ここはどこ?

 何があった?


 それが今の俺の思考のほとんどを占領している。


 正確にはここに来る前に何をやっていたかは覚えている。


 バイト帰りに俺は車に撥ねられた。

 フワッと持ち上げられるような感覚だった。

 地面に激突した感覚も無かったから、即死か他のなんらかの出来事があったのか。

 

 まあこれが俺の最後の記憶だ。他にも今までの記憶も全部ある。

 わからないのはここがなんなのかだけだ。なんの心当たりも無いんだよな。こんな場所。


「ここはなんだ!?誰かいるなら教えてくれ!」


 彼がとりあえずそう叫んでみても何も返ってこない。

 まるで音が吸い込まれるように、反響すらしない。


 何かないかと辺りを見渡してもただただ真っ白なばかり。

 床も真っ白だが、壁などは無いように見える。でもなにかあると怖いから無闇には動かない。

 空に光源があったり、光がどこからか差し込んでるわけではないのにずっと明るい。


 もしここが天国だと言うのなら改善を要求するところだ。

 いかんせん何も無さすぎる。


 そこまで考えたところで彼はある重要なことに気づいた。

 それはもう個人としての尊厳に関わるレベルで重要なことだ。




 「俺って今服着てたっけ?」



 ズボンある。パンツある。インナーある。コットンシャツ着てる。

 冬用のダウンジャケットも羽織ってる。

 …………よかった。ちゃんと着ていた。だけど事故にあった時と同じ服なんだと感心する。最期に着てた服だからなのだろうが。


 もし誰かが聞いていたなら何を馬鹿なことをと笑うかもしれない。

 確かにこんな不思議体験してるのだから服以外の心配しろよと思うだろうが。


 だが彼にとっては重要だ。衣服とは人間が人間たる所以なのだから!

 だっていきなりこんな所に放り出されてパンイチとか全裸はさすがに恥ずかしい。誰も見ていないとしても、だ。


 そう思いながら何か持ってないかとポケットの中を探す。

 服のことで変に焦ったからか、妙に落ち着いて探すことが出来た。

 ポケットに手を入れて早速分かったことだが、感触が服じゃないってこと。服の見た目で服じゃない触り心地。

 なんだこれ?沈みこまないジェルみたいなひんやりした感触。

 未来の服とはこんな感じの触り心地だ、と言われたら納得できるようなそんな感じの物。


 それはさておき、今まで持っていた物だが·········何も無かった。

 スマホも財布も家の鍵も全部無かった。当然と言えば当然だけど。だって死んでるし。服だって見た目だけで触り心地がおかしいし。


 色々探っていると、鍵とかの代わりに上着のポケットの中に一枚の折りたたまれた紙切れが入っていた。

 

 ものすごくボロボロの紙だ。ところどころ破れそうで、そっと触らないと直ぐに崩れてしまいそう。


 肌触りは悪くないのにどうしてこんなにボロボロなのかは気になる。面白いのは服と同じ感触。

 そんなことはどうでもいいからと、一旦紙の肌触りは忘れて、二つに折り畳まれた紙をそっと開く。


 そこには文字が書かれていた。

 そこに書いてあったのはこうだ。



『初めまして、神です。

突然ですがあなたは死んでしまいました。


ですがあなたはまだ若いのでただ死ぬだけではなくチャンスを与えるためにその空間に呼びました。


あなたには二つの選択肢があります。

一つはこのまま死を受け入れ、元の世界に転生すること。こちらは一般的な死者の方々と同じです。


二つ目は今までいた世界とは別の世界に転生することです。こちらは今までの記憶を引き継いだまま生まれ変わります。ただし、今までいた世界へは二度と転生出来ません。全てを別の世界で終えて貰います。


決めたのならどちらにするかを叫んでください。



追伸

その空間の改装は検討します。


             神より』


 

 ……………ふむ、いくつかツッコミたいところはあるがこれはつまりアレか?

 いわゆるラノベや漫画、アニメでお馴染みの異世界転生というやつなのか?

 てかなんだよ「神です」って。少なくとも俺は「お前だったのか」なんて言わんぞ。


 書いてあることに衝撃を受けながらも、改めて紙の内容を読み直す。


 それになんか地球の宗教観とかの究極がサラッと書いてあるなこれ。

 死んだら元の世界に転生出来たんだ。コウノトリとかキャベツのシステムじゃないんだな。


 まあ目下一番の問題は要は異世界転生したいかどうかということだ。

 そもそも異世界なんて存在するのかと疑問もあるんだが……

 でも死んだ以上俺の答えは決まっている。

 この紙に書かれた通りならば、蘇ることはできないらしい。

 それならば、少しは好きにしてもいいじゃないか。

 それに、現実世界でかなり好きだったジャンルが転生モノだ。

 まさか自分が体験することになるとは思わなかったが……。


 そこまで考えたところで一抹の不安が過ぎる。


 いやちょっとまて?

