出会い(拾われた)

 俺は、昨日足を怪我して夕日を眺めながら横になったはずだった。目を閉じたらすぐに眠ったことも覚えている。


 結構強く捻ってしまったみたいで寝ている時もそれなりには痛みが走っていた。

 まあそれも完全に寝たら無くなったが。


 さて、今俺は誰かに揺さぶられています。

 実を言うと結構前から。

 声の感じから多分男の人なんだけど……



「───!────!」


 うん。寝ぼけているからか何を言っているのかが分からない。


「───!────!?」


 うーん?なんとなく何を言っているのか察することは出来たけどこれって起きた方がいいのかな?


 もし盗賊とかヤバそうなやつだったら嫌なんだけど。そもそもこんな所で野宿してる時点で何も言えないが。本当に盗賊ならどうなる。即殺?奴隷?わからない。


 おっ?

 俺は何やら持ち上げられるような感覚になった。


 すると、何やら女性の声も聞こえてきた。


 大分目も覚めて来たから何を言っているのかがわかるぞ。多分危険はない。


「───その子は·········まだ息はありますね。足もこんなに腫れて·········とりあえず馬車へ。そこで応急処置をします。連れて行ってあげてください」


 俺はどうやら気を失っていると判断されたらしい。それに足の腫れた部分の治療もしてもらえるみたいだ。

 と言うよりも俺は何故言葉がわかるんだ?ずっと聞き慣れていた言葉のように聞いていたから何も思わなかったな。もしかしたら気づかなかったかもしれないくらいの小さな違和感だった。


 馬車ってのが気になるけど·········前の世界の医療団みたいなのがあるのかな?国境なきなんとやらみたいな。


「わかりました。お嬢様、危ないのでメーネさんと一緒にいてくださいね」


 一瞬、聞きなれない言葉が聞こえたから耳を疑ってしまった。

 お嬢様、だと!?

 初めてだよ。そんなふうに呼ばれてる人。

 目を閉じているから見えないが多分近くにいるのだと思う。


「わかってます。そこまでお転婆じゃありませんから」


 ふむ、なかなか可愛らしい声だ。多分この声の主がその「お嬢様」なのだろう。


 

 しばらくして、俺は何かに下ろされたらしい。

 少し待つと、さっきまで聞こえていた男性の声とはまた別の声が複数聞こえてきた。


「メーネ、バランよ。その子供が倒れていた子供か?」


「はい。足が腫れているので応急処置を今から行います」 


 名前の響きと声の感じから多分この人がメーネさんなのだと思う。

 それにしても聞こえた男の人の声が結構渋くてカッコイイ。


「はい。旦那様。その子供が森の縁で倒れていまして。不審に思ったので」


 分からないけどこの人がバランさんかな?


「わかった。まずは怪我の処置だ。しばらくここで休息とするからちゃんとやってやれ。さすがにかわいそうだ」


「わかりました」


 渋くてカッコイイ人の指示でどうやら俺の怪我は治して貰えるらしい。

 やっぱり魔法かなぁ?異世界転生といったら魔法だけど·········


「ならばきちんと治療させていただきます」


 そう告げると、しばらく間があっていきなり腫れている部分に何かが塗られている。

 ひんやりして意外と気持ちいい·········と、思ってた時もありました。


「痛ったい!?」


 塗られたばかりの時は気持ち良かったがすぐにとんでもない痛みが襲ってきた。


 なんと言うか足首にぶっとい針を刺してるような痛みだ。

 何はともあれとにかく痛いんだこれが。


 その痛みせいで完全に目が覚めた俺は目を開けた。

 そこには日本の何処ぞで見られる偽物ではなく、本物のメイドがこちらを見下ろしていた。ヒラヒラが付いてるようなメイド服じゃなくていわゆるクラシカルってやつ。


「·········お目覚めになられましたか。気分はどうですか?」


 俺を見下ろす黒髪緑目を持つ女性が声を掛けてくる。優しげに微笑んでいるからか少なくとも悪い人では無さそうだ。


「·········ここ、は·········?」


 俺は未だに痛みに耐えながら声を出す。


「ここはフーレン伯爵家の馬車の中です。森と草原の境目で倒れているのを見つけたので保護させてもらいました。足を怪我しているようなので治療も行いました」


 ハキハキとした声で答えてくれた。

 

 ところで·········今この人、フーレン伯爵家って言ってたよな?

 伯爵ってあれだよな。貴族だよな。日本で言う公、侯、伯、子、男の五爵の三つ目の。ということはさっきのお嬢様って本物のお嬢様で、旦那様ってのが聞こえたけどそれって本物の貴族なのかもしかして!?


 俺は驚きの連続でパニクっていた。

 驚きの度合いは多分あの真っ白な空間に飛ばされた時と同じくらいだと思う。


 でも·········まずはお礼だよな。助けて貰ったみたいだし。

 日本は礼儀の国だからな。異世界に来てもそれは忘れないようにしなきゃ。


 そう思い、俺はまだ痛みに耐えながら声を出す。


「えっと……その、助けてくれて、ありがとうございます」


 そこまで言って、俺はふとポケットの中にコインが入っているのを思い出す。


 現状、数少ない所持品だが治療までしてもらって何も渡さないというのは失礼な気がする。

 コインしか渡せる物がないというのもあるけど。


「あの……これ、少ないですけど……お礼です」


 俺は、ポケットから持ってるコインのほとんどをそのメイドさんに差し出す。


 すると、そのメイドさんは一瞬悲しげな表情になると、そっと微笑んだ。


「大丈夫ですよ。お金なんていりません。ですので代わりにいくつか教えて貰えませんか?」


 教えて貰いたいこと?

 俺が転生したことは言っても伝わらないだろうし……

 俺はとりあえず頷いておく。

 

 そういえば、言葉って普通に通じるんだね。聞き慣れていただけじゃなかったみたいだ。


 俺はようやっと治まってきた痛みと同時言葉が通じたことに安堵しながらメイドさんの質問を待ち受ける。


「じゃあ失礼して、君はどうしてあんなところに居たのですか?」



 最初から思っていたより答えるのが難しい質問だな……


 俺はそう思い、答えを必死で考えるのだった。

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