買い物日和

 チュンチュン


 どこぞの漫画ではないが、鳥の鳴き声で目が覚めた。


 目を開けると、上には青空……ではなく木の天井があった。


(……そうだ、街に着いたんだった)


 俺は布団をどけ、俺の横で寝ているルルを眺める……って、なんでルルが居る!?


「ん……もう朝……?」


 窓から入る朝日を浴びて目をこする姿もかわいいルルだった。


「朝だぞ。今日は買い物行くんだろ?早く飯食べよう。ところでどうしてルルが俺の所に?」


「うーん……わかった……」


 寝ぼけ眼で彼女は起き上がると、魔法で作った水で顔を洗う。

 すると、すぐに目が覚めるのだ。


 ルルの特技の一つだが、何気にこういうのすごいと思う。


 

 そして、しれっと俺の質問は受け流されたのだった、




 食堂に降りていくと、そこにはまだダンさん達がいた。苦笑しているナクルさんを除いて皆酔い潰れている。


「おや、ちゃんと早く寝た子は起きてきたのにこのいい大人は馬鹿みたいに飲んでなにやってるのかねえ」


 そう言いながら女将さんは俺とルルの分の朝食を持ってきてくれた。


 フランスパンみたいなパンにレタスとトマトに豆が入ったサラダにキャベツとベーコンのスープだった。


 パンは女将さんのお手製みたいで中にレーズンっぽいドライフルーツが入ったものだ。サラダには酸味の効いたフレンチソースのようなものが掛かっている。スープは胡椒じゃなくて唐辛子をほんの少しだけ入れているらしく、ピリッとしてとても美味しい。


「二人は今日はどうするんだい?」


 ダンさん達の片付けをしていた女将さんがそう聞いてきた。


「今日はずっと買い物ですかね。実は着の身着のままなんで」


「おやまぁ、それは大変だねえ。なら、ギルド前の大通りはやめときな。あそこはものは微妙だが、値段は高いんだ。だから倉庫街に近い方の商店街に行きな。あそこは昔からあるぶん物は良いし値段も手頃だ。生まれた時から住んでるあたしが言うんだ。騙されたと思って行ってみな」


 なるほど。よくあることだな。初心者とかを狙った商売方法だな。

 ギルドから近い店なら普通の人はそっちに行ってものを買う。そして店側はその客を固定客にすべく話術などを駆使してくるわけだ。

 だけど昔からの店は人は少ないがものは良く、価値をわかっている人が来る店なのだ。




「あらまぁ珍しい若い子がこの辺りのお店に来るなんて」


 俺達は女将さんに言われたようにギルドとは反対の倉庫街の商店街に来ている。


 まずは服を買おうと思って入ったらこう言われたのだ。


「えっと、アナさんからこっちのお店の方が良いって言われて来たんですけど」


「ああそうなの!あの子がねえ……分かったわ!二人はハンターなんでしょ?ちゃんとした服を揃えてあげるわ!」


 そう言ってこの店の店主であるマーサさんは店の奥に消えた。


「なんか……凄い人だね」


 ルルもびっくりしているようだ。俺もびっくりしてる。昨日の登録の時のモノさんと張り合えるくらい怒涛のように話しかけてきたからな。



「はーい!じゃあちょっとこれ試着してみて〜まずは女の子の方からね〜」


 突然戻ってきたマーサさんにルルが

連れ去られて行った。


 だいたい十五分くらいだろう。何故かぐったりした様子でルルが帰ってきた。


「ヤマト……気を付けた方がいいよ……」


 何が!?と思っている間に俺もマーサさんに連れ去られる。


 広めの試着室の中で俺はマーサさんと二人きりである。


 でも何か考える余裕は無い。

 だって色んなところの寸法を取られたり、服を着せられているのだから。


「うーん君は髪が黒いからこっちの方が似合うかもね……」


 そんな感じで十五分経ち、俺は解放された。


「はーい!女の子の方は決まったかな〜?」


 マーサさんはルルにどんな感じにするのか選ばせていたらしい。

 俺も最後に選んでくれといわれたからな。


「はい。決めました!」


 そう言ってルルは着替えに行った。


「じゃあ君も決めたら着替える準備よろしくね」


 俺はもう決めていたので準備をする。


 しばらく待つとルルが帰ってきた。


「どう……かな?似合ってる?」


 ルルの服装は似合ってるなんて言葉で収めてはいけないものだった。一言で言うなら……そう『完璧』である。



 ルルの服はまず靴が膝まである黒革製のロングブーツ、そして白のミニスカートを履いている。中に何があるかは気にしない。俺は紳士だから。


 上は中に薄桃色の襟なしのシャツを着て、上にブーツと同じ黒革製のカーディガンを羽織っている。


「どう?これがデザイン性と動きやすさを両立させた服よ!」


 ルルは魔法士である。そのため、鎧などはほとんど身に付けない。なのである程度は服の自由がある。 

 まあこの上からローブなり着るのだろうけど。


「この彼女の金髪が映えるように白と黒をメインに組んだわ。どうかしら?」


 俺は即決でこの服を買うことにした。

 値段は負けてくれて金貨3枚だ。俺の服も合わせて金貨6枚がこの服にかけた出費である。


 俺の服装?聞きたいの?


 仕方ない、教えよう。 

 下は黒のブーツに黒のズボン。

 上は深緑色のシャツ一枚だ。


 な?聞いてもしょうがないだろ?




 俺達は服屋を後にすると次は雑貨屋に来た。


 ここでも同じように言われたがマーサさんのように奥に連れ込まれることなく買い物が出来た。


 買ったものは腰に付けるポーチだ。中にいろいろ入れられて、大抵のハンターは中に回復アイテムを入れるらしい。


 俺はそのポーチ以外にもう一つ小さなポーチを買った。

 これは中に弾丸を入れるためのものだ。

 本当なら弾薬帯みたいなものが欲しかったけど売ってなかったからその代用だ。


「次はどうする?」


 買いたかったものはだいたい買い終わった。持ってきた資金はほとんど使わなかったから全然残ってる。


「そうだな……ちょっと武具屋覗いていいか?剣を見たい」


 俺は剣を見ることにした。出来れば買いたい。理由は単純だ。ガルマさんから習った剣を使うためだ。


「良いよ。じゃあ行ってみよっか」


 俺とルルは商店街から少し離れた武具屋を見に行くのだった。

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