中間都市の鍛冶師
カーンカーンカーン
この音はどの街でも同じだ。
でも貿易都市よりは数は少なく思える。
ここは鉱山を中心に出来ている中間都市アールム。
だからと言って鍛冶師が多い訳では無い。その理由はこの街があくまで鉱山が中心であって鍛冶が中心では無いからだ。
鍛冶が中心の街は実は他にあり、ここはあくまで鉱石を産出し、輸出する役割のある街なのだ。
正確には輸出をする街は貿易都市ナラルラであるが。
しかし、この街に鍛冶師が居ない訳では無い。むしろ鉱石を直接仕入れてすぐさま鎚を打ちたい人が居たりするのだ。そういう人は総じて腕が良いのがお約束である。
つまり、数は少ないが腕の良い鍛冶師が居るのである。
俺たちが貿易都市を出た時ここを目指したのはそれが理由でもある。ちなみにここを紹介してくれたのはギルド長のミード氏だ。
貿易都市を出たあの時は他にも東に向かうルートも候補にあったのだ。
東に向かった場合は貿易都市から海の方に向けて移動する馬車に乗って沿岸部の街をのんびりと行くのだが、今回は城塞都市方面に向かっている。理由は先程の通りだ。
「この辺りのはずなんだけど……」
俺たちは中間都市の大通りを進んでいる。
この街の中心の噴水広場から西に向かえばその鍛冶師がいる店があると道行く人に聞いたのだが、探しても見つからないのだ。
目印は看板替わりのぶら下がったハンマーだと聞いたのだが……
「ハンマー……無いですね」
「ええ。本当にここで合ってるの?」
俺もそろそろそれを疑い始めていた。
「さっきの人によるとここのはずなんだけどね……間違っちゃったのかな?」
あちこち見てもどこにもハンマーの看板は無い。
ここの通りでは金属を鍛える音は聞こえてくるもののどれもエンブレムを看板にしていて、ハンマーそのものの看板は無い。
ちなみに鍛冶屋は基本的に店の目の前が開いているものが当たり前だ。
中にある炉の熱を逃がすという意味もあるが、何より音を響かせるためらしい。
鍛冶屋における鎚の音とはある意味店前の看板よりも遠くに届く存在証明のようなものだ。
しかし、この街には鍛冶師はいる。だがそこから一人を探し出すのは意外と難しい。
ここはあくまで鉱山の街。鍛冶は盛んでは無い。しかし居ない訳では無い。
つまり、いくつもある中から一つの鍛冶屋を探すのは音ではなく結局は看板なのだ。今はその看板が見つからない。
「あっ!ありました!」
シャリアが声をあげて指さしている。
彼女の指は路地の奥、そこにあるハンマーの看板を指さしていた。
確かにそこには看板があり、音も聞こえてくる。
鍛冶屋があることは確定だ。
奥に進むと、徐々に暑くなってくる。鍛冶屋独特の炉の熱だ。
「こんちはー……誰かいませんか?」
鎚の音が聞こえてきているのだから誰かいるのは当然なのだけど元日本人の性かそう聞いてしまう。
「ん?お前さんらは客か?」
奥から小柄な男性が出てきた。おそらくドワーフだろう。
「はい。装備品の制作を依頼したくて来ました」
「そうか。ところでここを知ったのは誰からだ?」
誰から?
何故そんなことを聞くのか疑問に思いつつも、俺は素直に答える。
「貿易都市ナラルラのギルド長からです。ここに腕の良い鍛冶師がいると聞いて」
そう答えると、ドワーフの男性は頭をガシガシと搔きながら話す。
「クソッ……あいつの仕業か……。なら仕方ない、とにかく中に入れ。続きは中で話そう」
どうやらあのギルド長と知り合いのようだが、彼が奥へ行ってしまったので俺たちも奥へ行くことにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます