スキル開花
スキルとは、どうやらこの世界独自の超能力的なものらしい。
スキルを持っていない人が居ないというもので、魔法と同様に生活に組み込まれているほどだ。
スキルには多種多様なものが存在していてその数は不明。無限に存在していると思われている。
スキルはゲームとかでお馴染みの鍛冶や裁縫といった生産系のもの。剣術や体術といった戦闘系のもの。炎術や治癒術といった魔法系のもの。身体強化や農作といった特殊なもの。珍しいものではあやとりが上手くできたり、草むしりが早くなるといったものがあるらしい。
また、スキルはスキル開花を行うまでに何をしてきたかにも左右されるらしい。
剣術のスキルを手に入れた人は幼い頃から剣を振っていたらしいし、鍛冶のスキルを手に入れた人は親が鍛冶師だったりと何かしら要因があるという。
だから俺とルルはある程度のスキルの予想は立てた。
俺は前世のことも含まれるのならば文系らしいスキルになると思うが、この世界に来てからの事のみならば分からない。基本、訓練しかしていなかったから戦闘系のものになるかもしれない。もし手に入るとすれば銃関係のスキルになるとは思うが。
ルルは魔法系のスキルが大半になると言っている。
まあ彼女は魔法が得意だからね。多分得意な属性に応じたスキルになると思う。
「ふふっ。なんだろう、気が楽になって来ちゃった。緊張が解れるって言うのかな?」
俺はいよいよ目前にしてガチガチだと言うのにルルは落ち着いて居るようだ。肝が太いというかなんというか……
俺は緊張しすぎて手が震えてるって言うのに……
「ほらヤマトも落ち着いて。深呼吸だよ」
ルルに促されて深呼吸するもあまり意味は無かった。
「も〜ヤマトは緊張し過ぎだよ?──はぁ。じゃあ始めよっか」
俺とルルは懐から紙を取り出す。
このスキル開花の儀式で使う専用の紙だ。といっても実際はただの羊皮紙だから特別でもなんでも無いのだけど。
しかも、この儀式はわざわざこんな神殿まで来てやらなくても街の教会で出来るのだ。ここまで来た理由は単にガルマさんに押し切られた結果と言える。
それを神殿の中にあるただの平らな岩に見える祭壇の上に置く。
そして、置いた紙の上に自分の血を一滴落とす。
儀式はこれだけだ。
あとは血で羊皮紙に文字が書かれる。それが自分のスキルとなるわけだ。
俺は少し前のこの世界での誕生日に貰った魔法袋からナイフを取り出して自分の指の先を少しだけ切る。
少しだけ出てきた血を羊皮紙に押し付けるように垂らす。
ルルを見ると同じように血を垂らしている。
俺とルルはそっと頷き、その時を待つ。
しばらくして、羊皮紙に染み込んだ血が僅かに光り始めた。
そして、徐々に動き出して線を画いていく。これも魔法なのだろうけど、これに関しては俺もルルも一切関与していない。この神殿が勝手にやっているのだ。何も知らないでこれを見せられたら本当に神様の存在を信じかねないな。全く、どうやっているのか。
その線は少しずつ動いて行くため、何だか焦れったい。
文字のようになっているはずなのに読めないのだから。
じっと待っている中沈黙を破ったのはルルだった。
「……さっき緊張が解れるって言ったけど嘘ついちゃった。今ものすごく緊張してる」
やっぱりか。俺だってずっと緊張しっぱなしだもの。
……それにしてもルルの「嘘ついちゃった」ってめちゃめちゃ可愛かったんだが!?
……うん。多少気が紛れて緊張もマシになった。
そんなアホなことを考えている間も羊皮紙の上の血は動き続ける。
待ち続けてだいたい30分、ようやく文字がまとまり始めてきた。
そしてついに……
「これで儀式は終了……なの?」
羊皮紙が一度強く発光し、その直後に血の動きは収まったのを見てルルが呟いた。
そしてそこにはいくつか文字が書かれている。
さっきまで読めもしないグチャグチャの線だったのに今は綺麗な筆記体で書かれた文字がある。
えーとなになに……
俺の持っているスキルは……予想通り『射撃』のスキルに『調合作成』……のみ。
「射撃のスキルは分かるが、なんで調合作成なんだ?」
俺が頭を捻っているとルルが興奮した様子ではしゃいでいる。
見て見て!と言うように俺に羊皮紙を見せてくる。
「治癒術に、魔法適性上昇に聖盾?なんだこれ?」
治癒術は名前の通りだろう。魔法適性上昇もおそらくルルの使う魔法の威力や効果を上げるものだと思う。だけど聖盾は分からない。字面だと防御っぽいが……
「ヤマトも凄いよ!やったね!銃のスキルが手に入ってるね!」
ルルがまるで自分の事のように喜んでくれている。
ここまで喜ばれると悪い気はしない。
俺とルルは二人で笑顔になりながらスキルについて話していく。
そうして神殿の柱に寄りかかって座りながら二人で笑っていた時だった。
「……何?今の揺れ」
ルルが何か変な揺れを感じ取った。
それは俺も感じていたものだった。
「ルル、今の揺れだけど何か……嫌な予感がする」
「私も。何だか今ものすごく嫌な気分なの」
俺とルルは向き合い頷くとすぐに何も言わずに神殿から走り出た。
故郷、領都フーレニアに向けて。
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