赤煉龍フィルグレア②
それは突然だった。
いきなり足元が揺れ始め、その場にいた者たちは皆立ち止まった。それは調査団の面々も、更には龍も変わらなかった。
しかし、誰かが気づいたことにより状況は変わった。
いや、そもそも上から降ってくる大量の土砂に気付かない者は居ないだろう。
皆急いでそこから離れようとしているが、間に合うかは微妙なところだ。
ルルもある程度タイミングを計ったようだが落ちてくる土砂は完全に物理法則任せのものだ。どう動くかは俺たちにも分からない。
もしも何か怪我でもしてしまったのなら……ご愁傷さまとしか言えない。
グオオォォォッ!?
龍の驚いたような雄叫びが響き渡った。
どうやら龍も逃げようとしたようだが、先程の揺れに驚いて立ち止まったせいで足元の泥にはまり、上手く動けなくなったようだ。
翼がある龍なのに……いや、巨大な瓦礫が翼を支える腕に直撃して飛び上がれなかったのか。とにかく、龍は瓦礫に埋もれていく。
龍は上から落ちてきた土砂に首の中程から先と尾の先端の巨大な一本の槍のような部分を残して完全に埋まっている。さらにそこにルルの魔法と、何とか状況に対応出来た調査団の人達の一部による土属性魔法が降り注ぐ。
「大地の精よ、我の願いを聞き届け、地を固めよ。地を礎とせよ。地を繋ぎ止めよ!〈
ルルが珍しくまた魔法の詠唱式を全て発声する本詠唱を行った。
普段から使うのは略式の詠唱で事足りるので、いかに彼女が凄いのかを目の前で見せられている。
そうしてこんもりとした丘のようになった瓦礫にいくつか地を固める魔法が発動し、元から重量のある土や岩、地面のぬかるんだ泥や砂利などが複雑に混ざったものが複数の魔法が重なったことによって固められ、コンクリートのように変化する。それは流石の龍も容易に脱出できないほどの牢獄と化した。
すっぽりと埋まった龍は辛うじて動く首の先端を動かして辺りを見回している。自分がどういう状況か判断しているのだろう。
かなりの重量がかかっているのか、雄叫びも上手く出せずにいる。
具体的には音量が下がって、喉を鳴らすぐらいしか出来ていないようだ。
龍って喉鳴らせるんだな。
周りでは今を好機と捉えて剣を構えたりする者や、怪我人の治療を行っている者もいる。
シャリアは龍の様子を伺っている人達の中だ。
俺は龍の警戒をルルに任せ、魔砲の他にいくつか準備をする。
まずは火薬と特殊な鉱石粉末をふんだんに使用したダイナマイトもどき。威力はそれなりだが使い方によっては痛手を与えられるだろう。そして数が少なく二本しかないが、ダイナマイトもどきの中にさらに金属片を仕込んだ強化版を腰に付ける。
今の俺の様相はどこかの民族の如く腰に色々付いているだろう。
「ヤマト、本当にあの作戦通りにやるの?」
ルルは心配そうだ。あの時……剛体蜥蜴から逃げてる時にルルだけを先に逃がした時と同じ目だ。
「大丈夫だよ。あの龍だって生き物だ。少なくともあそこだけはどうやっても守れないだろうよ。よほど特殊な生き物じゃない限りは、な」
俺は手で街で売ってたライターもどきを弄ぶ。
それは中に小さな魔石を仕込んでそれに火の魔法を付与した魔道具だ。魔石の横に小さな筒があり、そこに少量の可燃性の鉱石の粉末が入っていてそれに引火させることで火を起こすというものだ。ちなみに、ダイナマイトもどきの中の鉱石粉末とはこれの事だ。
俺らもさすがに小さな魔石に魔法陣を刻めるほど器用じゃないのでこれはそのまま使っている。値段は大銀貨一枚と高いがそれなりの価値はあるのだ。
見ると、龍は未だに首を動かしているがどうやっても抜け出せていないようだ。今も何人か土属性魔法で拘束を強化しているというのもあるだろう。
「さて、じゃあ俺は色々とやってくるわ。ルルも警戒しとけよ?」
「わかってるわ。……気をつけてね」
ルルに対し俺はニヤリと頷くと俺は背に銃を背負い、腰に色々ぶら下げた状態で龍の元に進んで行く。
何人かこちらに気づいたようだが気にしない。
そして俺は龍までだいたい十五メールの辺りまで来た時に容赦なく火薬だけを詰めた火薬玉を龍の顔面に投げつけた。
正直この時点でチビりそうだ。龍相手に物ぶつけるなんてくっそ怖い。もうここまで来てる以上やらない訳にもいかないけどもう絶対やらねえ。
見事命中し、もうもうと灰色の煙が舞い上がる。少し風があるから早くしなければならない。
俺は投げつけると同時に銃を背から下ろしてすぐに構える。弾は既に装填済みだし周囲に人は居ない。土砂を落とした時に巻き込まれた人がいないのは準備してた時の会話の中で聞こえてきていた。
灰色の煙に何人か驚きの声を上げていそうだがそんなのを聞く暇もなく俺はすぐに引き金を引いた。
ドガンッ!!
煙というデカい的を撃つのは簡単だ。そして火薬により熱された弾丸は俺のスキル〈射撃〉によって補正されだいたい真っ直ぐに進みながら火薬の煙に突っ込む。そしてスーパーチャージもかくやという量の火薬の爆発による弾丸の熱と摩擦により引火し、粉塵爆発……であると俺は予想している。正直物理学とかそこらへんは苦手だからね。というか、この近距離だから弾丸が熱を保ったままで煙に突入しているわけで。
まあともかく、龍に粉塵爆発を直撃させることは出来たはずだ。確認はしていない。なぜなら俺はまた衝撃で吹き飛ばされているからだ。
「痛ってえ……」
かつて習った受身を取って何とか着地すると風によって周りの土煙が徐々に晴れてきていた。
土煙が完全に捌けたそこには……
「おいおい……剛体蜥蜴の変異種ですら足一本捥げたんだぞ。そんなのありかよ……」
そこには一切傷のない顔だけで。
こちらを睨み付け、爛々と輝く金色の目がこちらを射止めている赤黒い龍の姿があった。
そう。この時点で俺は龍相手に喧嘩を売ったのである。
俺は頬に冷や汗が垂れるのを感じると同時に、どこか無意識に口角が上がっていたのだ。
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