魔法陣で空中散歩?
中間都市アールム近くの街道から少し外れた平原に俺らは今居る。ギルドで
まあ本当の目的はさっきシャリアとやった魔法陣だ。シャリア曰く、屋内でやると危険なのだとか。それだけ聞くと結構ビビっている自分がいるのでちょっと逃げたかったりもする。
「この辺りなら大丈夫ですかね」
そう言ってシャリアは足元にさっきの魔法陣の紙を広げる。
「魔法陣は一度で使っても直ぐに使えるようになるから意外と便利なんです。ですけど、紙もそうですけど魔法陣自体が使う度に劣化して行くので何度も同じ威力の効果を得るのは難しいんですけどね」
紙の劣化は何となく分かるが魔法陣自体の劣化とは何なのだろう。
魔法陣はあくまで魔力を流して発動させるものらしいから魔力によって何かが削れたりしていってるのだろうか。でもそれなら何が削れているのか、という話になってしまう。
怪しいのはインクなんだが……魔力によって劣化するものがあるとは聞いたことがない。だから他の要因があるのだろう。
「魔法陣自体の劣化にあのインクの色……なるほどね。それなら納得だわ」
ルルはなんか一人で納得してるし。分かるなら俺にも教えてください!
しかもインクの色やっぱ関係あったのか!?
「はい。綺麗な水にシャビの葉を煮出した物を加えて冷やしてそこにモトフの果汁を数滴、カシの実をすり潰した物と混ぜればこの魔法陣のインクの一つが完成します」
「トウビじゃなくてシャビを煮出したのね」
もう二人は何を話してるんだ?シャビやらトウビやらもうわかんないよ。
「色がそっちの方が鮮やかになってインクの劣化がわかりやすいんです。でもその分魔力の浸透が悪いんですけどね」
魔力の浸透?なんじゃそりゃ。そもそもルルはさっき魔法陣は使ったことが無いって言ってたけどなんでそこまで知ってるんだ?
俺はもう二人の会話に付いていけない。多分魔法関係の会話なんだろうけどもはや外国語みたいだ。
俺は地球にいた頃は文系大学生だったけど専攻は歴史だ。英語とかは成績はかなり低かったのだ。
「……ヤマトのために説明するわね。私たちが話してたのはこの魔法陣に使われてるインクについてよ。私は魔法陣は触ったことも無いけど魔法書は使ったことがあるからね。
確かに言われてみればルルが色々混ぜたりしてたのを覚えている。あの時は何だか分からなかったのだけど今の説明を聞くと納得だ。
というか……ルルって魔法書を書こうとしてたのか!?
「え?そうよ。私はあの頃は将来は魔法書を書いて暮らしていこうと思ってたの。別にヤマトだけに苦労させるつもりはなかったのよ?」
え?それってもしかして……
「ええ。まあ私はそのつもりだったけど……こうなっちゃったからね。でも今も楽しいのよ?」
ルルはシャリアに聞こえないように耳の近くでそう囁いてきた。
シャリアにあの事については聞かせない。それについては俺とルルの二人でそう決めたのだ。聞かせるにしてももっと時間が経ってからだ。今はこのハンター生活を楽しむ時なのだ。
「え、えっと!ヤマトさん、この魔法陣の上にちょっと血を出して指を押し付けてくれませんか?」
シャリアは俺とルルの様子を見て、顔を赤くして少し焦った様子でそう言う。
指の先を少し切るようなジェスチャーをしているから指を切って血を出してその指を押し付けろ、という意味なのだろう。
俺はルルから離れると、取り出したナイフで右手の人差し指の指先を少し切って血を出す。じんわりと滲んで来たところで俺はその指を魔法陣に押し付けた。
「それじゃあさっきと同じようにイメージしてもらっても良いですか?」
俺は再びさっきと同じ水のイメージをする。
すると今度はすぐに反応が現れた。
シャリアがやった時と同じように魔法陣が光り出す──
「でも……」
「……魔力が多すぎましたね」
──俺はその光を空中で眺めていた。
そう。俺は魔法陣の起こした風で空に舞い上げられていた。
だいたい十メール程度の高さまで。
俺はぐるぐると回転する中でこちらを見上げるルルとシャリアを見下ろしていた。
それもたった一瞬だったが。
「う、うわあああぁぁぁーっ!」
俺は地球でもこの世界でも共通する概念『重力』を全身で体感していた。
空中散歩が出来そうだけどこれは散歩じゃないな。
「ヤマトさん!」
「間に合って!光よ、その身に溢れる力を与えよ!〈
シャリアは叫んでいるがルルは落ち着いて魔法を掛けてくる。
風魔法を彼女は使えないのでどうやら光魔法で俺の体の強化を行ったようだ。
───と、言ってもこれは身体能力強化では無くただ皮膚を固くして傷が付きにくくする程度のものだが。
と、俺は落ちながらそう考える。
そしてすぐに、土煙が辺りを覆うこととなるのだった。
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