シャリア先生の魔法教室

「で、これはなんだ?」


 俺の前には三十セール四方の紙が一枚。そこには大きな円とその中に正方形が描いてあり、いくつか文字が書いてある。文字は読めない。多分だけどこの前彼女から渡された本に書いてあったルーン文字というやつだろう。


 その円は某錬金術師が使いそうなデザインだ。

 文字以外にも様々な図柄があって見ていて飽きない。

 それ以上に文字を書いているインクが特殊なのか赤だったり紫だったり緑だったりとある。区別するためなのかは分からないが結構カラフルだ。


「魔法陣です。昔は良く使われていたらしいんですけど、今は言語魔法が発達して使う人はかなり少ないようです」


 魔法陣ね。言われてみればそうは見える。

 でも俺は魔法陣の使い方なんて知らないぞ?


「それは大丈夫です。魔法陣はその名の通り魔法を使うための陣です。なのでこの中に魔法を発動するための文言が全て書かれていて、あとは魔力を流し込むだけでは良いんです」


 その魔力ってのもよく分からない。ルルに言わせると「なんかふわふわしたもの」だそうだ。わざわざイメージするものでも無いようで、魔法を扱うなら彼女の場合は杖持って呪文唱えて発動。それだけのようだ。


 一応、ルルからはかつて魔法のやり方は教わった。だけど未だに魔法が出来ないのは俺の不器用さがゆえかもしれない。


 だけどもしこれで魔法陣が扱えるようになればルルを魔法面でも手助けできるようになる。

 そう思うとやる気が出てくるものだ。


「魔力とかはよく分からないんだが……俺はどうすればいいんだ?」


「そうですね……試しに手を当てて何かを手や腕から流し込むようなイメージをしてみたらどうでしょうか」


「私もこればっかりは分からないわ。魔法陣は使ったことも無いし魔力と言われてもぼんやりとしかイメージ出来なくて上手く説明出来ないのよ」


 うーん、なかなか難しそうだ。

 そもそも魔力なんて概念が存在しない地球から来た身にしてみれば物に何かを流し込むというイメージが難しいのだ。

 それでも出来たらルルやシャリアに良いところ見せられるかもな。

 

 そう思い、魔法陣が書かれた紙に手を当ててイメージをする。イメージの内容は腕を伝って流れる水だ。


 簡単かもしれないがこれしか思い浮かばなかったのだ。


 ぐっと押し込むように手を当てて、しばらく待つ。




……何も起きない。




「やっぱり難しいのでしょうか」


 シャリアは自分も魔法陣に指を当ててみている。


 すると魔法陣は光り始め、風が吹いて魔法陣の紙を舞いあげた。


「発動しないわけでは無いみたいですね。なら今度は……」


「なあ、シャリアはこの魔法陣とかは誰から教わったんだ?」


 魔法陣を見た時から疑問に思っていたことを聞いてみる。

 

 フーレン伯爵家で勉強していた時も魔法はいくつも見たが、魔法陣なんてものは初めて見る。

 ルルが勉強していたのは言語魔法という種類だから魔法陣とは別物なのだ。

 だからシャリアが誰から教わったのか気になったのだ。


「えっと、これは私の叔父さんから教わったんです。私の叔父さんは私の故郷で薬師をしていて、昔は様々な魔法を学んでたみたいなんです。その過程で魔法陣も勉強したみたいで私もかなり教わったんで結構魔法陣は出来るんですよ」


 シャリアのお爺さんといい叔父さんといい人材に恵まれてるな彼女は。シャリアの故郷には一度行ってみたいな。それに会えるならどんな人なのかも見てみたい。


「問題は魔力ね。ヤマトは魔力そのものは大量にあるけどそれを引き出さなきゃいけないわね」


「はい。一応その方法に心当たりは無くはないんです。ただ……」


「ただ?どうしたのよ」


「ちょっとだけ危ないかもしれないんです。だからやるなら外の方が良いかもしれないですね」


「分かったわ。じゃあギルドで依頼ついでにその方法も試してみましょ」


 なんか……ルルとシャリアの二人だけで決められたが……シャリアがちょっと危ないって言ってなかったか?


 あ〜もうダメだ。完全に準備し始めちゃった。仕方ない、試したいことは俺もあったからそれも一緒にやらせてもらうかな。


 俺はため息をつきながら準備を進めていくのだった。



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