領都フーレニア到着
馬車に乗り続けてだいたい二日程で目的地の領都フーレニアに到着した。本当なら夜中に到着するはずが「怪我した俺が居るから」と、ガルマさんの一言でゆっくり進んだ結果、その翌日の朝に到着するとのこと。
あと少しで領都近郊に到着し、領都の周りの花畑が見えるらしい。
ここ領都フーレニアはその名の通りフーレン伯爵家の領地の中心地である。
フーレン伯爵家はウェントッド大陸の北部の大国、ラナンサス王国の南部統一域(他にも北部、東部、西部統一域があり、その中央に王都が存在する)と呼ばれる地域の国境付近に領地を持っていて、俺が拾われた森の近くがロワンダル共和国と、同じ南部統一域に属する貴族領地との国境と境目なのだという。
ラナンサス王国のある大陸がかなり大きいだけあって王国もこの世界の赤道に当たる
そのため、ラナンサス王国の南部の国境付近の領地のフーレン伯爵家は一年を通して温暖で過ごしやすい気候で多くの農作物を生産しているのだという。
そして何より俺が楽しみにしていたのはルルが教えてくれた領都の周りの花畑である。
馬車の中で何度もその良さを熱弁してくれたから結構楽しみにしている。
それを思うと朝に到着して良かったのかもと思ってしまう。
「あ!見えてきたよ!ほらヤマト、見て見て!綺麗でしょ!」
ようやく領都フーレニアの近くの花畑が見えてきたみたいだ。
俺もルルに急かされて馬車の窓から外を除くと───
「こりゃすっごいな·········」
───そこには一面に色とりどりの花がそよ風になびいていた。
はっきり言って想像していた以上だった。
元の世界でも子供の頃に親に花畑のようなところには連れて行ってもらった記憶があるが、そんなものとは桁違いの光景だった。
今の季節が何かは分からないが赤や黄色、紫に青、ピンクやオレンジといった花びらをもつ花がまるで絨毯のように咲き誇っていた。
「ルル、凄いよ。こんなの見たことない·········」
俺が感動して言うと、ルルは嬉しそうに笑った。
「えへへー。凄いでしょ?──メーネ、今って『花開く月』よね?」
『花開く月』?名前からして多分月の表し方だよな·········
言葉の響きから多分、『春』の意味なんだろうけど·········
「はい。今は『花開く月』の七日目ですのでここが満開になるまであと一週間、といったくらいでしょうか」
どうやらこちらでも一週間、という言葉はあるらしい。
それともこっちに転生したおかげでこの世界の言葉が分かるようになってるからこっちの世界での一週間ってことなのかな?
元の世界じゃ一週間は七日だったけど実はこっちじゃ八日で一週間みたいなことがあるかもしれないし。
「あの、メーネさん。さっき言ってた『花開く月』ってなんなんですか?」
やっぱり気になってメーネさんに聞いてみた。
すると、メーネさんは何やら驚いたような表情になった。
そして額に手を当てた。
「·········申し訳ありません。正直なところ、ヤマト様を育てた人間に呆れておりました。決してヤマト様自身を貶したりしているわけではないので御容赦ください」
なかなか凄いことを言ってきたな·········。
でもどうやら俺が聞いたことは5歳の子供が知ってて当然のことらしい。
俺はメーネさんの発言にびっくりしながら思った。
「ゴホン。では説明します。先程の『花開く月』とは新たに年が変わってから四月目ののことです。同様に、新年の最初の月を『年明け月』と呼び、二月目を───おっと、どうやら到着したようです。続きは後ほど説明しますね」
外を見たらいつの間にか大きな門の前に到着していた。どうやらようやく領都フーレニアに着いたみたいだ。
馬車の御者が少し話す声が聞こえる。やはりこういった街では門には衛兵などが居るものなのだろう。
よくラノベとかではお金を払って入っていた気がするけど今の俺にはそういったものは必要ない。
少しして、御者が話す声が聞こえると、馬車はガラガラと音を立てて動き出した。
「お嬢様、ヤマト様。あと十分程度でフーレン伯爵家のお屋敷に到着します。ですので降りる準備をなさってください」
メーネさんがそう伝える。
実際、俺は荷物というものは持っていないしルルも見た限りそういった物は持っていない。
俺はこの馬車の中でも結構ゆったりと過ごしていた。
足の怪我もメーネさんの塗ってくれた薬のおかげでほとんど腫れは引いた。(実はあの薬、結構良いものだったらしい)
だけどようやくまともな布団で寝れると思うと歩き続けた二日間の疲れとかが一気に戻って来るような感覚になるのだ。
