キュアル草とお肉狩り

「なんかよく入った山と似てるね〜」


 ルルが呑気に話しているが今は山の中で薬草となるキュアル草探しの最中だ。


 山は基本的には似ていると俺は思っている。

 明るい場所と暗い場所があってそこに生える植物は結構似るものだ。

 


 ただそれに縛られないのがキュアル草である。


 キュアル草は三種類色があり、それぞれ赤葉、翠葉、紫葉と分けられる。赤葉は打撲に、翠葉は切り傷に、紫葉は毒に効果があるのだ。


 その色は日当たりといった条件に一切関係無く生え、今まで研究が行われているが特定の条件でどの葉が生えるのかは分かっていない。


 なので、特定の葉だけを集めるのは意外と難しいため、依頼にはよく合計枚数と記述されるらしい。



「今までとやってることは同じだからな」


 とりあえずいろいろ歩き回ってキュアル草を探す。


 木の根元に生えていることが多いのでそこを探すがなかなか見つからない。


 まだ十枚程度しか見つかっていないのはなかなか珍しい。


 ある場所には大量にあるのだが、ここにはほとんど無いらしい。もしかしたらここで採取されたばかりなのかもしれない。


「ルル、もう少し奥に行ってみようよ。まだあるかもしれないし」


「そうだね。まだ時間も早いから大丈夫だね」


 そんな会話をしながら俺たちはササ山のさらに奥を目指す。


 ササ山は大して深い山でもない初心者が入るには最適な山だと俺は思う。そんな山が貿易都市に近いのはハンターにとっても良い事だろう。

 しかも様々な生き物がいるのでやはり初心者には優しいのだろう。


 

 

 しばらく進むと小さな広場のような場所に出た。

 ここはこのササ山の上層と下層の境目に当たる目印となる場所だ。

 下から上がってくる人が通るルートはだいたい決まっているのでその通りに進んでいけばこの広場に出ることができる。


 俺たちもその道の周りを探す形で登ってきたのでこの広場に出たわけだ。


「ここから上層か。まあ危険も無いだろうし行って大丈夫かな」


「そうだね。まだ全然足りないし奥に行っても私たちなら大丈夫だと思うよ」



 そうして、さらに奥に進んだのだがそこには今までがなんだったのかと思えるくらい大量のキュアル草が生えていた。


「ははっ、これは凄いな。取り放題だ」


「本当だね。赤に翠に紫もいっぱい生えてるから全部三十枚ずつ持って帰っても全然問題なさそうだね」


 おそらく群生地なのだと思う。

 さっきの広場からしばらく奥に入るとササ山の裏にある山との間の日当たりの良い開けた場所にキュアル草の群生地が見えたのだ。

 上から一気に降りて今はそこに居る。


 その山から先は山脈に近くなっているから魔物も多いそうなので入らずに居るが、ここならば大丈夫だろう。多分他の人にもあまり知られていないポイントかもしれない。



 俺たちはルルの言ったように全てをそれぞれ三十枚ずつ取った。


 その時点でちょうど太陽が真上に来たからお昼をその群生地の近くの木陰で食べることにした。



 食事の内容はパンに干し肉にチーズを挟んだ簡易的な物だ。その気になればもっとちゃんとしたものは作れるが今はその必要が無いためこれで済ませる……つもりだった。


「ねえヤマト、肉食べたいんだけど持ってる?」


 ルルがこう言い出すまでは。


「肉?この前の角猪ならもう宿の女将さんにあげちゃったよ。持っててもしょうがなかったし」


 それを聞いたルルはまるでこの世の終わりのような顔をした。


「お肉が無いなんて……」


 ふむ、どうやらルルはこの前食べた角猪の肉で美味しさに目覚めたようだ。


 確かにあれはとても美味しい。食おうと思えばいくらでも食べれそうなくらいに。

 どうも、とある地域では高級食材として扱われているほどのものなので常に討伐依頼が出ていたりするのだ。それでいて繁殖力も高いため狩っても減らないのが利点だ。ただし豚や牛のようにどうやっても人には慣れないためにハンターに依頼が出ているのだ。なので、先日食べた角猪の子供もハンターの誰かが狩ったものだと思われる。


