買い物終わり

 カーンカーン


 あちこちから鎚の音が響く。


 俺達が今いるのはナラルラの鍛冶屋通りだ。


 ここは貿易都市と呼ばれるだけあってあちこちから良質な鉱石が入ってくる。

 それを加工するために多くの職人が集まってきたという訳だ。



 とりあえず目に付いた一軒に入ってみる。


「いらっしゃい。剣、槍など一通りは揃えてるよ」


 無愛想な人が店主らしい。でも、武具屋の店主って堅実で無愛想なイメージがあるから違和感がない。


「剣を探してるんだ。体に合うのが欲しい」


 俺はいろいろ眺めつつ答えた。


「わかった。ちょっと待ってな」


 そう言われ、店主は店の奥に消えてった。


 その間も店内の商品を眺め続ける。


 そうして待っていると、店主が剣を一本持ってきた。


「これを振ってみろ。こっちだ」


 そう言われ、店主に店の裏に連れてこられた。


 そして剣を渡された。


 そして何度か振ってみる。


「……見た目よりも重いな、これ」


 小さな声で呟いたのだが聞こえていたようで剣を返すとすぐに店の中に戻り、また別の剣を持ってきた。


「次はこれだ」


 同じように振ってみる。

 今度は剣の重心が変だ。前が重い。


 そう伝えるとまた別の剣を持ってきた。


「これならどうだ」


 そう言われ渡された剣は何か違った。

 重みも長さも丁度よく振りやすい。普通の剣より細い気がするがレイピア程ではないくらい。


「お前は剣を振るための筋肉が付いてはいるが完璧ではない。それにお前はハンターでも後衛職だろう?ならばお前にはその剣が良いはずだ。長過ぎず重すぎず振りやすい、よく言えば万能で誰にでも扱え、悪くいえば中途半端だ」


 すると店主は無愛想だった顔を僅かに緩めて言った。


「その剣を一生の相棒にするな。お前はこれからどんどん伸びるだろう。その時、自分の一生を預けられると思った剣があれば迷わずその剣に変えろ。まあ……その時はこの剣の魂は継いでやって欲しいがな」


 俺はその言葉をものすごくカッコイイと思った。だから俺はしっかりと頷いた。


「お前はさっき言ったように見込みがある。それは祝いだ。俺の兄貴も『見込みがある』って言っただろうからな」


 え?

 俺の兄貴ってもしかして……


「ああ。俺はモド・サージ。俺の兄貴はモノ・サージだ。今はギルドで働いてるんでね。───剣のお代は要らない。ただ、その剣を大切にしてくれ」



 そう言って店主は、去って行った。

 店内には居なかったので俺はお辞儀をしてその店を後にする。


「剣は……買えたんだね」


 店の外で待っていたルルがこっちに来た。


「うん。剣は買えたけど剣帯が無いからどこかで買わなきゃ」


 俺とルルは鍛冶屋通りから離れ、さっきの商店街まで戻る。


「あ、そうだ!ねえヤマト、二人でお揃いの外套作らない?」


 前を歩いていたルルがいきなり振り向いてそんなことを言ってきた。


「外套?どうしてだ?」


「えっとね、さっき武具屋さんでヤマトを待ってた時もなんだけどハンターの人達って同じパーティーならみんな同じ外套着てたりするの。制服みたいに」


 周りを見渡してみても確かにパーティーで同じような外套を着ているのが分かる。


 ダンさん達は着てなかったからそこは個人差なのだろう。


 それにしても外套か……

 外套は役に立つ。雨を凌ぐ簡易的な傘になるし眠る時は床に敷いたり毛布代わりにしたりする。


 でもそういえば……


「なあ、ルルは杖とか魔法士に必要なものは要らないのか?」


 そう聞くと、ルルはなんか焦り始めた。


「え、えと……その、一応見つけてはいるの。欲しいやつ」


 何だ?高いからダメって思ったのかな?だから焦ったのかも。


「ルル、とりあえず欲しいのがあるなら見に行こう。買うかどうかはこれから考えよう」


「うん。わかった」




 再び歩いて来たのはさっきも来た鍛冶屋通りだ。


 ここに魔法士関係のものがあるようには思えないのだけど……


「あったよ。あのお店」


 ルルが指さす先には一軒の古本屋があった。


 でも本ばかり置いてるけど……ルルは魔法に魔法書を使うタイプなのかな?


