なんか絡まれたのだけど?

「はい。これで依頼完了お疲れ様です。キュアル草は依頼内容の約三倍の量を取ってきているので報酬も三倍の大銀貨12枚なります。金貨と大銀貨2枚に分けますか?」



 現在、貿易都市ナラルラのハンターギルドの中である。

 

 ルルの頼みで角猪を狩ったあと、その場で内臓などの処理をしたあと、小さく切り分けた肉を焼いて彼女を満足させたら俺たちはそのまま馬車の元まで戻り、街まで帰ってきたのだ。


「大銀貨のままでお願いします。あと魔物の素材も買い取って貰えると聞いたんですけど」


 俺はさっき狩った角猪の皮を魔法袋から取り出しながら聞いてみる。


「はい。買取もしていますよ。ではまず鑑定をするのでその皮をこちらに───では鑑定して参ります」


 角猪の皮を渡すと受付の人はカウンターの奥にあるらしい鑑定スペースに居る人にそれを渡していた。

 どうやらあの人が鑑定をしている人のようだ。テーブルに置いてある虫眼鏡みたいなもので細かく見たり、よく分からないペンのようなものを押し当てたりしている。


 その様子をカウンター越しにしばらく見ていると、受付の人がその鑑定の人と共に戻ってきた。


「私はこのギルドの鑑定担当のコウルというものだ。この皮は君たちが持ってきたものかな?」


 コウルさんは俺たちが持って帰ってきた皮を持ちながら聞いてくる。


「はい。依頼の最中に角猪を狩ったので。皮などは買い取って貰えるとの事だったので持ってきたのですが……何か問題がありましたか?」


「いや、問題は無い。ミラ、この子達は今日が初依頼なんだね?」


 ん?俺達は今日が初依頼だが何かあったのだろうか?もしかして角猪を狩ったことがやっぱりまずかったりするのか?


 よく分からないがとりあえず頷いて答える。


「なら簡潔に言おう。この皮は少なくとも大銀貨2枚の価値はある」


 思ってたよりも高いな。皮だけで大銀貨2枚も貰えるのか。今度から一頭は狩って皮は持って帰ってこようかな。


「どうしてそんなに高いのか知りたいって顔してるね。教えてあげよう。この角猪の皮は保温性が高いことで有名なんだ。そろそろ冬が近くなるから厚手の上着の生産が盛んになる。最近は毛長鹿ウールディーという魔物の皮を使っているものが多いんだけど今年は量が少なくて代わりに角猪の皮が値上がりしてるんだ。それに君たちの持ってきた皮はとても綺麗で状態が良い。だから大銀貨2枚なんだよ」


 なるほど。別にそこまで理由が知りたかった訳では無いが聞けば納得だ。やっぱり依頼のときはできるだけ一頭は狩って帰ろう。


「でも私も初めて見たよ。初依頼で角猪の皮だったりを持ってくる子達は居たけどまさか胴体に傷が皮を剥ぐ時のしか無いなんてね。お願いだ。どう倒したのかを教えてくれないか?」


 俺は隠す必要も一切無いためどう倒したかをコウルさんに話す。


「なるほどね……首を撃って彼女の魔法で頭を貫いたと……いやはやなんとも驚きだよ。本当なら笑うところだがここに傷のない皮があるから信じるよ。モノの言う通り君たちは見込みがありそうだ。はい、これがこの皮分の大銀貨2枚だ」


 俺は大銀貨を受け取るとカウンターを後にする。

 そのままギルドを出ようとしていたのだが声が掛けられる。

 俺ではなくカウンターから戻ろうとしていたコウルさんに。


「どういうことですか!さっき俺らが持っていった皮は銀貨5枚だったのになんであいつらが持ってきた皮は大銀貨なんて価値が付くんですか!」


 その声はギルド内に響いた。


 声の主を見るとおそらく俺と同じくらいの年代の子がこちらを指さしつつコウルさんを睨んでいる。


 それを止めようと彼の仲間が3人がかりで止めようとしているが彼は止まらない。カウンターまで行って叫んでいる。


「俺らは四人で角猪を狩りました。なのにあいつらが二人で狩ってるのはおかしいです!それに倒し方もです!どうやったらそんなことが出来るんですか!」


 うーん、君の言ってることの方がおかしいです。気が立っているのか言ってることも無茶苦茶だ。


 とりあえず俺とルルはそっと後ずさりをしてギルドから出ようとしている。あと五メール程で出られる、そう思った時だった。


「おい、お前ら!何逃げようとしてやがる!インチキ野郎のくせに!」


 まるでヤンキーだな。でもインチキとはこれ如何に。


「どうせ近くに居た格上のハンターに狩ってもらったんだろ!首を撃って頭に魔法を命中させるなんて出来るわけないだろ!」


 それが出来るからさっき皮を売って大銀貨2枚の利益を得たんですが。


 さっきから止めようとしてくれていた彼の仲間はこっちに向けて頭を下げている。


「しかもお前、剣も持ってねえじゃねえか!撃つってのはどうやるんだ?」


 もう完璧に煽ってきてるな。本物のヤンキーに異世界で遭遇するとは。でもリーゼントじゃないからまだヤンキーではないか。


 つーかギルドの人達は止めようともせずにこっちを見ている。

 ……なるほど。疑ってるわけか。ルルは魔法士の杖を持っているからわかりやすいが俺は今、腰に剣を下げてなければ銃も持っていない。


 ルルと同じ外套を纏っているだけの男だ。そりゃこの状態だけなら俺が何を使うのかは分からないだろう。


「おい!黙ってないでなんか言ったらどうだ!」


 さっきからルルはずっと黙っている。ただ黙っているのではない。俺の後ろでずっとプルプル震えている。俺は彼女の手を握って抑えているのだ。

 だがそれを彼は勘違いしたようだ。


「やっぱインチキ野郎は自分の彼女の手を握ってないといけないのか!」


 お前……本当に俺と同じくらいの年代か?どう考えても十二歳くらいの子供が言う言葉じゃないぞ?


 そう思っている間にルルは限界だったらしい。


「あんたね!言わせておけば!ヤマトはインチキなんてしてないわ!しかも絶対あんたよりも強いわ!」


 ルルは何を言っているのだろうか。

 わざわざ気が立っている彼をさらに煽ってどうするのか。


 でも自分で言うのも何だが彼女の言うように彼よりは俺は強いだろう。

 彼は腰に剣を下げているが、体が剣を下げている方に傾いているのだ。つまり、剣が体に合ってないという事だ。


 しかし……案の定ルルの煽りでさらに怒りがましたようだ。



「そうかよ……。だったらよ、俺と勝負しろ!」


 は?勝負?


 俺は間抜けな声を出してしまっていたかもしれない。でも、何故そこから彼と勝負することになっているのか。


 もはや彼の仲間はもう止める気力も無いようだ。項垂れてしまっている。


「なんで勝負しなきゃならないんだ?」


 俺は何言われるかわからないがとりあえず聞いてみる。


「は?何を言ってやがる。お前がインチキだってことを証明するんだよ!ほら、ギルドの訓練所で勝負だ!さっさと来いよ!」


 そう言って彼はカウンターの脇にある階段を降りて行った。どうやらその先にギルドの訓練所とやらがあるらしい。


 

 さて、俺は別に彼に付き合う気は無いし帰ろうかな……って、あれ?


「ヤマト、行くよ!あいつに勝つの!あいつにインチキなんて言わせたままにさせないんだから!」



 そう言って俺の手をグイグイ引っ張ってギルド訓練所に続く階段を降りていくのだった。




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