赤煉龍フィルグレア③

 俺は腰に付けた道具の中から今度は円柱状に固めた火薬──ダイナマイトもどきだ──を手に持つ。


 龍は声を上げず、こちらを睨んでいる。

 周囲にいる調査団の人達も俺がやったということに気づいたようだ。

 シャリアもこちらを見て驚いている。どうやら、まさか俺達がここまで追いかけてくるとは思ってなかったようだ。


 誰か近づいてくる。装備が変わっているが……あれはダンさんだな。


「おい、ヤマト……だよな?」


 何を戸惑っているのだろうか?

 確かに髪型も多少変えたし防具もこの街で加工してもらった剛体蜥蜴のものだが普通は顔とかで判断するものだろうに。


「いや、髪型が変わってて気づくのに一瞬遅れた。さて、なんでここにいるんだ?」


 ダンさんは一応ポーズとして腕を組んでいるが、顔は笑っている。何のためにここにいるのか察せているようだ。


「その顔だと気づいてるみたいだが、あそこにいる白髪の少女……シャリアが俺たちの仲間でな。まさか仲間なのに自分一人で危険なことしようとしてるなんて止めるか……あるいは手伝うかの二択だろう?」


 するとダンさんはさらに笑いだした。


「はっはっはっ!お前も言うようになったじゃねーか!つまりあの嬢ちゃんが一人でここまで来たからそれを追っかけて……って全くどこの物語だよ。まあ事情はわかった。俺らはどうすりゃいい?」


 その発言に周囲で俺らの会話を聞いていた調査団の人達はどよめいた。

 青タグを持つほどの実力者であるダンさんがどことも知れぬガキに指示を仰いでいるのだ。


「なあダン、そのガキ何だ?そんなやつ最初はいなかったはずだが?」

「いきなり出てきてあの崖を崩したのはあなた?それともあなた達?どちらでも良いけど感謝するわ。で、ここになんの用かしら?」

「けっ、ここはガキの来るとこじゃねーぜ。さっさと帰んな」


 何人かそう言ってきたもののダンさんは無視。俺の方をずっと見ている。


「あれ?ダンさんですか?お久しぶりです」


 演技しながら隠れていたルルも出てきた。ここからはルルも交えて話すとしよう。


「ダンさんがそう言うなら。まずは、あの龍の身体的情報をください。別にここで得られた情報を全てくれってわけじゃないです。それこそ……あの龍の耳はどこか、とかで充分です」

「なるほどな……わかった。俺の知ってることを教えよう」


 俺らの周りがまたザワつく。しかし、やはり取るべき手段は無視の一択だ。


「まず、あいつの身体についてだが……」


 それから少しの間、ルルが土属性魔法をかけ直すのを横目にダンさんの話を聞いていく。そして、俺の元々の作戦を説明する。その過程でほんの数人だが、協力者を得られた。


「じゃあ、さっきの作戦通りにお願いしますね」


 そう頼み込んだのは協力してくれる人の一人で、斥候役の人だ。彼は足が速いため、かなり重要なポジションになる。


「坊主、こいつをやつの耳にぶち込んでこの紐をここまで引っ張って来るんだな?」


 そう言って彼が手にするのはダイナマイトもどきに付いてる導火線だ。麻紐で出来ていて、燃えやすいよう多少解してある。


「はい。その通りです。お気を付けて」


 そう言うと、彼は親指を立てて走っていった。

 俺はライターを取り出し、いつでも点火できるようにした状態で待機する。

 俺の近くにはルルが立っていて、防御魔法を発動するための詠唱中だ。


 さて……これが上手くいくかだな。




「坊主!何とか上手く行ったぜ!これがその紐だ。でも早くしろ、あいつこれの意味がわかってるみたいだった。何とか噛みちぎろうと首を動かしてるのが見えるだろ」


 あれから約十分。龍にダイナマイトもどきを仕掛けるのに向かっていた人が何とか帰ってきた。当然だが、相当怖かったはずだ。

 傍から見れば子供の身だが、俺は敬意を表したい。


 彼に仕掛けて貰ったのはダイナマイトもどき計十本。火薬量は約十キロ、いや十キールの方がこちらでは正しいか。とにかく、鉱山発破用の火薬を龍の耳に仕掛けた。理由はすぐにわかるはずだ。


 まあ……一番の功労者は龍をここまで拘束出来た魔法と知恵を持つルルだけどな!



「じゃあ点火するか」


 俺は俺の足元まで伸びる導火線に火をつけた。

 解してあるからかよく燃える。この分だとすぐに引火しそうだ。早く離れねば。

 俺はそう思い、ダンさん達など連れてもう数メートル離れておく。


「なあヤマトよ。本当にこんなので上手くいくのか?さっきの爆発でも傷がなかったんだぞ」


 ダンさんは訝しげに聞いてくる。


「じゃあダンさん。人間じゃ無くて、生物として弱い部分ってどこだと思います?」


 そう聞き返すとダンさんは悩み始めた。ふむ、身体構造の脆さに関してはあまり知られていないか。


「それなら……首とか関節とかかしら?」


 会話に入ってきたのはベルさんだ。ダンさんが話していたからここに来たのだろう。


「ええ。確かに生物としては関節も弱点になります。だけど……絶対的な弱点と言えば?」

「絶対的な弱点……」

 

 あれま、ベルさんまで頭を抱え始めちゃった。そりゃあ首は弱点だけど他にあるでしょうに。


「それなら簡単だ。頭、だろ?坊主」


 水を飲みながらさっきダイナマイトもどきを仕掛けてくれた人が答えてくれた。


「正解。さっきは外から衝撃を与えたが……今度はほぼ内側から与えてみようって魂胆です。どんな生物でも耳ってのは下手すりゃ口よりも大きな弱点になりますから」


 すると、ダンさんは感心したように頷く。


「耳の穴は頭の奥深くまでありますから。さて、そろそろですね。どうなるか……」


 

 その時、さっきの粉塵爆発よりも大きな音が響いたのだった。




───────────────────────21時にさらに投稿します!お楽しみに!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る