翌朝の目覚め
「…………ん………?」
なんか眩しい。
目の前が真っ白だ。
この世界に転生してきた時に似ているような気がする。
だけどあの時みたいな感じでは無い。記憶もはっきりしていてどこかに横たわっている感覚もある。
あれからどうなったんだっけ?
確か俺はルルと一緒に木の下で寝たはず……
ちゃんと剛体蜥蜴は倒したから俺らの身には何も無いはずだ。
思い切って目を開けてみる。
「……ここは……」
目に飛び込んできたのは見覚えの無い木の天井だ。
あ、「知らない……天井……」って言うの忘れた。んな事はどうでも良くだろうとツッコミがありそうなものだ。
眩しく見えたのは窓から入ってくる太陽の光だった。
目の前が真っ白なのは目を閉じていて光を浴びていたからそう見えただけだろう。
窓の方を見ると開いていて、涼しい風が入ってくる。それと同時に外の音も聞こえてきていつも聞いてる音だとわかる。
そして聞こえてきた聞きなれた優しい声。
「ヤマト、起きた?」
「うん。ルル、おはよう」
隣のベッドではルルが横たわりながらこちらを見ていた。
顔色もよく、元気そうだ。
あの時は本当にキツそうで顔色もよくなかった。今は本当に良くなっていて安心する。
「ルル、体調は大丈夫なの?」
「うん。もう万全だよ!」
そう言って彼女は起き上がった。
俺も起き上がると、ギルドの中の医務室だとようやく気づく。
「そういえば、あれからどうなったかわかるか?」
聞くと、既に彼女は聞いていたみたいですぐに答えてくれた。
「えっとね……まずあの剛体蜥蜴を倒したのは昨日みたいなの。それでね、あの剛体蜥蜴は変異種だったみたいでその話はギルドにも伝わってたんだって。だからダンさん達が助けに来てくれたみたい。それでね、寝てた私たちをギルドまで連れ帰ってくれて今は下で待ってるんだって。なんかあの剛体蜥蜴についてちょっと揉めてるみたいだけど」
ダンさん達が助けに来てくれたのか。色々とあの人達には助けてもらってばっかりだな。
それにしても変異種か……
話には聞いたことはあったけど本当に居て、まさか遭遇するなんてな。
「それはそうとして、ヤマトは身体大丈夫なの?なんか火傷にアザがあるって聞いたんだけど!」
え、そうなの?
俺は体中を見ても、そんなのは見当たらない。
でも、爆発に吹き飛ばされたりしたから火傷とか打撲はあってもおかしくは無いな。
「見た限りは見当たらないな……誰か治してくれたのかな?」
二人で頭を捻るも分からないのでまずはダンさん達の元に向かうことになった。
服は外に出ていた時のままだったので傍に畳んであった自分の外套を羽織り、靴を履いて部屋の外に出る。
実は一度来たことがあるからどうやって戻ればいいかはわかる。
この医務室はギルドカウンターのあるフロアの一つ上の階にあるのだ。
だから以前ここに来た時は足を捻挫していた時で、階段を登るのがかなりキツかったのを覚えている。
かつて日本に居た身としてはバリアフリーって大事、と思ったほどだ。
階段を降りていくと、なんだが騒がしい。ルルの言うように何か揉めているようだ。
「だーかーらーっ!あれは俺らが倒したんじゃねえ!あの二人が倒した獲物だ!だから報酬は二人のものだ!」
「ですが、あの剛体蜥蜴は変異種ですよ?それを黄色タグの二人が倒せるとは思えません。あなた方が倒したとしか思えないのですよ報酬を断るのは勝手ですが知り合いのハンターに、それもまだハンターになったばかりの者に功績を与えるのはあまり褒められたことではありません」
聞こえた限りはあの剛体蜥蜴の報酬で揉めてるようだ。
「なんか揉めてるね……やっぱり私たちが倒したとは思われないんだね」
「そりゃあな、だって黄色タグのハンターがあんなの倒したなんて普通は信じられないもの」
そう呑気に隅で話していたのだが、偶然こちらを見たダンさんに見つかってしまった。
「おい、目が覚めたのか!身体は大丈夫か!?」
