神殿へ
「ねぇ、ヤマトはこれからどうするの?」
ルルからそんなことを聞かれたのは彼女と一緒に山の中の神殿へ向かっている最中の事だった。
「これから……ねぇ」
言われてみればちゃんと考えたことは無かった。
むしろ訓練に没頭しすぎて考えるのを忘れていた、というのもあるが。
うーん。初めてこの街に来たばかりの頃はどうなってもいいように様々な知識を詰め込みはした。
だけど具体的には?と聞かれると答えられないのだ。
一応、どうしたいかの案はある。だけどそれは少し、いやとってもルルには言いにくいものだ。
「ルルは、どうするんだ?」
俺は何も考えて無いことを誤魔化す為にルルに話を振った。
するとルルは何やら言いにくそうにした。
しかし、苦笑しながら口を開いた。
「……実はね、結婚の申し込みが来たの。ずっと遠くの領地に住んでるナラトン侯爵って人。この前のパーティーで申し込まれて、私よりも爵位は上だからお父様も断り切れなかったわ」
ナラトン侯爵……聞いたことがある。
確か西部統一域に領地を持つ貴族家だ。
俺が昔調べた限りでは既に四人の妻がいる。しかも全員ルルより少し歳が上の妻だ。しかし当の本人は既に四十を超え、五十に近い位の歳だという。しかも貴族にありがちなでっぷりと太っていて脂ぎった顔をしている。
ルルが結婚を申し込まれたというパーティーには俺も同席していたからそいつの顔も見ることが出来た。
当時はそこまで調べて無かったが、簡単に調べただけでいろいろと分かった。
まあ当然だが……そんな奴にルルを渡すことは出来ない。
俺はそう考えていた。おそらくガルマさんも同じ意見だろう。
だけど俺には今はどうすることも出来ない。ガルマさんが頑張ってくれるのに期待する他無いのだ。
俺がそう考えている間もルルは話し続けていた。
「───だからね。これから行く神殿で儀式が終わったら、私はもう……」
俺はルルに最後まで言わせなかった。それどころか、俺はルルをそっと抱きしめていた。
ルルが泣いているのが分かったからだ。
「ルル。俺はルルがどう思っているのかは分からない。だけどただ一つだけ分かっていることがあるんだ。それはね、『俺はルルと離れたくない』んだ」
俺はルルに伝えたいことを伝えた。もしかしたら告白とも取られるかもしれないがそんなことを気にしてる余裕は無かった。ただ伝えるので必死だったのだ。
「……ふふっ、ありがとう。ヤマト。まだ時間はあるわ。もしかしたらお父様が何とかしてくれるかもしれないし、それに期待しましょ。ね?」
ルルは微かに赤くなった目をしながら頑張って笑った。
俺もそれに応えるように笑うのだった。
昼食を取った花畑からさらに二時間ほど歩いたところでそれは突如姿を見せた。
「ここで……いいのよね。ここがお父様の言っていた林麗の神殿?」
「確かにこれは林麗だが……どっちかと言うとこれは森だよな……」
フーレニアから少し離れたところにある山からさらに数時間奥に行った場所にその神殿はあった。
イメージとしてはギリシャのパルテノン神殿が近いだろう。さすがにあそこまで巨大では無いが。
「でも確かに美しいわ。神殿として神々しさを感じるもの」
俺もそれには同意だ。何やら神秘的なパワーを感じる気がする。
さて……ここに来た目的のモノはどこなのかな〜っと。
お、あれかな?というかむしろあれしか無さそうだ。
俺はルルと共にその目的のモノがある神殿の奥の方へ向かう。
「多分これだよな。これしか無いし……」
「ええ。これで当たりよ。お父様から聞いた特徴と同じだもの」
俺とルルは神殿の奥にある祭壇の前に立った。
これが目的のモノ。俺達がここに来た理由である。
「……ヤマト、準備は良い?」
ルルは緊張しているようだ。まあ当然だ。これは人によっては人生を変えかねない一大イベントなのだから。
「……ああ。準備はバッチリだ。早く始めよう。スキル開花の儀式を」
そう。これが目的。俺がかつてバナークさんから聞いたスキル。この世界独自の特殊能力はこうやって知るのだ。
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