閑話 ヤマトの手記帳
─────今までも日記のような形で書いていたが黒龍によって消失したため、改めてここに記す。
王国歴三二八年 残火の月 九日
俺がこの世界に転生して早くも七年が過ぎた。その間にルルやガルマさんといった大切な人にも出会えた。
しかし、あの日から全てが変わってしまったことはここに書くまでもないだろう。
前述の通り、俺がこの世界に転生してからの記録はおそらく黒龍によって消失している。あの瓦礫の中を探せば見つかるかもしれないが、そこまでする必要も価値もないだろう。そのため、改めてここに書くことにする。
さて、この世界について知りたいことは多々あるが、今は書く必要は無いと判断し、これからはわかっている事のいくつか考察のようなものを書いていきたいと思っている。
まずはこの世界における銃の存在だ。
そもそも、銃に使われる火薬は元の世界では九世紀頃に中国で誕生している事がわかっている。当時から武器として使用されていた。約千年を掛けて世界を巡り、現在の銃の形になったとされている。
しかし、この世界では少し誕生の仕方が違っていることがわかった。
この貿易都市に来て約半年、俺は図書館やギルドの資料などを片端から読み漁り、情報を集めた。もちろん依頼もきちんとルルと一緒にこなしていたため、ほんの少し効率は悪かったが。
驚くべきことに、この街のギルドのギルド長の協力が偶然得られたのは大きかったが。
そして、この街の資料とギルド長の話を聞いた結果をここにまとめて行く。
まずはこの世界の銃の歴史だが、これは貿易都市ナラルラのギルド長であるミード氏からの情報によるものだ。
彼はドワーフ族で、かつギルド長にまで上り詰める実力があったため、銃などの道具に関する知識があった。
俺の持つ銃を見てもらったところ、これはドワーフ族の作ったものの模倣品だということが判明した。
ミード氏曰く、「ドワーフの作るものはこんなちゃっちいものじゃねぇ」だそうだ。
さらにドワーフはもっと良いものを作るどころか、既にこんなものは使われていないのだという。
それが武器なのか技術なのかは分からなかったが。
しかし、武器として銃が生まれた経緯はわかった。
ドワーフの国には特殊な技術を用いなければ採取出来ない石があるらしい。
今でこそその石を切り取っている石切場では新技術が使われているらしいが、数百年前は杭を打ち込んで切り出すということをやっていたようだがその杭を打ち込むのに使われていた道具が銃の前身らしい。
ドワーフでも鉱山では火薬を使う。坑道を掘るためだ。
しかしその石は火薬で爆破しても大した量は採れず、歪な形で普段のように切り出す方が効率が良かったのだ。
だが、とあるドワーフが火薬で爆破した石の近くで切り出し途中だった石に杭が刺さっているのを見つけた。
その結果ドワーフは火薬で爆破させても石は多少壊れるだけだが、杭と一緒に使えばさらに効率が良くなるのではと考えた。
そうして完成したのが筒の中に打ち込む杭と、火薬を入れた火薬式杭打ち機だ。いわゆるパイルバンカーだ。こちらの世界でもドワーフによってパイルバンカーは誕生していたらしいが、その技術は人族には伝わっていないらしい。
その杭打ち機はドワーフ族のに約百年使われたが、その間に石を切り出す新技術も研究されていた。
そして、その新技術が完成すると効率の関係で次第に杭打ち機は使うものが少なくなって行った。
しかし、魔物に悩まされるのはいつの時代、どの種族でも同じようでドワーフは火薬を用いた武器を作り出した。
杭打ち機の射出力を参考に杭と同じように小さな物体を飛ばせれば弓よりも安全に魔物に対抗出来るはずだとドワーフは当時彼らが住んでいた北のノーク大陸に住む多くの種族の協力を得て開発したのが俺の手元にある銃の原型なのだという。
現状、銃は世界中で探しても数はほとんどないだろうとの事。
あるとしたら各国の首都や城塞都市にほんの僅か程度らしい。
当のドワーフもすでに使っていないため、もはや骨董品扱いになること請負だとか。
ここまでがこの半年間で得た情報になる。
火薬や弾丸はあまり使っていないからまだまだ大量にあるし、火薬も弾も鍛冶屋などに行けば入手が出来るらしいから問題無い。
今後は王都などでも情報が得られるはずなので、当面は王都に向かうことになるだろう。そこに行けばおそらく黒龍の情報も……あると願いたい。
残火の月 九日
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます