装備制作依頼

「で?お前さんらは貿易都市から来たのかい?」


 椅子に座り、煙草を咥えて彼は話し始める。


「はい。貿易都市ナラルラからここまで来ました」


「なるほどの……さっきミードから聞いたと言っていたのはそういう事か」


 すると、彼は紙とペンを取り出してこちらに向き直る。


 ミード氏の名前を聞いた途端ずいぶん好意的になったな。ミード氏とどんな関係なんだろう。


「わしはモック。この街で鍛冶師を三十年はやっている者だ。さてお前さんらは何を作って欲しいのかな?」


「あ、はい。えっと、まず俺は前腕を覆うような篭手と胸当て。それに膝下の鎧です」


「私はここに書いて来ました。──どうぞ」


 そう言ってルルは彼に一枚の紙を渡す。シャリアが何も言わないのを見ると既に書いてあったのかな?いつの間に……


「なるほどの、内容は分かった。では材料はどうする?金属か?それとも魔物の素材でもあるかの?」


 俺は一つの魔法袋を取り出し、目の前に置く。


「この中に入ってます。中身は……」


 俺が中身を言い終える前に開けてしまった。


「これは……なんじゃ?形は剛体蜥蜴ビッグリザードに似ておるが……」


 彼は中の鱗を一枚取り出してそう言った。


「あ、正真正銘剛体蜥蜴です」


 そう伝えると、彼は目を丸くした。


「何!?これが剛体蜥蜴だと?まさか、こんな大きいわけが無いだろう!?」


 まあそうなるよね。だってあんな大きさの剛体蜥蜴見たことないしもう見たくもない。


「変異種のようです。偶然遭遇して私たちが倒しました」


「そんなまさか……いや、信じよう。分かった。この装備依頼、わしが受けさせて貰う。他ならぬミードのたのみじゃしな」


「ありがとうございます」


 そう答えると、彼はすぐに作業に入るようで工具を手に取った。


「そうじゃ、この中の剛体蜥蜴は使ってしまって構わんのだろう?」


「ええ。魔石は取り外してありますので好きに使ってください」


「分かった。では寸法を取りたい。向こうに娘がいるからあいつにやってもらえ」


 そう言ってさらに奥を指さした。


 

 奥に向かうと一人の女性が手に巻尺を持って既に採寸の準備を整えていた。


「話は聞こえてたよ。さっそく始めようか。──じゃあそこの白髪のお姉さんから」


 採寸はシャリアから始めるようだ。さすがに俺がいる訳にもいかないので俺はひとまず部屋の外に出る。


 しかし壁一枚挟んでいるだけなので意外と声は聞こえてきたりしている。


「へぇ……シャリア、あなたってその歳で結構胸あるのね……」


 とか


「ルルさんだってあるじゃないですか……私よりも」


 とか


「腰周り……ちょっとだけ増えたかな……?」


 だったりとか色々聞こえてきたのである。


 俺は必死で耐えるしか無いのだが、あんな想像やこんな想像が浮かんできて仕方がない。だって中身は清く正しい二十数歳の男性なんだから。

 彼女とかはいた事なかったけどちょっとした妄想くらいならしたことあるもの!


 と、アホなことを考えながらルル達の採寸が終わるのを待つこと少し長めの数十分。ようやく彼女達が終わり、次は俺の番……と思っていたのだが。


「少年、君は採寸は大丈夫だよ。もう取ってあるからね」


 巻尺を持って出てきた女性から発せられたのはそんな衝撃発言だった。


「え?俺、一度も採寸なんか……」


「大丈夫だよ。そこのお嬢さんが教えてくれたから」


 するとあからさまにルルが明後日の方向を向く。


 まさか……ルルは俺の身体のサイズまで把握しているのか!?

 どこまで把握しているんだ?腕や足はともかく胸囲までとは。


 長いなと思ってはいたが俺の身体のサイズを教えていたのか?


「ちゃんと寸法は貰ったから安心していいよ。教えて貰ったからね」


 そう言いながらニヤリとその女性は笑った。


 そんな……まさか、俺の息子まで……?


 いやいや、そんなことはありえない!ルルの前でそんなことはしたことが無い!ならば知られていないんだ!きっとそうなんだ!


「ほら、ヤマト行くよ?そんな落ち込んでないで今日はやることがたくさんあるんだから!」


 そんなに落ち込んでるように見えたのかは分からないが俺はフラフラになりながら幽鬼の如く彼女達の後をついて行くのだった。




────────────────────本日は同時に新作の【記憶で操るマリオネット 〜ロボ乗り軍人生活始めました〜】を公開しました!ぜひそちらも読んでみてください!



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