調合作成の真価

「ヤマトさん、これを見てください!」


 はて、これはいきなりなんだろうか。

 今の時刻は朝の五時。色々あって昨日は遅くに帰ってきたから今日はゆっくりと身体を休める日だったはずだ。


 と思いきや俺は相変わらずソファーで寝ていたところを叩き起されている。


 まだ完全に覚醒していない頭でぼんやりと辺りを見渡すと、目の前に真っ白な人影がある。別に不審者ではないだろう。シャリアなんだろうけど何故こんな朝早くに……?


 手に持ってるのはザルか?何かで編まれているようだがよく見えない。その上にも色々乗っているようだ。


「もうっ、ヤマトさんも寝ぼけてないで早く起きてください!これは朝早い時間でないと出来ないんです!」


 俺……も?


 どうやらシャリアはただ単に俺を早く起こしに来たわけでは無いようだ。

 そもそも俺に物が乗ったザルを見せに来てる時点で俺を起こしに来てるのは確定だろうが。


 俺はまだぼんやりとしている目を擦りながらゆっくりとソファーから起き上がる。

 そのままふらふらとしながら水を汲んである桶の元へ向かい顔を洗う。


 本当ならここでコーヒーが欲しいところだけどこの世界では俺はまだ見つけていないのだ。紅茶ならあるんだけどな、クッソ高いけど。


 ともかく、顔を洗って何とか頭が回る状態にしてから俺はシャリアに向き直る。


「どうしたんだ?こんな朝早くから……なんかこの時間じゃないと出来ないとか言ってたけど」


「はい!ヤマトさんが昨日使った火薬玉、あれってこの前作ってたやつですよね?」


「ああ。小麦粉と火薬を混ぜた物だ。ここだと小麦粉が高いからもうここじゃ作れないけどな」


 あれには火薬の粉末より軽い小麦粉も少々混ざっていた。そのためより広がりやすくなっているのである。


「そこです!」


 シャリアは俺にビシッと指を突きつけた。


「ヤマトさんはその火薬玉を作る時、何かしましたか?」


 何かした?……確かにスキルは使ったな。でも関係なさそうだけど。


「言わなくても大丈夫です。ヤマトさん、あの時は調合作成のスキルを使ってましたよね?」


 バレてたな。普通にバレてたな。というか自分で話したんだっけ?よく覚えてないけどな。


「ルルちゃんから聞きました。ヤマトさんはそのスキルを火薬玉の制作に使ってましたけど本来は薬品などの調合に使うべきなはずなんです」


 だからこれです、とでも言うように彼女は手に持ったザルの中身を見せてくる。

 石の欠片に細長い葉、小瓶に入った半透明の液体、円形の紫色の葉など色々だ。


「ヤマトさん。知る限りの魔法陣の制作方法を伝授します。そうすればルルちゃんの助けにもなるはずですから!」


 魔法陣の制作方法?つまり、俺にもシャリアが持っていたような魔法陣が作れるようになるってことなのか?

 だとするとザルの上に乗っている物は魔法陣の材料……多分インクの材料なのだろう。

 シャリアが言っていたことが正しいならばインクの調合こそ俺のスキルの出番だろう。今までは小麦粉玉の火薬と小麦粉の分量調整ぐらいにしか使っていなかったがようやっと日の目を見るわけだ。

 それに前に誓ったようにルルのためになるなら俺はなんでもしよう。


「よしシャリア、早速始めようかまず何をすれば良いんだ?」


「はい、じゃあまずは……」





 そんなこんなで約二時間後、俺とシャリアが作っていた魔法陣のインクが完成したのだが……


「ははは……まさかこんなことになるとはな……」


「はい……こればっかりは私も予想外でした……」


 俺とシャリアは出来上がったインクを目の前に呆然とする。

 問題はその出来栄えだった。


「まさか魔力浸透や粘度、濃度まで一級品、いやそれ以上かもしれない出来ですよ……!」


 初めてにしては上々だろう。しかし、シャリアによると相当良いもののようなのでこれで魔法陣が描ければ完璧だ。


「調合作成スキルの真価……発揮出来ましたね」


「ああ。正直ハズレだと思ってたけどなかなか当たりじゃないか」


「ええ……ヤマトさん」


 すると、シャリアが見たことないほど真剣な表情でこちらを見てきた。


 その様子に押されて俺も自然と背筋が伸びる。


「ど、どうした?シャリア?」


「ヤマトさん……このスキルを使って私たち三人で薬屋でも開きませんか?多分ものすごく人気になるとなると思うんですよ!」


 なんと、真剣な表情で何を言われるかとビビってみればまさかの提案。でも薬屋をやる気は残念ながら無いのだ。


「そうですか……私自身、冗談半分だったんですけどね」


 つまり半分は本気だったのか!


「でもとにかくヤマトさんの調合作成スキルはインクを作れるんです。ならばあとはルルちゃんが今やってくれてる物が完成すれば……」


「それはもう出来たわよ」


 その声の方に振り向くと、昨日見たような三十セール四方の紙を掲げたルルが立っていた。



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