剛体蜥蜴の魔石杖
「またまたこれは……なんとも上質な魔石じゃないか」
そう言うのはだいたい八十歳くらいのお婆ちゃんだ。顔はしわくちゃで鷲鼻、白髪を持っているので黒いローブを着ていて、とんがり帽子を被せたらリアル魔女が完成しそうだ。
まあ本物の魔法使いなら目の前に居るのだけど。
今訪れているのは中間都市アールムにある魔法道具専門店だ。その名の通り様々な魔法道具を扱っていて、杖も売っていたりする。そして杖が置いてあるところは大抵の場合そこの店の店主が作っていたりするのだ。
つまり、杖を作っているということは杖に魔石を嵌め込むことも当然の如くやっている。今回ここを訪れたのはそれが狙いだ。
「この魔石の持ち主は何だったんだい?見た目はリザード種系に似ているけどねえ」
魔石はある程度魔物の種類によって色が別れる。
例えば
そのため女性の魔法士ハンターは魔石の色すらファッションに組み込んだりするのだという。
「それは
「なるほどねえ。で、お嬢さんはこれを杖に付けるのかい?」
「はい。まだこの杖に一度も魔石が嵌ったことなくて……」
未だにルルの杖には魔石が嵌っていない。彼女の杖の魔石を嵌める所は木の根で魔石を包むようなデザインをしている。ただ今は何も無いので寂しいデザインでもある。
「そうかいそうかい。なら、私が付けてあげよう。なに、お代は結構だよ。変異種の魔石を見せてくれたお礼さね」
そう言ってお婆さんは杖と魔石を受け取ると台の下から魔法陣の描かれた一メール四方の布を取り出し、その上に杖などを置く。
「魔石を杖に嵌める時は常に両方に魔力を流し込まなきゃいけないのさ。この魔法陣はその魔力を安定して引き出すことが出来るようになっとる。魔力をただ垂れ流すだけでこれは機能するから普段は意識すらしない魔力をさらに忘れてしまうねえ」
なるほどね……
ルルも魔法を使う時はただ集中してるだけだって言ってたけどどうやら本当らしい。このお婆さんの言うことが正しければ魔力は垂れ流すだけで魔法は扱えるらしいからだ。
つまり、俺も魔法は使えるはずなのだ。
実を言うと俺はこの世界に来てから一度も自分で魔法を使ったことがない。
理由は分かっている。それは、この世界でやっていたことだ。
俺はフーレン伯爵家の人達に拾われてからは色々と学んだが、そのほとんどがこの世界のことや銃や剣術、体術などに偏っていて魔法に関しては全くと言っていいほど知らない。
魔力という概念もついこの前に知ったぐらいでその時はルルに呆れられてしまったのを覚えている。ちなみにルル曰く、俺はそれなりに魔力は有していて、同世代の中ならばかなり多い方だとか。
という訳で俺は一応魔法が一般的な世の中で魔法が使えない人間として生きてきたのだ。まああくまで一切練習をしてこなかっただけなのでちゃんと練習すれば魔法も使えるようにはなるようだが。しかし、目の前で魔法陣を用いた魔法を見るとすぐに魔法を使ってみたくなってしまうのだ。
「魔法陣か……少し頑張って探してみるか?可能性は有るわけだし」
「どうかしましたか?」
俺の呟きがどうやらシャリアに聞こえていたらしい。
俺は今後説明するのも面倒なので俺が魔法を使えないことなどを一通り話していく。ついでにシャリアにも魔法が使えないか聞いてみたのだが……
「私も魔法は使えますよ。火属性魔法なので火起こしに便利なんです」
その答えに俺は苦笑いをするしか無かった。
俺やルルは火属性魔法には全く縁がない。俺は分からないが、ルルは火属性魔法は全く扱えない。
だから野宿の時は毎度毎度火起こしに手間取っていたのだが……これからはあまり苦労はしなさそうだ。
「出来たよ。ほら、ぴったりと嵌っているだろう?」
声を掛けられ台を見ると、ルルの杖の先端には確かにぴったりと魔石が嵌っている。
ルルの杖は長さが一メール半程で、木の根が捻くれて集まったような見た目をしている。魔石が嵌るべき場所にはまさに木の根とでも言うようなものがあったのだけどそれは今は赤色の魔石を包み込んでいる。
むしろ飲み込んだようにも見えるのだ。
森などに行くと木が岩などを包んでいることがあるだろう。
それは成長の過程で邪魔だったからに過ぎないからなのだが、この杖の魔石の包方はまさにそれなのだ。そ
「本当だ!……えへへ、これでこの杖も……」
ルルは心底嬉しそうだ。その笑顔でさっきの鍛冶屋での寸法事件や他の諸々などはどうでも良くなってしまう。
悪い癖なのかもしれないが、こればっかりはどうしようも無い。
「えへへ、ありがとうございます!──行くよ、ヤマトにシャリアも。まだまだやることはたくさんあるんだから!」
そう言ってルルはお婆さんに頭を下げると、タッタッタッ〜と走って行ってしまった。
俺とシャリアはその様子に少し呆れるときちんとお婆さんに頭を下げて、すぐにルルを追いかけるのだった。
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