七年後

「ルルー、そっちはどうだ〜?」


 山の中に気楽な声が響く。


「こっちは結構集まったよ。赤葉も翠葉も十分なくらいね」


「そっか。ならまだ少し早いけど昼飯食おうか。これからちょっと長いし」


 俺たちは山の中を歩き、中腹にある花畑を目指す。

 俺とルルのお気に入りの場所だ。

 俺はそこに向かいながら、ふと今までのことを思い出すのだった。




 あの日のバナークさんとの会話から七年が経った。

 俺は12歳となり、身長も150センチ、いやこっちの世界の基準だと15

0セールだな。まあともかく、俺は身長も伸びたし多分年齢的にもまだ成長はすると思っている。


 この七年で俺は様々なことを学び、身につけた。

 当然、知識も蓄えている。


 最初の1年は訓練はほとんど無く、とにかく知識を得ることに専念した。言葉は話せて読めても利用しなきゃ意味が無い。

 俺がその一年で得た知識としてはお金の単位のケルは知っているが、こっちの長さの単位に当たるキール、メール、ミールとかだ。これはそれぞれキロ、メートル、ミリになっていて、元の世界と大して差は無かったのが幸いした。

 他にも文化やある程度の地理など、フーレン伯爵家には様々な本が揃っていたからそう言った勉強には役に立った。そういえばこれくらいに初めて領都を色々見て回ったんだったか。黒髪がいないことにショックを受けたが、初めて亜人種を見たことに喜んだ記憶がある。



 その次の二年目からはいよいよ訓練が始まった。

 実は一年目の時点から体力作りは始まっていたが、いかんせん俺が5歳の体だから無理は出来ないとのことで体力作りに留まっていた。

 訓練としては軽い木材を使った銃の構えの練習だったり筋トレだ。

 仮に撃ったら肩が壊れるくらいのことは俺にも分かる。

 だからこその筋トレだ。どうやら幼い頃から鍛えて身体そのものを作り上げるつもりらしい。それでも走り込みから坂道ダッシュ、重りを持ち上げる筋トレを連続させるのはなかなかに酷だったと思う。



 三年目からは筋トレに続いて何故か剣術を仕込まれ始めた。

 師匠はバナークさん·········ではなくまさかのガルマさんだ。

 本人曰く、領主になる前、まだ学生だった頃にとある剣術大会で優勝したことがあるのだという。

 自慢げに言われたのだがその実力は素人目に見ても素晴らしく、剣術大会優勝者は伊達じゃ無さそうだ。

 朝から走って筋トレして木剣振ってがこの頃の一日の流れだった。

 ちなみにガルマさんからは才能こそ無いが筋は良いとのこと。あとはルルに連れられて街中を走り回ったり、歳の近い……と言っても六歳くらい上の集団に混ざってチャンバラをしてみたり。槍を使う女の子がやたらと強かったのは覚えている。この辺りでは珍しい青色系の髪だったから記憶に残りやすかったな。



 四年目からようやっと銃の訓練が始まった。

 散々構えの練習をしてきたせいで構えるだけなら様になっている。

 しかも筋トレと街中での子供集団とのチャンバラも続けているから9歳を間近に控えた子供にしては筋肉の量が桁違いだ。

 なのにムキムキにはならない。いわゆる細マッチョっていうやつだろう。ガチムチにはなりたくないけど、筋肉バッキバキには少し憧れる。どこぞの地上最強にはなりたくないが。

 相変わらずチャンバラは続いて、やっと少しは打ち合えるようになっていた。、


 そうそう、訓練で使う銃はかつての納屋の中で見つけた銃を使っている。

 地面に杭を打って、銃をそれに固定して撃つのだ。


 それでも普通に撃つと外れる。的までの距離は三十メール無いくらいなのに狙っても外れる。なのにバナークさんは固定した状態でも的確に当てている。


 本来マスケット銃というのは大抵外れることが多かったのだと言うのにだ。

 その理由をバナークさんに聞いてもがありますからなぁ·········、とよく分からない状態ではぐらかされた。

 当時はスキルって何!?って思い、必死でいろいろ調べたのを覚えている。



 五年目からはずっと銃と剣術の訓練に明け暮れ、地獄のようだったことを覚えている。街中に出ることも少なくなって、楽しくもハードな日々でもあった。

 ちなみにガルマさんもバナークさんも俺を扱きすぎてルルに怒られていた。

 二人は必死に弁解していたがルルに「嫌い!」と言われて、少し扱きが優しくなったのは正直嬉しかった。


 六年目もやってることは五年目と大して変わらなかった。毎日のように剣を振って銃を撃つ。そしてさらにこの年から体術まで仕込まれ始めた。

 師匠はバナークさんだ。銃を教えてくれ、体術習うとこになった。

 元の世界でも空手や柔道なんかやったことも無い俺は身体の動かし方が分からず、地面に転がり続けた。


 でもお陰様で俺は立って銃を撃つことが出来るようになっていた。本来ならば反動に耐えられないはずなのだ。なのに肩を数回外すか骨折するだけで大丈夫になったのだ。

 そして更には何発に一回しか当たらなかった弾がそれなりの数当たるようになってきていた。


 それでルルに褒められてさらに頑張ったのは単純としか言いようが無いが。



 そして七年目。

 今も尚体術と剣術は訓練の途中だが、銃に関してはバナークさんから合格を貰えた。ギリギリだったらしいが。結果、俺はめでたく今まで訓練で使っていた銃を譲り受けた。


 ついでに、幼い俺が銃の反動に耐えられた理由を教えて貰った。どうやら、銃に魔法で細工がしてあったみたいで、反動を抑える効果があるらしい。


 バナークさんによると、この銃を扱う技術をさらに上げることが出来るかどうかは今日という日にかかっているのだという。




 そう。今日はかつてバナークさんが言っていたスキルを知れる日なのだ。

 俺とルルはそれを知るため、山の中にある神殿に向かう途中なのだ。



 だから二人で山の中に入ったのである。

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