 まず俺は死んでいる。これは確かだ。でもこの手紙の内容。


 新手の詐欺か?


 俺の状態がなんとも言えない不定形過ぎて地球でどうなってるのかわからないけど、このまま答えたら未練とかどうなる?


 前世、と言うには実感がまだ無いが一応未練になりうる物品や、人はいる。


 まず一つは初期ロットのドラグノフをモデルガン化した元本物の狙撃銃。抽選で当たり、店長と一緒に狂喜乱舞した覚えがある。

 まだ届いていないからどこに飾るなど何も考えていなかった。


 次は俺の所属するサバゲーチーム。まあこれは店長が何とかするだろう。

 あの人に任せておけば全て大丈夫だ。


 その次は俺の後輩。

 俺の一つ下の学年で、なんだかんだ言って関わりがある。

 俺のサバゲー趣味を知っている数少ない人物。

 所属するサバゲーチームの癒し担当でもある。

 きっと泣かれるだろう。でも、少ししたら普段通りに過ごしてくれるはずだ。

 そんな人間だと俺は信じている。


 あとは装備。

 ずっとバイトをして買って揃えていった物だからガチでやってる人達の物には遠く及ばないが、それでも愛着ある物だ。店長からは「引退したら飾ってやる」と言われていた。

 こんな形で引退にはなったけど飾ってくれるだろうか。


 ラノベとかも惜しいが……でも俺が一番持っていたい知識はまだ頭の中に全て残っている。ありがとう昨日までの俺。


 え、親?知るかあんなん。



 未練、というものに改めて考え自分を引き止める要因になるものを整理し追える。


 次は未練にはならないが、疑問は残る。

 転生とは?ってことだ。記憶は引き継げるみたいだけど自分の肉体はどうなるのだろう?


 例えば肉体も消えてそのまま転生するのか。

 それとも精神だけ転生してほかの人間の体に宿るのか。


 人格もどうなるのか。

 この手紙にはとしか書いていない。

 ラノベでも見る憑依系。これに該当するのか?それともどこぞのディストピアみたいに脳みそだけポッドの中に入れられた状態だろうか?


 転生とだけ言われても、可能性が多すぎる。

 ワクワクしてるけど、こればかりは心配である。

 頭を悩ませるが、何も思考が進まない。

 

 二十年生きて、こんなことは初めてなのだ。

 人類で何人が経験したこんなこと。いやゼロ人か?


 全くの未知!剣と魔法か、ビーム飛び交う宇宙か!さらには恐竜とか居そうな異世界とか!ロマンばかり浮かんでくる。

 もしかしたらコロンブスとかもこんな気持ちになったのだろうかと思わずワクワクが湧き出て来る。

 

 彼の場合大陸だが、俺の場合は世界そのもの。スケールは違えど方向性は同じ。


 しかも俺はその先で何をしようと自由だ。

 紙に書いてある通りのことであればまっさらな人生を一からまた始めることになる。

 ヒーローも、魔王も、村人Aにもなんにでも。

 

 未練はあっても好奇心が勝ってくる。

 正直、失うものは何も無い。


「ははは……あいつに自慢したらなんと言うか」


 最も仲が良いと言える後輩の姿が浮かぶが、それを振り払う。


 あとは……もう無いか。

 まともな状態じゃないからこその思考。それでも俺はこの先にあるナニカを目指したい。


 たとえ、戻れなくとも。


 地球にあるゲームなんかの娯楽には二度と触れられまい。誰とも会えない。

 何十億と人が居て、その中で選ばれた一人。天国か地獄かはわからない。

 それでも、俺は尋常では無い道へと向かいたい。


 止められない、この想いは。この気持ちは。この昂りは。



 よし、決めた。神様に答えを告げるとしよう。


「·········神様!俺は転生する!生まれ変わらせてくれ!」


 そう叫んだ瞬間、辺りを光が包んで、俺は浮遊感を感じた。

 目を閉じ、俺はまだ見ぬ異世界のことを考えるのだった。


 ……ま、普通は体験出来ないことばかりだろうからな。



 この時、彼の持つ紙にはある一言が書き加えられた。


『────ようこそ。私の世界へ。いってらしゃい、アルファーンへ』



 それに気づくものはその場には、この世にも既にいなかったが……。

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