せるのかよ。仮にも龍の血を作ってる部位なわけだしなんかしらの効能がありそうだけど。


「じゃあ次はライフリングか……ひとつ聞きたいんだけどさ、この中に細かな溝を彫ることは可能?」


 そう聞くとロックさんは少し悩んだあと「可能だ」と答えた。


「この骨の穴の大きさはどれぐらい?」


「かなり正確に測っておいたがだが7.5ミールだったな。全体の太さは1.2セールだな。ちゃんとあの図面通りに進めてるぜ」


「ありがとうな。じゃあこの中に四本の溝を2.5セールで右回りに一回転するように彫ることは?」


「出来なくは無いが……何故だ?」


「飛びやすく、そして威力が上がるんだ」


 そう答えるとロックさんは「やってみよう」と言って色々作業をし始めた。


 次に向かったのは弾丸制作などを担当する二班だ。


「あ、ヤマトさん。親方から鏃の大きさは聞けましたか?」


 彼らには矢を射出する部分の穴の大きさが鏃の大きさに関わってくると伝えてあるう


「ああ。7.5ミールが太さ、長さがそうだな……薬莢の長さが54ミールだから……3セールくらいだな。形状は紙に書いてあるはずだからわかるだろ?」


「はい、ちゃんと読みましたよ。じゃあ太さが7.5ミール、長さが3セールですね」


「そうだ。材料は鉛と鉛に真鍮被覆の二種類だからな?」


「わかってます。任せてください!」


「ああ、頼んだ」




 俺は次に弾丸を担当している三人のところから薬莢を担当している二人の所へ向かう。


「あ、ちょうど良かった。一つ試しに作ってみたところなんです。大きさとかはまだ指定されてなかったので適当ですけど」


 そう言って手渡されたのは正しく銃の薬莢だった。ちゃんと雷管を入れる場所も、先端のくびれも、。

 図面として渡した紙の中には当然薬莢の設計図も入っていて、材料なども書いてあった。しかし、製法などはあえて書かず、今日教えると伝えていたはずなのだが……


「こ、これをどうやって作った?」


「えっと、こいつが新しく工具を作り上げまして」


 そう言って青年は何やら座り込んでなんだかボール盤みたいな形をした物をいじっている青年を指さす。


「昨日渡された資料の中にいくつか機械弓以外にも図面があったじゃないですか。それはなにか物を嵌めるやつみたいだったですけどこいつはそれとこの図面を見て一晩でこいつを作り上げたんです。俺も朝はこれが何かわからなかったんですけど材料の真鍮を使ってやってみたらこいつが出来上がったんです」


 な、なるほど……薬莢なんて異世界じゃ出来ないだろうから使い捨ての鋳型でやろうかと思っていたのだがまさかこんな風に出来上がるとは。


「こいつでは強い圧をかけて金属を加工します。この中には変形魔法の魔道具が仕込まれています。変形魔法は普通なら一人がその物体の材質に干渉できるのはその物体に対しては一度きり。ですが魔道具を使えば複数回の加工は可能です。しかし、あくまでも加工は圧をかけて行い、変形魔法そのもので加工は不可能です。さらにこの工具では複数の穴があり、その一つ一つでそれぞれの加工が可能なように作っています」


「そ、そんなものをこのためだけに?」


「いいえ、数年前に魔道具での変形魔法が可能になったことを知ってからどうにかして上手く金属を加工出来ないかと悩んでました。親方にも相談してもいい案が出てこなくて。ですがあなたが持ち込んでくれた図面には全て答えがあった。もので物を押しつぶす。これは全く考えたこともなかったんです。だからこれは感謝の気持ちと思ってください」


 変形魔法は魔道具でも可能だったのか。でも変形させることが出来ないから今だに人の手でやってるんだな。


「そうか……あの図面が役に立ったのなら良かった」


「はい。感謝してもし切れません」


 まさかてこの原理が人を救うなんてな。わからないものだ。


「そうだ、これの大きさとかはどうなりました?」


「あ、そうだったな。全体の長さが54ミール、太さが下の部分が14ミール、先端は括れさせて8.6ミールだな。で、中央に弾丸が入るからそこの穴は7.6ミール……これでちょうど嵌るはずだ。じゃあちょっと細かなことを話していくからよく聞いてくれよ」


 俺は親方やさっきの弾丸を作ってる三人も集めて銃の薬莢の細かな寸法などを丁寧に説明していくのだった。そうしないと自分が怪我する羽目になるからな。気をつけないと……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る