しばらくして、大きな建物の前で止まった。
するとすぐにギィと音を立てる物があった。
窓から覗くとそれは大人の背丈以上の大きさがある門が開いていく所だった。
「あんな門見たことない·········」
俺がずっと大きな門を眺めている間に馬車が動き出す。
すぐに玄関前に着いたみたいでルルが手を引いてくる。
「着いたよ!早く降りて!」
その手に引かれてルルと一緒に馬車を降りると、目の前には見たことないくらい大きな建物があった。
「ここが私の家だよ!今日からここで一緒に住むのよ!」
目の前にあるのがいわゆる貴族の家ってやつなのだろう。
はっきり言って学校の体育館ぐらいの大きさの家に住むってかつて日本でアパート暮しをしていた俺にとっては想像も出来ない。
「ルル、テンション高いな·········
昨日とか本物のお嬢様みたいだったのに·········」
俺がボソッと呟いたのはルル本人には聞こえなかったみたいだが恐ろしい程に耳が良いメーネさんは聞こえていたらしい。
「お嬢様は、普段はあのように話されているのです。昨日や、初めて会った時など他人と接する時は敬語をふんだんに使った口調で話されます。これからヤマト様には気楽に接するようになるはずです」
なるほど。
ルルは俺に対して初めて会った時みたいなお嬢様口調で話すことはもう無いみたいだ。
この世界で最初に会った人達の中でもルルから信用して貰えたと思うと嬉しい反面、あの新鮮な口調が聞けないと思うと少し寂しいが。
実は紆余曲折あり、今後結構な頻度で聞くことになるのはまだ知らない。
ルルの家に入ると黒いスーツを着た老人が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。ルルフィリア様。そしてはじめましてヤマト様。私はこのフーレン伯爵家にお仕えする執事のバナークと申します。では早速ですがお部屋にご案内させていただきます。ではこちらへ」
執事のバナークさんが綺麗に礼をして、歩いて行く。
いつの間にか俺のことが伝わっていたみたいで部屋も用意されているとは驚きだが。
ガルマさんとかも入ってきているが出迎えとかしなくて良いのかと思ったが、メーネさんが頷く。
多分ついて行け、という意味だろう。
俺はそれを見るとバナークさんについて行く。
そのまま歩いて行こうとすると何かに引かれるような感覚になった。
見ると、ルルが袖を掴んでいる。
手こそ握っていないがいい笑顔で掴んでいる。
「ルル?」
「ついて行っちゃダメ?」
「いやダメではないけど·········」
「だったらいいでしょ?」
ルルの有無を言わせぬ雰囲気に押され、俺は頷いてしまう。
「ほら、行くわよ?」
「はぁ。今行きますお嬢様」
俺はルルに引っ張られながらついて行った。
別にここはルルの家なんだから部屋が何か違ったりするってことは無いと思うんだけどな·········
結論から言うと、ガルマさんが俺にあてがった部屋はそうとう良いものだった。
テレビとかで見たどこぞのホテルのスイートルームみたいな部屋が一番近い。
「これが·········俺の部屋·········広い、なんか凄い」
そうとしか言葉が出てこなかった。
目の前には今まで見たことないくらい豪華な部屋があった。
「ここ、私の部屋の隣なの。だからベッドとかみんな私のと同じなの」
どうやらこの部屋の間取りや家具は伯爵家のお嬢様と同等の物のようです。そりゃ凄いわけだ。
俺はもはや驚きよりも感心が出てくるのだった。
とりあえず柔らかそうなベッドに飛び込みたい欲求を抑えながら部屋を見て回るのだった。
ここからのことは実はよく覚えていない。
食堂で遅い朝食にパンと葉野菜のサラダをたべたことは覚えている。
そこから、ルルに屋敷内を案内してもらったが、ほとんど頭に入っていない。
途中で昼食を食べに戻って、野菜とハムのサンドイッチと玉ねぎのスープを食べたらルルの屋敷内の案内が再開した。
結局、丸一日掛けて屋敷内を案内されたり、いろいろ話したが俺はついに柔らかいベッドの誘惑に勝てず、夕食に豆のサラダと少しのパンを食べてすぐにベッドに潜り込んでしまったのだった。
何故か食べたものに関してはよく覚えているのだが、俺はとても美味しかったから。という理由で済ませたが俺が今日食べた料理の真価を知るのはもう少し先になる。
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