「街に帰ったらさ、二人で食べよう。女将さんに頼んで出してもらえばいい」


 俺は何とかルルを宥めようとする。


「ヤダ。今食べたいの!」


 ルルは今までに何度かこういうことがあった。数年に一度だったがこういうときは大抵が無茶振りだったため俺がよく振り回されていたのだ。

 だけど今回はそれに比べたらかわいいものだ。


「はあ……どうしても?」


「どうしても。ちょうどあそこにいるんだもの」


 ルルは俺達がいる場所から少し離れた所を指さす。

 そこには無警戒に草を食べている角猪がいた。


「ねえヤマト」


「なに?」


「角猪食べたい。だから撃って?」


 ルルは笑顔でそう俺に言った。


「わかったよ。ちょっと待ってくれ。あと一発で仕留められなかったら援護頼むよ」


 そう頼みながら俺は銃の準備を始める。

 この依頼の間は銃は森の中では取り回しがまだ慣れないから剣を腰に下げているだけだった。

 

 魔法袋に入れていた銃を取り出すと、俺は簡単な整備を始める。整備と言っても本当に簡単なものだ。なのですぐに終わる。



「ルル、角猪は動いてないよな?」


 俺は上手く隠れられて、狙える場所を探しながら角猪を目で追っているルルに聞く。


「うん。ずっと草を食べてるね。距離はだいたい150メールくらいかな?」


 距離があるな。

 かつての日本で使われていた火縄銃は射程が100メートル程度だったという。形や構造が似ているこの銃ではかすりもしない。

 ただしそれは常人が扱った場合である。俺には射撃スキルがあるから本来なら射程外の距離でも狙える。


 そう考えるとつくづくスキルって反則だと思う。銃身に付与してある反動軽減の魔法に加えてさらに反動を無くしてくれるのだから。

 それでもスキルは物理法則には逆らえない。

 俺もよく分からないのだが火縄銃の弾が外れやすかったのはその形状にもあったらしい。

 球形は空気の影響を受けやすいのだとか。なのでいくらスキルの恩恵で狙った場所に飛んでいくとしても細かな調整は必要なのだ。


「じゃあ撃つよ」


 俺は腰のポーチから弾を取り出し、ガチャリと音を立てて装填する。


 そして狙う。


(距離はルルの言うようにだいたい150メール。風は無し。弾がどこにブレるかは……賭けだな。ほんの少しだけ角度を付けて……撃つ!)


 パアン!と音が鳴ったと同時に角猪が倒れる。


 だが、少しした後に起き上がりこちらへ向けて走ってきた。首からは血が流れているから首に命中したのだろう。


 

 首に命中してるのに生きてるってどういうことだよ!

 てか、首からめっちゃ血が出てるのになんであんなに走れるんだ!?


 

 俺は角猪の様子に驚きながらももう一発を撃とうと装填する。


「煌めく光の矢〈光矢ライトアロー〉!」


 俺の後ろから光の矢が発射された。


 振り向くと、昨日買ったばかりの杖を構えるルルがいた。


 角猪の方を見ると光の矢が頭のど真ん中に刺さっている。一発で仕留めている。


「ヤマト、これでお肉が食べられるし皮も売れるね!」


 言われてみればそうだ。ダンさん達から聞いていたが魔物の皮などはギルドで買い取って貰えるらしい。なので依頼の最中に魔物を狩ることがあれば忘れずに取ってくるべきなのだとか。


 今回、角猪は俺の銃弾とルルの光の矢の二発で仕留めているからほとんど皮にはダメージが無い。だから剥ぎ取りで失敗しなければちゃんと買い取って貰えるだろう。


 剥ぎ取りの方法自体はこれもバナークさんから習っている。

 だからルルと二人でやれば一時間程度で出来るはずだ。


「ルル、ちょっと手伝ってくれ……」


 ルルはもう火を起こしていた。どれだけ肉が食べたいのかは分からないが俺はそれに呆れながら角猪から皮を剥ぎ取って行くのだった。




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