 魔法書は魔法を行使する時に使う補助道具だ。杖などと同じだが、使い勝手は杖の方が良いので魔法書使いは少なくなってきている。


「ヤマト見て見て、これが欲しいの」


 ルルの行った店にたどり着くとルルが一本の杖を持って出てきた。


 ルルが持っているのは捻れた木でできた杖だが先端になにかはめ込めるようになっている。


「これね、先端に嵌め込む魔石が無いから安いの。それに自分で魔石を取ってくれば上手く行けば売ってる杖より強くなるんだって」


 なるほど。本当に嵌め込むのか。それにまだ未完成だが最後は自分で作り上げると来た。これはなかなか面白そうだ。


「よし、買おうか。幾らなの?」


「金貨2枚だっかな。結構良い木を使ってるみたい」


 俺は金貨2枚を取り出すとルルに持たせた。


 なんかお小遣いをあげてるお父さんの気分になったのは黙っておく。


 少し待っているとルルが杖を抱えて出てきた。


「ヤマトありがとう!」


 お礼を言ってくれたがその笑顔がすっげーかわいい。これ以上無いってくらいにかわいい。

 娘を持ったお父さんの気持ちがわかる気がする。こんだけかわいいなら嫁には出したくないわ。


「じゃあ次はさっき言ってたお揃いの外套作りに行こ!」


 


 ルルと一緒に商店街を探していると、さっき入った服屋とは別の服屋があった。

 軽く覗いてみるとどうやらマントとかも扱っているらしい。

 ここに入ろう。


「こんにちはー」


「いらっしゃいませー、どんな服がご入用ですか?」


 奥から出てきたのは思っていたよりも若い快活そうな女性だった。


「二人は何が居るのかな?見た目はハンターだからお揃いの外套とかかな?」


「は、はい。そうです。私とヤマトのお揃いの外套を作ろうと思って」


 俺はルルとこの店の店主との会話を聞いていて思った。


 ルルとお揃いの外套ってペアルックに入るのかな……と。

 

 日本でも同じダウンジャケットを着たりするがそれはペアルックとは言わないだろう。ならばこれもペアルックでは無いだろう。


 俺はそう結論づけた。


「ねえヤマト、聞いてる?」


 いきなり話しかけられて我に返ったが、何の話だ?


「聞いてなかったんだ……。外套の色、何がいいの?」


 外套の色か……特に気にはしないが派手なのは嫌だ。気に入っている色なら……そうだな、グレーとかも好きなんだけどな〜


「ん〜、よく分からないからルルに任せるよ」


 それを聞いたルルは呆れたようだった。


「はあ……じゃあこの色でお願いします───ヤマト、勝手に決めたけどあとから文句とか無しだからね」


 とりあえず頷く。


「じゃあ丈はどうします?」


「じゃあ腰より少し下ぐらいでお願いします」



 ほとんどの対応をルルに任せ切りだから会話の内容はよく分からない。かつて大学生だった頃もあんまり服には興味がなくて似たような服をまとめ買いしていた記憶がある。


 今回も似たような感じで今着てる服も結構地味だ。


「はーい、ではこれで作らせてもらいますね。今日の夜には出来るので後で宿の方に届けますね。ではまたお願いしますね」


 そう言って店主は奥に引っ込んでしまった。作業に入るのだろう。


「じゃあ遅くなっちゃったけどご飯食べて帰ろっか」


 俺はルルに手を引かれて店を後にする。



 それからはルルと一緒に屋台のサンドイッチを頬張ったり、川を眺めたりして過ごした。

 ギルドにも顔を出し、明日は依頼を受けてみようと約束して宿に帰った。


「あーら、おかえりなさい。ルルちゃん達に荷物が届いてるわよ」


 その荷物を見るとさっき外套を頼んだ店である。もう完成したらしい。


「思ってたより早いね」


 ルルは嬉しそうだ。


「ほら、スープが冷めちゃうから開けるのは後にしな」


 出来上がった外套を見ようとしていた俺たちを引き止めて女将さんがいつの間にか配膳をしてくれていた。


「そうだな。ルル、先にご飯食べちゃおう」


 ルルは頷き、一緒に手を合わせる。


『いただきます』


 そう言って食べ始めるのだった。





 この後、出来上がった外套の出来の良さに感激したルルが狂喜乱舞するのはまた別のお話である。





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