彼女の魔法
銃声が森に響いた。
それを合図にルルは立っている岩場から降り始める。高さは十メール少ししか高さは無いが降りるとなると意外と怖い。
登る時は結構登りやすい場所を登れたけど、今降りている場所は辛うじて降りられそうな場所。
今はヤマトがあの
正直……私は木登りとかが苦手。
昔から魔法は得意だったけどこういった身体を動かすのは得意じゃ無い。走るのは好きだけどね。
ルルは精一杯身体を動かして岩場を降りていく。
今も断続的に銃声が響いて私がここを降りる時間を稼いでくれている。
だから急いで降りて、早く移動しないとヤマトがより危険になる。
予定ではここを降りてさっき確認した東の方に向かう。
ヤマトは隠れながらあの剛体蜥蜴を巻いて、合流する予定だ。
上手くいくかは分からないけどやるしかない。
私は岩場を降り切ると振り返らずに森へと駆け込んだのだった。
◆◇◆◇◆
連続で弾を撃っているがことごとく弾かれる。あいつが動き回るせいで真正面から当たらない。
初弾は見事命中した。狙い通り目に命中だ。だから今もトカゲ特有の大きな左目からは血が大量に流れ出ている。
一応視界は片方潰したが、あいつはあまり気にしていないようだ。
それに頭が悪いのかこちらに気づいてもいない。
実際、撃たれていて何かに攻撃されているのには気づいているがその場所が分からないと言ったところだな。
「まだ三分ぐらいか……?せめてルルが逃げる間、五分は稼ぎたいな」
弾もそれなりには持ってきているが、腰の弾丸ケースに入っている弾は三十発程度。もし無くなったら魔法袋から取り出さなければならない。
そうなるとしばらく銃撃が止まってしまうから結構面倒だ。
少なくともあいつはどこから撃たれているかは気づいていないがいつ暴れてこっちに登ってくるかは分からない。早いとこここから降りたいが……
「ルルが降りてからあと少しで五分だけど……」
実は下でずっとあいつが暴れているがこっちに一切影響がない訳では無い。暴れて岩場に身体をぶつければその部分にヒビが入るし、それが続けば崩れてしまう。
ついさっきも小さな岩が崩れ落ちた。
それを考えると早いとこ降りなければならない。
俺は様子を少し見て、すぐに決断する。
「よし、降りるか」
俺は下にいる剛体蜥蜴に一発撃ってすぐにその場を離れた。
向かうはルルが降りたところ。俺はそこを階段の一段飛ばしの要領で降りた……のだが、実際これは二度とできる気がしないしなんで出来たのかも謎だ。多分怖くてアドレナリンとかが出てた結果だと思う。
まあとにかく岩場を降りることが出来た俺は森の中に走る。
すぐにあいつも銃撃がやんだことに気づいて俺を探し始めるだろう。
さっき片目を潰したからそれなりにはダメージが入っていることを期待するけど。
俺はできるだけ早く走るため、護身用のナイフを除いて銃を魔法袋にしまう。剣は元から袋の中だ。
軽くなった俺は木々を縫うように走る。しかし、すぐに大きな足音が聞こえてくる。
こんなに早く追ってくるということは降りたことがバレていたということか?
わからないけどとにかく走るしかない!
ここは森とはいえ山の中だ。しかも今は少し下っているため、普段よりは早く走れているはず。だけどそれは相手も同じだろう。
一瞬振り返っても姿は見えない。だけど足音は聞こえる。
はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。
姿が見えないからどこから見られていて今どのぐらいの距離があるのか分からない。
「グオオオオォォォォ!!」
また叫んでいる。だけど今の叫びのお陰でどっちの方にいるのかはある程度検討がついた。
だけどしばらくは耳がキーンとして使い物にならなそうな気がするけど。
「くそ!やっぱりあいつ早すぎだ!」
走りながら叫んでも何も変わらない。とにかくまっすぐ逃げるだけだ。
このまま行けば一気に下って麓に出てルルと合流する……
でもその前にどうにかしてあいつを巻かないとな。
さっきみたいな岩場はもう無いだろうしどうする?
考え事をしながら走るのはかなりキツイ。
酸素が足りない。
体力もそろそろ限界だ。
だけど走らなきゃいけない。
止まれば待っているのは死だから。
死ねばもうルルには会えないから。
ルルに会えなければ黒龍も倒せない。
この世界での恩人達に顔向け出来ない。
だから俺は走る。
ああ……足音がどんどん近づいてくる。
俺の走る速度が落ちているのかあいつが早くなったのか分からない。
だけどすぐ後ろにいるのは分かる。
もう……ダメかもな。
足が限界だ。
すぐそこに開けた場所があるじゃないか。
そこが俺の死に場所かもな。
ははっ、ルル……ゴメンな。
そう思った瞬間だった。
その声が、俺がこの世界で最も聞き慣れている声が聞こえたのは。
「大地よ戒めろ〈
その声はこの森に高らかと響いたのだった。
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