森の縁
さっきまで立っていた丘の上からしばらく歩いて行くとすぐに丘から見えた森に到着した。
と言っても、だいたい二時間は歩いたのだけど。
「それにしても大きな木だ·········」
遠くから見た時はあまり見えなかったけど近くまで来るとよく分かる。
その木一本で直径数メートルはありそうな幹を持っている。樹齢数百年は軽く超えているだろう。そんな木がゴロゴロあるのだ。
森の規模だけじゃなくて木そのものが大きい森だったことに驚きだ。
俺は今、コイントスの結果通りに森を左に見ながら、森の縁を歩いている。
さすがに森の中に入ってしまうと迷うかもしれない。ただ、水源は大抵森の奥にありそうで少し迷っている。今何より必要なのはおそらく水だから。正直、喉が渇いて仕方が無い。
手元にある銅貨でもどうすることも出来ないのだから。
有名な例えだが、「砂漠でいくら宝石があっても意味は無い。なぜなら、宝石で命は買えないから」まんまこれだな。
腹も減っていたから木の実でもないかと探しながら歩いていたのだけど·········
「これって食えるのかな·········?」
一応、木の実は見つけた。と言うよりも何度も見かけていた。
木になっている赤い色をした実だ。大きさはだいたいリンゴと同じくらい。と言うよりリンゴにしか見えない実が目の前になっていた。
いくら腹が減ってるからといって、いきなり口に放り込むような勇気は俺には無い。そもそもリンゴって昔はクソ不味かったらしいし。
でも、見た目が完全に見慣れた美味しそうなのも事実。でも毒のある物は自らを美味しそうに見せるって何かで聞いたこともある。
「もし何かあったら怖いけど·········一か八かだな」
下痢ピー覚悟で俺はそう呟くと、目の前になるリンゴによく似た実を手に取った。
「じゃあ、いただきます」
皮を剥けないからそのまま食べたが……美味い!
皮は薄く柔らかい。実はシャクシャクと歯ごたえがあり、実からは大量の蜜が出てきた。
僅かな酸味と甘みが絶妙に合っていてとっても美味い!
「·········これ、下手すると本物のリンゴより美味しいな」
俺は一個食べ終わると、まだ木に残っている実を収穫した。
今日の夕食にしよう。
俺はリンゴに似た実を二つ持ちながらさっきと同じように森の縁を歩いて行く。
小学生の頃に流行った丸いものを胸に入れてみて男ながら巨乳ごっこみたいのもやった。……一人でやっていて恥ずかしくなったからすぐに辞めたが。
この日はあの実を食べた場所からさらに二時間程進んだ場所の木の下で休むことにした。
どうやら結構疲れていたみたいで二つあるうちの一つを食べると俺は眠ってしまったのだった。
ちなみに、この時は疲れで考えもしなかったのだが、野宿するにしても最低限の設備は必要である。例えば焚き火や葉っぱで自身を隠すとか。翌日の朝に気がついた。全く、反省ものである。
異世界生活二日目も昨日と同じだ。
起きても周囲にはなんの形跡も無かったからこの辺りには動物は少ないのだろう。これなら多少安心して寝れそうだ。もしくは暗くて上手い具合に隠れられていたのかだ。
朝ごはん代わりにリンゴに似た実を食べながら歩く。
途中で似たような実を付けた木があったから寄って収穫していく。
貴重な水分兼食糧だからね。
なんか少しだけ色が違う気がするけど食べてみたら味も変わらないから気にしない。むしろ水分が多い気がするほどだ。熟し具合とかかな?
そうやってしばらく歩いていて日が傾いてきた頃の事だった。
「────痛っ!」
のほほんと実を食べながら歩いていると、いきなり足に痛みが走り、バランスを崩す。
食べかけの実が地面に落ちるが仕方が無い。
ズキズキと痛みを感じる足を見ると、赤くなり始めている。どうやら捻ってしまったみたいだ。
足元を見ると、少し大きめの石が落ちている。おそらくそれを踏んでしまって捻ったのだと思う。
「むむむ……ながらスマホならぬ、ながらリンゴか·········」
正直、内心ではもうこの実はリンゴでいい気がしてきた。味も見た目もそっくりなのだから。
··················足の痛みを忘れる為にそんなことを考えてみたがあまり意味は無かった。
「痛って〜、これ動けるかな」
休むにも木の下に行かなきゃいけないからまずは立ち上がりたかった。
さすがに這っていくのは避けたいし。
俺は何とか立ち上がろうと奮闘する。だけど、片足で立ち上がるにはこの小さな体ではなかなか無理があった。
どうにか出来ないかといろいろ試してみるも上手くいかない。
まさか立ち上がるだけでここまで苦労するとは·········。
「うーん、仰向けだからダメなのかな?·········もしかしたら」
そう思うと、俺は体を捻ってうつ伏せになった。
そしてそのまま腕立ての要領で立ち上がる!
片足を浮かせたまま、立ち上がるのは結構堪えたが、何とかなったからよしとする。
それにしてもこれだけで結構時間を使ってしまった。
足のことを考えるともう休んだ方がいいだろう。
そう思い、俺は地面に落ちている傷のない実を少し苦労して拾うと、木の下に座り込んだ。
のんびりと夕日を眺めながら実を食べると、俺はすぐに横になった。
寝てしまえば、足の痛みを気にしないで済むと思ったから。
この状態で周囲の警戒とか木に登っての予防策とかは取れない。せめて寝る前に一応周囲を確認したかったが……
俺は目を閉じるとすぐに襲ってきた痛みを超えた眠気に身を委ねるのであった。
何も無いことを祈って。
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