火薬玉の威力

「ルル、大丈夫だって言ってるだろ?」


「ほ、本当に大丈夫ですか……?」


 俺はあの高さ十メール程度から落ちたあと、ずっとルルの治癒術を受けている。


 地面が柔らかい土で草が生えていたことに救われて、全くの無傷なのだがルルが心配して俺は彼女の治療を受けている。

 シャリアも心配して声を掛けてきているがさっきから無言で治癒術を掛けているルルが一番心配しているのは本人が何も言わなくともわかり切っている。


 治癒術をかけ続けてさらに五分後、ようやくルルが立ち上がった。


「これくらい治癒を掛けておけば十分ょ。ヤマトは体調とかは大丈夫?」


「さっきから言ってるけど大丈夫だよ。でも治癒術ありがとな」


 そう答えるとルルは嬉しそうに笑った。


 でもそうほのぼのとはしていられないだろう。 

 シャリアは既に気づいているようだが風狼が近くにいる。


「ルル、そろそろ依頼を終わらせようぜ」


「私、数を見てきますね」


 そう言って彼女は駆け出す。ものすごい速さだ。もう後ろ姿が小さく見える。

 地面には抉れた靴の跡が残っている。シャリア自身から獣人は体力と瞬発力に優れていると聞いていたがこれ程なのか。

 もし仮に獣人全てがこれ程の瞬発力を持っているならかなりの脅威となるだろう。


「ルル、シャリアが戻ってきたらできるだけ風狼を一箇所に集めて拘束出来ないか?やってみたいことがある」


「わかったわ。何がやりたいのかはだいたい察しがつくから。任せて」


 彼女は杖を構えながら自信満々でそういった。


 俺もそれに頷き返すと銃に弾を装填して、ある物を取り出す。


「ルルちゃん!数は十五、私の約五十メール後方!」


 なるほど、この場にいるのは恐らく二頭。合わせて十七頭だな。


「了解!シャリアはこの辺に隠れているのをお願い!」


「分かりました!お気をつけて!」


 こちらに駆けてきていたシャリアはそのまま隠れている風狼の元へ向かった。


 ルルは既に詠唱を始めている。彼女によるともう少し質のいい魔石であればこの詠唱も必要無くなるのだとか。


 俺としてはルルの綺麗な詠唱を聞いていたいのだけど彼女自身は結構面倒なものらしい。だから正直、早いとこいい魔石に変えたいのだとか。


「ヤマト、拘束出来たわ!」


 ルルが光魔法で風狼を拘束するとこちらに顔を向けてきた。


 確かに二十メール程先で光魔法が発動している。そこに囚われた風狼達も一緒に。


「了解、あとは任せてくれ──よっと!」


 俺は風狼達に狙いを定めてある物を放り投げた。


 直径五セール程の玉は見事な放物線を描くと光魔法の範囲のど真ん中に落下した。


 そしてボフンッ!という効果音が似合いそうな感じで灰色の何かがモウモウと舞い上がった。


 しかしここは中間都市アールムがある山脈の近くの草原である。当然山から吹き降ろす風もあって結構気候は良好だ。ただしそれは舞い上がった煙までもどこかへ流して行ってしまうという事だ。


 現に今も風がそよ風と言えるレベルだが吹いている。おちおちしてるとすぐに意味が無くなってしまう。


 だから俺はすぐにそちらに銃口を向けると誰もいないことを確認して引き金を引いた。


 パアン!という破裂音と共に発生する轟音。

 煙を撒き散らすように起きた爆発はその場に煙など少しも残していなかった。


「よし、だいたい二十メールまでは大丈夫なんだな」


「まさかそれを本気で攻撃手段にしようとしてるとは驚いたけどね。でもああやって拘束してる時には有効のようね」


 俺がやったのはかつて討伐した剛体蜥蜴と同じ方法だ。まあ中身は火薬に変えたが、引火することで発生する粉塵爆発だ。


 シャリアと夜に話した時に作っていた物の一つだが試作品じゃなくてもう完成と言っても良いだろう。


 なぜなら、拘束されていたはずの風狼達は粉塵爆発によって見事に肉片だらけのグロ映像へと変貌していたのだから。


「ただ……威力がありすぎるみたいね」


「本当だよ。ここから討伐証明の耳を探して帰らなきゃいけないんだからな」


 二人でブツブツ言いながら木っ端微塵となった風狼の残骸から耳を拾い集めるのだった。


 そして、戻ってきたシャリアがその光景に驚くのもほんの少しだけ後の別のお話である。



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