捜索と発見

「着いたよ!こっから登っていけばもしかしたら……」


 ダンを含めた〈風の導き〉のメンバーはベルの声が掛かると同時に馬車から飛び降りる。


 既に装備は整えた状態だからすぐに山の中に入る。


 そのつもりだったのだが、近くに馬車が一台止まっている。近づくと、御者がこちらに走ってきた。


「っ!どうした?」


「頼む!教えてくれ、この山で何が起きている?さっきから爆発だったり何かが弾けるような音が聞こえるんだ!」


 それを聞いてダン達は確信する。


 爆発はわからないが弾けるような音はおそらくヤマトの持つ銃の音だろう。


「この山に今、魔物の変異種が出た。危険だからあんたは先に帰ってくれ」


 そう告げると御者の彼はそそくさと帰って行った。


「よし、行くぞ」


 今度こそダン達は山に入る。


 ササ山はそこまで深い山ではない。


 ただ、下手に入ると迷うことがあるが、初心者が最初に向かうフィールドでもある。



「なんか……静かですね」


 ナクルも気づいたようだ。さっき御者が言っていた音は聞こえない。むしろ静かだ。何も聞こえてこない。



「やっぱりなんか変だ。少しだけ虫がいるけど野生動物とか全く見てない」


 山に入ってからダンも気づいていたがこの山は何かおかしい。


 不気味と言うべきか、大きな音がしないのだ。カサカサと虫の動く小さな音と自分たちの歩く音しか聞こえてこないのだ。

 普段は野生動物が動いたりする音が聞こえてきたりするものだが。



「おい、お前ら。ちょっと待て。俺を置いてくな」


 山の中を歩いていると後ろからそんな声が聞こえてきた。

 振り返るとギルド長のミードが追いかけてきていた。


 息を切らしている。大して移動してないがもうデスクワークに慣れていて体力が無くなってるんじゃないのか?


「あの御者から話は俺も聞いた。音はおそらくこの山の中間地点だと思う、との事だ」


 この山の中間地点か。ここからなら三十分くらいか?


「よし、そこに向かうぞ。もしかしたらいるかもしれない」


「おい、後ろの連中置いてくなよ」


 ミードが何か言っているがそれに構っている暇はない。


 ダン達はできるだけ急いで登っていく。


 それなりに鍛えてはいるが、剣や盾、杖などを持っているとどうしても移動は遅くなってしまうものだ。


「あの二人はそうそう死ぬようなやつでは無いと思うが……何度か一緒に出かけると情が湧くもんだな。俺も心配だ。いつどんな奴が出てくるかわからないしな」


 モールまでもがそう言っている。


 実際剛体蜥蜴の変異種は大きさ以外分かっていない。本当に剛体蜥蜴を大きくしただけなのかもわからない。もはや何が出てきてもおかしくはないのだ。


 

 常に警戒しているせいでかなりゆっくり移動した。


 結果一時間以上かかったが、何とかササ山の中間地点には到着した。


 しかし、彼らの目の前にあったのは予想していたものとはかけ離れたものだった。




「なんだこりゃあ……こいつが例の変異種……なのか?」


 目の前には巨体な生き物の死骸───おそらく剛体蜥蜴の変異種のものが周囲が少し抉れた状態で転がっていた。


「こいつが剛体蜥蜴の変異種か……報告通りの大きさだが誰が倒した?」


 それはこの場にいる全員に問いかけられたが誰も答えられない。


 手がかりが少なすぎるし何より倒した当人がいない。


 皆が頭を捻らせる中、声を上げる者がいた。


「そうだ!ヤマトとルルちゃんはどこだ!?」


 その声に彼らは我に帰る。


 剛体蜥蜴の変異種が死んでいるならやるべきことは一つ。この山にいるはずの二人の捜索だ。


 周囲を見渡してもあるのは木々ばかり。人影なんて見えない。足跡も砂利ばっかでわからない。


「ふむ……これは燃石の粉末……?ならば爆発の跡の理由も……」


 ミードはギルド長だから剛体蜥蜴の死骸の検分をしているがせめて今ぐらいは探すのを手伝って欲しいものだ。



 だがそれはベルの声で打ち消される。


「見つけた!二人ともここに居るよ!生きてるから安心しな!」


 ダン達はその声のする方に駆けていく。


「ほら、幸せそうに寝てるよ」


 その場所にたどり着くと、そこには木の下で仲良く手を繋ぎ、並んで寝息を立てている二人の姿がぼんやりと見えた。


「これは……結界ですね。簡易的ですけど魔物を弾く効果がある。それなりには高度ですがこれをルルちゃんが……?」


 ナクルは彼らの周りに張ってある結界が気になるようだがまずは二人が生きていることを喜ぶべきだろう。


「よかった……よかったなぁ……」


 ダンなんて泣いている。余程心配していたのだろう。


「だけどよお、ここに二人が居るってことはもしかしてこの二人があの剛体蜥蜴を倒したのか?」


 モールの疑問はもっともだ。すぐそこに剛体蜥蜴がいるというのにこんな近くでゆったりと寝ていられるわけが無い。


「まあ、何はともあれ二人が見つかったんだ。それに変異種も討伐されてた。ならまずは街に戻って二人をちゃんとしたベッドで寝かせてあげようぜ。それから事情を聞けばいいさ」


 ダンの提案には全員が賛成した。


 そこからはダンとベルがそれぞれ二人を背負い、麓に降りた。


 そして、戻ってきていたさっきの御者の操る馬車に乗って街へ戻り、この変異種事件は終了したのだった。





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