メイドさんの質問

 うーん……さっきからメイドさんの質問がキツい。


 しかもメイドさんの中では俺は5歳だと思われているらしい。まあ自分の見た目が何歳くらいなのか知れたのだけど。


「では、改めて·········君はどうしてあんなところに居たのですか?」


 この質問だ。

 さっきは悩んでいたら別のものになった。

 失礼なのかもしれないが、何かに警戒しているように感じる。


 しかし、質問内容は「好きな食べ物はなんですか?」だった。

 小学生の自己紹介か!ってツッコミたかったが、見た目が小学生以下なら仕方が無い。


 このとき俺はサンドイッチ、と答えたので·········目の前にはサンドイッチが置いてある。というかサンドイッチあるんだね。それともあれかな、異世界特有の言語フィルターってやつか。こっちの言葉が相手の理解できる言葉に伝わるってやつ。

 

 でもこれってアレだ。刑事ドラマとかであるカツ丼と同じやつだ。

 まあ食べるのだけど。腹減ったし。


「もぐもぐ………もぐもぐもぐ」


「·········お腹、減ってたんですね」


 その言葉に俺は口いっぱいにサンドイッチを頬張りながら頷く。リンゴ擬きしか食べてなかったからな。水分もそうだけどしっかり味のついたものが凄い久々な気がする。


 結構このサンドイッチ美味いな。

 レタスっぽいのがすごくさっぱりしてるし、間にある肉もスパイス効いてて美味い。

 子供の身にはちょっとキツイが·········


「··················えっと、あんなところにどうして居たのか、でしたっけ?」


 サンドイッチを食べ終わった俺はメイドさんにそう聞き返した。


「はい。こう言っては何ですが、あそこは君みたいな子供が一人でいる場所じゃないのですよ。あの森は私たちの仕えるフーレン伯爵家とウェンストン侯爵家の領地との境目に当たる場所で、多くの魔物がいるのですよ」


 メイドさんは何か疑うような口調でそう言った。


 そうだったのか。

 俺はとりあえずあの丘から歩いてきただけだからそこまでは知らなかった。思いっきり野宿しちゃったよ。襲われなくてよかった……

 というか、そもそも俺はこの世界に来たばかりでその辺の常識が全く無い。

 だけどこの人が言うにはに子供がいていい場所じゃないな。

 それはそうとして魔物とは一体·········


 今分かるのは俺は確実に疑われている。

 この状況では俺はこの人に信じてもらえないにしても全てを正直に話すしか無いのだろう。


「えっと、まず信じてもらえないかもしれないですけど……」


 それを聞いたメイドさんは静かに頷いた。


「俺は最初、森の端の方から歩いて来たんです───」


 俺は今までどうしたのかをメイドさんに話していく。さすがに異世界転生してきた、というのは隠すことにした。

 あくまでメイドさんが思っているように何故かそこにいた子供として接する。


「なるほど。では、どっちの方から歩いてきたかはわかりますか?」


 メイドさんは何故か言いにくそうだ。

 何かあるのかな?

 でも聞かれてるなら答えるしかないな。

 えっと確か森を左に見てきたから·········


「どっちか、って言うのは分からないですけど、森を左に見て歩いてきたんですけど·········」


 俺がそう言うと、メイドさんは目に見えて安心したようだった。

 もし反対側から来ていたなら何かあったのかと気になってしまう。


「えっと、もし反対から来ていたなら何かあったんですか?」


 俺はつい気になって聞いてしまった。


 すると、メイドさんは言いづらそうに口を開いた。


「実は隣の国であるロワンダル共和国が子供を使ったスパイを送りこんだ、という情報が……申し訳ありません。難しい話でしたね。ですが、もう大丈夫です」


 なるほどね。そりゃ警戒はするな。それにしても子供を使ったスパイ活動とは。

 俺に何かが出来る訳では無いが嫌な気分になる話だ。


「もう一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」


 メイドさんはさっきとは別の深刻そうな雰囲気で聞いてきた。

 俺は、はい。と答える。


「失礼なのかもしれませんが、親御さんなどはどうされたのですか?」


 なんだそんな事か。

 こう言っては何だが元の世界でも親というものは気にしたことが無かった。

 正直思い出したく無かったがまあいろいろあったのだ。


「親は·········いません。気づいたら森の先の丘に立ってたんです」


 それを聞いたメイドさんは目から涙を流していた。わざとらしくも見えるけど、演技派かな?

 それはそうとしてさっきから思っていたが、この人って結構表情豊かだよね。まだほとんどネガティブな顔しか見てないけど。


「そう、でしたか……。申し訳ありませんでした」


 メイドさんは深く頭を下げて謝ってきた。


 俺はそこまでされるとは思ってなかったから慌ててしまった。


「ちょっ、メイドさん!謝らなくていいですから!俺も気にしてませんし」


 俺がそう言うと、メイドさんは頭を上げた。


「では、申し訳ありませんが少しここで待っていてくださいますか?あなたが目覚めたことを皆に知らせて来ますので」


 そう言ってメイドさんは立ち上がって扉から出ていこうとしていた。

 すると、メイドさんは立ち止まってそうです。と呟いた。


「私の名前を教えてませんでしたね」


 どうやらなんとなく分かるから気にしていなかったが名前を教えてくれるらしい。


「私はメーネと言います。フーレン伯爵家の長女ルルフィリア様にお仕えしているメイドです。以後お見知りおきを」


 そう言い残してメーネさんは立ち去った。


 そうして、馬車の中にはまだ横になった状態の俺が取り残されるのだった。


 ……そういえば、俺ってまだ名乗ってないよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る