新防具と付与

「こんにちはー!防具の受け取りに来ましたー!」


 ルルが元気よくこの前来た鍛冶屋に入っていく。


 タグの昇格もあって機嫌が良いのだろう。それに自分達で倒した魔物での初めての武具だ。

 そうとなるとやはり俺も楽しみだ。


「おぉ来たか。こっちに来い。全員分ちゃんと仕上げてある」


 鍛冶屋の店主が出てきて俺らを店の奥に招く。


 俺達は鍛冶に使うのであろう炉の前などを通り過ぎて店の奥、工房スペースに入っていく。


 そこには台があってその上に俺らが依頼した防具が置いてあった。


「注文通り手甲や膝あてなどちゃんと仕上げてある。それにお前さんらは成長期だ。多少の調整なら自分で出来るようにしてあるからやれるようになっておけ」


 そう説明されている間も俺達の目は新たな防具に釘付けだった。

 剛体蜥蜴の鱗を用いて作られた胸当ては蜥蜴の鱗らしく鈍く光を反射していてカッコイイ。手甲も三人分ちゃんと作ってあって少しづつ形状が違っている。


 その隣には手袋のようなものが人数分置いてあるが……こんなの頼んだっけ?


「そのグローブは俺のサービスだ。黒鹿の皮を使ってあるから耐久性は折り紙付きだ」


 黒鹿はこの辺りの森に生息する魔物で主に皮を取るために討伐されている。動きの素早い黒鹿の皮は高い柔軟性を持ち、さらにこの手袋のように黒鹿の皮は耐久性に優れ、この皮を用いた道具はそれなりの値段で取引されている。

 耐久性が高いため当然加工も難しく、それがさらに値段を上げる要因となっている。


 そんなものをポンとサービスで出すなんて……


「なぁに、こんな良い素材を扱わせてくれたんだ。お礼だと思ってくれや」


「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます」


 この手袋は売ればそれなりの価値にはなる。だが俺にはこれを売るつもりは無い。そもそも金にはあまり困っていないからこれは旅の相棒、いや相手袋として使わせてもらおう。



 俺達は制作された防具の代金として金貨数十枚を支払うと鍛冶屋を後にする。これぐらいの金額は剛体蜥蜴を倒した報奨金でなんともないのだ。



 鍛冶屋を後にした俺達は街をブラブラと歩く。途中、俺が一旦二人から離れて用事を済ませてきた位で特にこれといって何も無い。

 

 こういう時が一番暇なのだ。

 何か依頼を受けるにしても時間は遅すぎるが、今からのんびりするには時間が早い。

 宿に戻って弾丸作りをやっても良いんだが……


 そんな時だった。ルルが画期的な提案をしたのは。


「ねえ二人とも、今さ私ものすっごく暇なの。だからさ、宿に帰ってさっき受け取った防具にちょっと細工しない?」


「細工?何をするんですか?」


 細工と言われても何をするのかさっぱりだ。下手にいじって壊れでもしたら大変なんだが……


「別に変なことはしないわよ。試しに〈硬化〉の魔法陣を描いてみようと思って。ほらいわゆる付与エンチャントよ」


 付与……ああ、貿易都市にいた頃に何度か見たことあったな。俺が見たのは武器に色々纏わせたものだったが……防具とかにも出来るんだな。ということは貿易都市にいた頃も武器以外の付与も見たことあったのかもな。


「物に付与することで上手く効果が出ればそれは魔道具になるのよ」


 魔道具って思ったよりも簡単なんだな。もっとこう色々やらなきゃいけないと思ってたんだが。


「あ、ヤマト、本当はもっと魔道具作りは難しいからね。本当なら魔道具作りに必要な機材だったり素材だったり、あとは熟練の魔法士がいてようやく作れるんだからね。私たちみたいに魔法陣で作ろうっていうのはほとんど無いと思うよ」


「ええ、魔法を付与して魔道具は作られますけど普通は魔法を付与する以前にミスリルなどの魔鉱石を用いた原型が必要なんです。使用用途に合わせて原型は作られるので多くが一点物らしいです。原型が出来たらようやく魔法を付与するんですけどそれも丸一日掛かったりするみたいですよ」


 魔道具も大変なんだな……シャリアが教えてくれなかったらまた変な知識を覚えてしまう所だったな。ルルはちょっと大雑把なところがあるからな。時々こういうこともあるな。


「さて、じゃあまずは硬化の魔法陣を一度描き出さなくちゃね。だから二人は少し待ってて。あと、作ったインクってまだ残ってたよね?」


 確かまだ全然インクは残ってたはずだ。ならば作り足す必要はないだろう。

 ならば魔道具についてもう少し調べるかな。


「だったら先に宿まで戻っててくれ。少し調べ物してくる」


「分かった。じゃあ後でね」


 そう言ってルル達は手を振って宿に戻って行った。

 さて……そろそろ俺もまだこの銃以外の攻撃手段が欲しいからな。魔道具を用いた攻撃手段のためにもちゃんと調べて見るかな。


 そう思いながら俺は繁華街の方へ足を向けるのだった。


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