赤煉龍フィルグレア①

 赤煉龍フィルグレア。

 あとから知ったのだが、この名は約五十年前から所々の文献には出てくるらしい。村を襲っただの、山での目撃情報だの、中には海上すれすれを飛行しているなんてのもあった。


 そもそも龍とは巨大な翼に長い首と尾を持ち、個体それぞれによる龍息ブレスを吐くことで知られている。

 それらは伝説上の存在ではあるが実在はしている。

 その伝説は龍の討伐や友好を結んだ物語なのだ。

 その中でも人気なのは当然龍を討伐する英雄譚なのだが。


 少なくともこの赤煉龍フィルグレアは現実に起こり得る英雄譚の敵だ。


 ただしこの龍がどこかの街を破壊したという情報はデマ含めても実はほとんど無いらしい。

 しかしこの時は、この龍を殺さなきゃいけない理由を俺たちは知らなかった。

 だが……あのシャリアの様子を見る限り何かしらの因縁はあるのだろう。俺たちと似たような理由……それこそ復讐とかな。



「あれが龍なのね。でも……黒龍よりは小さい気がするわね」


 あの日見た黒龍は影だけだが五十メールだったのに対してあの龍は目算三十メールくらいだ。


「まだ成長途中なのか……それとも種類によって差があるのか……いくらか仮説は立てられるけどよくわかんないな」

「うん。で、始めるの?見た感じシャリアもいるしみんな戦ってるけど」

「そうだな。この魔砲の魔力を貯め終わったら始めるとするか」

「分かったわ。じゃあ少し戦闘を観察してるから準備できたら教えて」


 そう言われて俺は魔力を貯めることに集中する。


 この魔砲は中に制作した魔法陣と一緒に魔石が組み込まれている。

 おさらいだが、魔石は魔物の心臓にあたる器官で、討伐する際はここを破壊することでも可能だ。

 そして、魔物にも体液というのは存在し、魔物が呼吸によって大気と一緒に取り込んだ魔力で体液を循環させることで生きていると俺は推測している。

 つまり、魔石には魔力を吸収すると同時に魔力を放出することも可能という訳だ。魔法士が使う杖などにはこの特性を使っているからこの話は有名だ。

 そこで俺は魔力を吸収させ、内部に溜めて、後から取り出せないかと試して見たところ……


「見事に成功したんだなこれが」

 俺はボソリと呟く。


 ルルと試行錯誤して貯められる量をある程度測定することには成功した。

四日かかったんだ。もうやりたくないな……


 当然、魔石の質に大きく左右される点もあるが、主に大きさによって変わってくると思っていいだろう。

 魔力を数値化することは不可能だが、大型の魔物や変異種などはかなりの量を貯められることはルルの持つ杖の魔石で確認済みだ。


 そしてこの魔砲〈初典・深紅害為レーヴァテイン〉にはかつて貿易都市にいた頃ダンさん達に無理やり拉致……ゲフンゲフン、同行した討伐依頼で手に入れた中型の魔物、黒曜陸亀オブシダン・トータスの物を使っている。


 魔物に存在する鉱石種と呼ばれるものは身体に鉱石の特徴、もしくは鉱石そのものを纏っている魔物で、魔石は総じて魔力の通りが良く、既製品の魔法士の杖には高くなるが鉱石種の魔石が使われていることがある。

 というわけで俺はその時に貰った魔石を使って魔砲を組んでいる。



 ……とまあ、こんなことを思い出しつつ魔力を溜めること約数分。本来ならもっと時間がかかるのだが、既にいくらか溜めてあるからこの程度で済んだな。


「ルル、用意は出来たぞ」


 戦況を見ている彼女に声を掛ける。かなり集中していたようで二、三度声をかけた。


「わかった。じゃあこっちの様子を教えるわ。──まず、ここは見ての通り森の中。でもすぐそこに崖がそり立ってるから何かに使えそう。地面は土だから私の魔法も十分に発揮できる。それに、なにか泥みたいになってるわね。あそこで戦ってるのは調査団の人達だろうけど今のところ三分の二が倒れてるね。見た限りだと傷はほんのわずかしか与えられてないけどどうやら腹に大きな傷があるみたい。シャリアは今は……安全な所にいるわね。傷を負ってるっぽいけど……」


 実はこの時シャリアの近くにダンさんこと〈風の導き〉たちも居たのだが二人は気づいていない。


「わかった。じゃあまずは位置もいいし崖を崩してみるか?」

「うーん、それでもいいんだけど時間がかかりそう。それでもいいならやるけど」

「大丈夫だろう。地面が魔法で変化している。」



 そのあとも少しルルと共に状況を観察して、子供ながらもある程度作戦を立てた。

 上手くいくかは分からないしもしかしたら失敗するかもしれないが……まあこんな所で失敗したら黒龍なんて夢のまた夢だろう。

 一応あの龍の弱点であろう場所を突ける作戦は稚拙ながら立てた。あとは俺たちの運に賭けるしかないだろう。


「ヤマト、準備は良い?」


 ルルが一点を狙う狙撃兵の如く杖を構えながら聞いてくる。


「もちろん。いつでも行けるさ」


 俺も魔力を充填し終えた魔砲を背中に担ぎ、銃を持つ。


「じゃあ始めるよ。──大地の精よ。我の願いを聞き届け、地を波立たせよ。地を唸らせよ。地を起き上がらせよ!〈地衝源アース・クウェイク〉!」


 その瞬間、この辺り一帯に大地の唸り声とも等しい地響きが鳴り響いたのだった。

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