馬車での道中

 突然だが、この世界についてわかったことを復習したいと思う。


 まず、この世界はアルファーンと呼ばれる世界らしい。

 どうも創世神話に登場する女神アルフに由来しているという。ただ、この名前は教会の最高司祭しか知らない名で、教えてくれたメーネさんは本当に偶然知ったのだという。だからあくまでも知らない振りをしろと念押しされた。

 そこまで念押しするなら何故俺に教えたのだろうか?


 この世界アルファーンには現状確認されているだけで四つの大陸が存在しているという。


 まず、一番北に位置しているノーク大陸。

 この大陸は主に人族以外の亜人種と呼ばれる種族が多く生活しているらしい。

 亜人種とはエルフ、ドワーフ、獣人などの種族のことで他にも多くの種族がいるらしい。


 次に、一番南に位置しているサルム大陸。

 この大陸はいくつもの小国が存在していて、現状最も治安が悪いらしい。

 多くの資源が埋まっているとされているためそれが各国同士の関係悪化にに繋がっているとされている。なんかすごい騎士が居るという話だ。詳しく聞きたいが時間がなかった。


 次に、西方に位置するウェントッド大陸。

 四つ存在する大陸の中で最大であり、南北が北部大陸の端から南部大陸の端まで届くと言う。

 三つの大国といくつかの小国で構成されていて世界中で最も治安の良い大陸とされている。


 最後に東方に位置するイルク大陸。

 これも西方のウェントッド大陸と同等の規模の大陸である。

 大陸の大半を世界最大勢力とされるガド=レーグ帝国、頭文字を取ってガレー帝国と呼ばれている国が占める。

 この国では未だに奴隷制があり、他国から反感を買っているらしい。


 俺がこの世界に降り立った丘があり、俺がお世話になるフーレン伯爵家がある国がラナンサス王国という国で、西方のウェントッド大陸に存在している大国だ。


 このラナンサス王国は別名魔法王国と呼ばれる程に魔法技術が発展しているという。

 だからこそ今俺が乗っているこの馬車は浮遊魔法が使われているためほとんど揺れないのだという。


 その魔法技術のおかげで他国からも一目置かれていて他国からの侵略を防いだり、国を挙げての技術提供を行っているらしい。


 ·········というのがここまで俺がルルフィリア様やメーネさんから聞いたこの世界の実状だ。


 そもそも5歳の子供に国の情勢を説明しようと思ったことや、魔法の存在にも驚いたが、それよりも驚いたのが亜人種の存在だ。


 異世界モノでお馴染みのエルフやドワーフといった種族もいるという。

 つまり·········エルフと共に冒険したり、ドワーフの武器を使ったり出来るかもしれないのだ。


「·········夢が広がって行く·········!」


「何か言いましたか?」


 俺がいろいろ妄想しているとまだ説明を続けていたメーネさんが言ってきた。


「───あ、そうだメーネさん。この国のお金の単位とかについて教えて貰ってもいいですか?」


 俺はメーネさんにこれから生活する上で必要なことを聞いていこうと思っている。

 メーネさんによると、今乗っているこの馬車は明日の夜には領都フーレニアに到着するらしいから時間はまだある。


 それにまだ先だが、心配なこともある。

 しばらくは俺はフーレン伯爵家にお世話になることが決定している。

 だが、それはあくまでルルフィリア様のだからだ。


 仮に貴族であるルルフィリア様が結婚したり、何かあった場合は俺はどうなるのか分からない。もしかしたら追い出されるかもしれないのだ。別に今すぐでは無いだろうが知っておいて損では無いはずだ。


「かしこまりました。ではまず、お金の単位からですがそちらはケルという単位になっています。現在、西方ウェントッド大陸全域で通用する通貨となっています。次に貨幣の種類ですが·········こちらの銅貨が十ケルとなります。この下に小銅貨と言うものがあり、そちらは一ケルです。銅貨の上には銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨、大白金貨があります。それぞれ百ケル、千ケル、一万ケル、十万ケル、百万ケル、一千万ケルとなります。ですが実際、皆何枚の貨幣で払うなどと言うので単位はそんなに使われてはいません。他大陸の貨幣価値も現状、大きく変動してはいませんが……こちらは良いでしょう」


 俺はメーネさんの丁寧な説明を聴きながらポケットの中のコインを全て取り出した。


「ならばこれで·········銅貨が五枚に銀貨が三枚で·········三五〇ケルですね」


「はい。正解です。·········ヤマト様はまだ小さいのに頭が良いんですね」


 メーネさんが褒めてくれた。美人に褒められて悪い気はしない。でも頭を撫でるのは勘弁して欲しい。中身は成人済みだからかなり恥ずかしい。


「凄いね、ヤマトは!私より頭が良いんですね!」


 俺の隣に座るルルフィリア様がそう言った。

 いつの間にか俺、呼び捨てになってるな。


「いえいえ、計算が簡単だっただけです。もっと複雑になればこうは行きませんよ。ルルフィリア様」


 まあ俺には大学生までの知識がある程度入っているから小学生程度であれば簡単だ。


 すると、ルルフィリア様が何故か頬をプクーっと膨らませて俺を睨んでくる。


「ルル」


「え?」


 俺は突然そう言われ、困惑してしまう。


「私はヤマトのことをヤマトと呼びます。だからヤマトは私のことをルルと呼んでください」


 なるほど。つまりルルフィリア様、いや、ルルはあだ名で呼んで欲しいようだ。


「ですがしかし·········お世話になる身でルルフィリア様をルルと呼ぶのはさすがにおこがましい気が·········」


 身分の差もある。

 さすがに子供だからといってあだ名で呼ぶのは気が引ける。


「ダメ·········ですか?」


 うぐっ

 彼女はウルウル涙目で泣き落としを掛けてきた。

 全く!そんな目をされたら断れないじゃないか!


「·········わかりました。ルルフィ·········ルル。こう呼びます」


 それを聞いたルルは満足気に頷いた。


「あと、敬語もダメです!ヤマト、これからよろしくね!」


 ルルは綺麗な金髪を揺らしながら笑顔でそう言ってきた。

 俺は頷きながら答える。

 しゃーない。こうなりゃヤケだな。


「わかったよ。これからよろしくな。ルル」


 それを聞いたルルも笑顔で頷いた。

 そしていきなり抱き着いて来た。

 俺は一瞬慌てたが、ルルをそのままにしておく。

 だってかわいいしね。


 それを見ていたメーネさんも微笑んでいる。




 こうして、俺はルルやメーネさん、ガルマさんといったフーレン伯爵家の人々と出会い、異世界での新たな生活を始めることができたのであった。




 ちなみにこのあと、別の馬車に乗っていたガルマさんが俺がルルフィリア様のことをルルと呼べることを知って少し嫉妬したのはまた別の話である。

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