第1発

草原にて

 さて……ここはどこだ?



 別に何も無い訳では無い。

 少なくとも俺は見たことの無いものが目の前に広がっていた。


 

 光に包まれた俺が目を開けるとそこは

────文字通りどこまでも続く草原だった。


「すごいな……日本どころか世界でもそうそう見れなさそうだ……そりゃラノベ主人公も言葉失うよ」


 そう思うほどにこの光景は美しかった。

 どこまでも深い蒼穹の元に遠くに山がいくつも見える。その中には一際高い山も見え、霊峰とか呼ばれてそうだ。別の方には大きな森が見えた。俺が今立っているのは小さな丘のようなところの上だが、似たようなものが周囲にはいくつか見える。空にはトンビのような鳥が舞い、小鳥もどこかで鳴いている。

 草原に風が吹くと、草が風によって揺れて波のようにも見える。

 そんな美しい風景だった。



 しばらくその風景を堪能した俺は再度持ち物チェックを始める。

 何持ってるのか知ることは大事だからな。

 まず着ているのは半袖に短パン。さっきまでの服じゃ無いな。まあそうか。どう考えても転生だし、持ち越せる方が不自然か。記憶があるだけ良い。


 履いていた短パンのポケットに触ると何か硬いものが手に当たった。

 結構小さなものだ。そして丸い。

 なんとなく予想はついたが取り出してみる。


「お金·········かな、これは。見たところ色からして銅貨っぽいけど··················あれ?」


 赤銅色の表面に謎の一本線がある面と、何やら人の顔が彫られた面があるコインのようなものを指で摘んで眺めていた時だった。

 俺はまた重要なことに気づいてしまった。

 服を着ているかじゃない。もっと重要だ。


「声が·········高い?」


 そう呟いた声もやはり高かった。

 何度か声を出してみたが、自分で聞き慣れている自分の声となんか違う。


 今まで景色に気を取られてて気づかなかったが、視点もなんか低い気がする。


 手や足を見ても何だか小さいような気がしてきた。

 手は小さくまだプニプニするし、足は生前と比べて明らかに小さい。


 鏡が無いから分からないが、多分自分は結構……若返ってしまったらしい。





 若返ったことが分かっても現状は何も変わらない。

 周りには草原と森しか無い。

 まずは人里に辿り着かなきゃならない。

 だって転生したのに数日でゲームオーバーとか嫌だからな。

 

 こういう時、ラノベやアニメの主人公はとりあえず歩き回っていた。

 だけどそれはあくまでもフィクションだからだ。現実で行動するなら効率が悪すぎる。

 そもそも危険だ。


「さーて、どうしたものか·········」


 どうやって行動するか。まずここで必要不可欠なものをリストアップしてみよう。まずは水だ。これが無ければ当然死ぬ。確か体重1kg当たり数十mlってテレビで見た。次に食料。これもなきゃ厳しい。特にこの小さな身体では。生前の身体なら数日食わなくても何とかなったけどこの身体だとわからない。

 それらを加味して候補は幾つかある。

 一つは森の方へ向かうこと。

 森があるならばどこかに水源や食料があるかもしれない、という考えだ。


 二つ目は山の方へ向かうこと。

 山ならば鉱山とかがある可能性があるから、人がいる可能性がある。森のそばを通っていくから場合によっては水源や食料にも困らないだろう。


 三つ目はとりあえず草原のど真ん中を行ってみること。食料なんか何も考えずに突き進むルート。

 村があるかも知れない!なんて訳はないだろうからはっきり言って論外の発想だ。


「三つ目は元から除外だな。だとすると森か山のどっちか········」


 俺は空を見上げて太陽の位置を見た。

 元いた世界と同じかは分からないがまだ日は高い。動くならば今のうちだ。


「俺の二度目の人生が銅貨で決まるのか·········。なかなか面白くなりそうだ」


 俺はさっきの銅貨を取り出した。

 やることは単純。コイントスだ。

 つまり人生をコインに賭けることになる。


 表の線がある方が森、裏の人の顔がある方が山と俺は決めた。


「さて·········どっちが出てもいい結果になりますようにっ!」


 俺は銅貨を空へと放った。


···································································


··················································


····································


··················


·········


 パシッと音を立てて俺は銅貨をキャッチした。


「さてさて結果は·········?」


 恐る恐る手を開くとコインが「表」の状態にあった。


「表か·········。つまり森だな」


 俺は結果を見るとすぐさま森のある方に歩き出した。あまり立ち止まっていても仕方が無いからだ。


 

 俺は持ち物チェックを中断してしまったことに気付き、チェックをしながら森の方へ向かうのだった。


 ちなみに、持ち物はさっきの銅貨数枚と一回り大きい銅貨が数枚、そして布一枚だけだった。


 さて……変なのが出ないといいんだがな。

 戦う術どころか抗える肉体もないのだから。

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