出会い(見つけた)
ガラガラガラガラガラガラ
道に小石が多いのか、それとも人通りが多いからデコボコなのかは分からないが、けたたましい音を立てて馬車が走る。
結構な速度を出しているのに馬車の内部は魔法によって結構快適に保たれていた。
主にこの馬車の客室を浮かせている浮遊魔法などがそれに当たる。
理屈としては馬車は車輪などが付く外側の箱、人が乗る内側の箱。その二つの箱の上下の隙間に浮遊魔法が発動しているからである。その空間が振動などをある程度抑えるクッションの代わりとなるのだ。
そのため、この馬車に乗っている人は御者を除いて揺れとはほとんど無縁で過ごしていた。
「ねえメーネ、あとどれぐらいで着くの?」
「昨日の昼頃にウェンストン侯爵様のお屋敷を出発したので·········おそらく明日の夕方には到着出来るかと」
「そう。今は陽が登って少しだから·········はぁ」
彼女の名はメーネ。フーレン伯爵家の一人娘に仕えるメイドである。
そして今ため息をついたのが伯爵家の一人娘であり、メーネの主人、綺麗な金髪に濃い青色の瞳を持つ少女、ルルフィリア=フーレンである。
今回は、今年5歳になるルルフィリアのお披露目という形でのパーティーに参加していた。
現在はその帰りの道である。
本来ならばそういったお披露目のパーティーなどは主役の家で行うものだが、今回の場合はウェンストン候爵家の息子もお披露目ということもあり、貴族位の差によってこちらが招かれる形となっていた。
「·········お嬢様は、あのパーティーをどう思われましたか?」
メーネがルルフィリアに聞く。
本来ならば主人と部下なのだからあまりこういったことは許されないだろう。
だが、この二人の間ではそういったことは無かった。歳の離れた友人のような関係だった。
「そうね·········なんかみんな私に近寄って来て気持ち悪かったわ」
それはルルフィリアの本心だろう。
貴族の社会では5歳程度であっても親や家庭教師からお世辞などを仕込まれるものだ。
今回のパーティーではルルフィリアのお披露目の他にも主催者の息子もお披露目という意味もあり、他の貴族も招かれていた。
お披露目の主役という訳でもないのにも関わらずその見目麗しさからルルフィリアには数多くの縁談の申し込みが来ていた。
その全てをフーレン家当主であり、ルルフィリアの父親のガルマが断っていたが。
「やはりそうでしたか。ですが貴族というのはそういうものです。幼い頃から自分の縁談を仕込まれるのは。
旦那様のように自ら選んだ人と結ばれるのはやはり珍しいのですよ」
フーレン家当主であるガルマは貴族ながらも子供の頃から庶民と共に過ごすことがよくあった。
それ故に地元住民からの支持も良く、次期当主として期待されていた。
そんな中、成長したガルマが恋に落ちたのは一人の幼なじみの少女だった。
当時、ガルマは期待の人物として多くの貴族家からの縁談が来ていた。
だが彼はその全てを蹴り、自分の恋した少女と結ばれることを選んだ。
相手の少女は格差などを関係無しに彼の想いに答えた。
そうして、結ばれた二人の間に生まれたのがルルフィリアなのである。
そうしたことがあったからか、ガルマは娘のルルフィリアには縁談という形ではなく自らが選んだ相手と結ばれて欲しいと思っていた。
だから今回のパーティーではガルマはルルフィリアに来る縁談の全てを断ることに奔走していた。
まあ断られたからと言って諦めないのが貴族である。
おそらくこれからもパーティーに出席する度に声をかけられるだろう。
そう思うとやはり嫌でため息をついてしまうルルフィリアだった。
「まあお嬢様はまだ心配することはありませんよ。あんなにお世辞を言っていても所詮は親から仕込まれたものですので決して本心とは言えないでしょう」
メーネはそう言うがやはりルルフィリアの気分は晴れない。
好奇の視線に晒される身としては出来ればしばらくパーティーには参加したくはないのだ。
しかし来月も似たようなパーティーに参加することが決まっているのでますます嫌になってくるのだ。
そもそもルルフィリア自身はパーティーそのものがそこまで好きではない。ずっと立ちっぱなしだったり、食べれる食事の量は少なかったり、窮屈なドレスだったりと好奇の視線とは別の理由で彼女は嫌になっているのである。
ルルフィリアがパーティーに参加するのが嫌になってきていたその時だった。
「·········あら?どうして馬車が止まったの?」
今まで話していた時も常に感じていた振動が完全に無くなったのだ。
浮遊魔法というのは完全では無い。多少は揺れるのが普通なのだ。
だからルルフィリアは止まったと判断したのだ。
「本当ですね。どうして馬車が止まったのでしょう?」
ルルフィリアとメーネがそう話していた時だった。
ガチャリと馬車の扉が開けられた。
一瞬、何者かと警戒したものの顔を覗かせたのは馬車を操縦していた御者だった。
「何かあったのですか?」
メーネが御者に問いかけると、御者の男性はこう言った。
「森の縁の辺りで誰か倒れてるんです」
メーネとルルフィリアは彼が何を言っているのか分からなかった。
自分達が今通っているのは領地と領地を繋ぐ街道だ。国の南部に通る街道としては大きめで、いくつもの領地を繋いでいる。
もちろん旅人なども通るから野宿ということもあるだろう。それは当たり前なのに何故わざわざ馬車を止める必要があったのか。
確かにすぐそこからよく野宿場所としてよく使われる森と草原の境目だが。
「·········あの?それは旅人とかではなくて?」
メーネも戸惑いながら御者に聞く。
すると、御者は驚くべきことを口にした。
「それなんですが·········倒れてるのは、小さな子供なんです。ちょうどお嬢様と同じくらいだと思います」
さすがにそれは驚くしかない。
確かにこの街道は旅人も通る。だが、さすがに小さな子供が通りはしない。この辺りは人が住む村は少ない。そもそも子供が一人でいること自体不自然なのだ。
「あの、その子供の周りには親はいないのですか?」
ルルフィリアは驚きからまだ戻っていないのでメーネが対応する。
「見たところ一人です。·········さすがにこの森で一人で放って置くのは危険だと思うのですが·········?」
御者の言う通りだ。
この森には魔物も多く生息する。この辺りの草原と森の境では魔物は少ないのだが……
やはり親がその場に居ないのならば放置するのは危険だ。
そう思い、メーネは即決する。
「私の名で命じます。至急、その子供の所へお願いします。御館様には後で言っておきますので。────お嬢様、少しここで待ってて下さいね」
そう言ってメーネは馬車を降りようとする。
だがルルフィリアはそれを制止する。
「メーネ待って。私も行く」
ルルフィリアはそう告げると、ワクワクを抑えられずにニコニコしながらメーネより先に馬車を降りた。
メーネは分かっていた。お嬢様の好奇心はこうなってしまっては止められないと。
仕方が無いのでメーネは危険がないようにきを配りながら御者の案内について行くのだった。
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