彼は急いで走ってきて俺の肩を掴んでガックンガックンと揺らすので目が回る。
「あ、あの……頭、揺らさないで……」
「ちょっとダンさん!ヤマトはまだ起きたばっかなんだよ!」
揺らされている俺を見てルルがダンさんを叱る。
そして後ろから歩いてきたベルさんに止められて俺はようやっと解放された。
「で、何で揉めてたんです?」
「あ、ああ。それがな、一つ聞きたいんだが、あの剛体蜥蜴を倒したのは二人なんだよな?」
やっぱりそれか。というか聞いていたから分かってたんだけどな。
またなんか言われるだろうけど正直に答えておくか。
「ええ、あの剛体蜥蜴──変異種だったみたいですけど──倒したのは俺たちですよ。信じられないのは当然でしょうけど」
「やっぱりそうなんだよな?あれは二人が倒したんだよな?」
ダンさんは何故か焦っている。迫ってきてなんか怖いが。
「嘘はいいんですよ。医務室で寝ていた子供たちまで巻き込んで……ああ、そういえばこの二人の片方がインチキ野郎って呼ばれてたそうですね。ならばこの二人が嘘をついてるのかもしれませんね」
なんだこいつ、すっげームカつくし見たことが無いヤツだ。
「あんた誰?見ない顔だけどさ」
「ほう……?王都のギルド職員である私にこんな辺境のガキごときが口を利いて良いとでも?」
やっぱりなんかムカつく。顔からしてメガネに三白眼でインテリ感あるけど見下してるような奴だ。こういう奴いるよね。
「まあ信じる信じないはどうでもいいんだ。とりあえずあの剛体蜥蜴を倒したのは俺らだから報酬くれない?」
結局面倒くさくなったからもう早めに片付けることにした。
「なんなら倒した方法を見せても良いですよ?」
「そうか、ガキの戯れ言だろうが一興か。良かろう、見せてみろ」
そういえば一年くらい前にこんなのあったな……
あの時絡んできた四人とはあれ以来ほとんど話してないけど元気に活動しているようだ。さっきも居たからね。
「ほら、さっさと見せてみろ」
ギルドの訓練所に来た俺らはあの時とは違って中に立っているのは俺とルル、そしてあのムカつく職員だけだ。
「わかりました。──なんなら受けてみますか?剛体蜥蜴を倒した方法をその身で。どうせ何かいちゃもん付けるでしょう?」
「ふむ……やってみろ」
よし、言質は取った。
ならば何をやってもいいだろう。俺が聞いてアイツは受けると言った。
だから俺は残っていた小麦粉玉に火薬を弾丸五発分くらい入れてを容赦なく投げつける。
小麦粉と火薬が舞い上がり、アイツの姿を隠す。
「な、なんだこれは!」
「言質は取りましたから。何をやってもいいんでしょう?これがあの剛体蜥蜴を倒した方法なんですから。そうですね……生き残りたければ今すぐにそこから出ることをオススメしますよ」
そう告げ、俺は銃を構える。
「ルル、普通の防御魔法お願い」
「わかった、撃つなら魔法防御が良いね。──光よ、我らを守り、力を通せ〈
彼女が杖を掲げ、魔法を唱える。
そして、聖盾を張った時とは別の光の膜が半球状に自分たちを包む。
これは光魔法によって構成された防御魔法で、物理的な土壁などの物理防御とは違うものだ。実体が無いから内側から攻撃をすることができる特殊な防御魔法だ。
うーん、結局あの職員は出てこない。
剛体蜥蜴の足を吹っ飛ばすぐらいの威力があるから場合によっては死ぬのだが……ま、防御魔法張ってるか!その影響かなんか小麦粉も周りを渦巻くように漂ってるし。
俺はそう思うことにして容赦なく発砲した。
そして、あの時と同じ爆発が目の前で起きたのだった。
─────誰かが言った。目覚めとは醒めることでは無い。目を開くことで世界そのものに身を委ねることなのである。
王国書記官筆
英雄譚第二章十項 『目覚め』より
第二章 了
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