第25話光の中で
嘘だ。
嘘だ、こんなの。
隊長が…ルイス隊長が……
胸を刺された。
倒れたまま、動かない。
血が、真っ赤な鮮血が、どんどん広がってゆく。
どうして、こうなった?
どうして、今になって……
あたしのせいだ。
あたしのせいで。
大切な人が、大切な人たちが……
死……
「……いやぁぁぁぁあああああああああああ!!」
──カッ!!
叫んだと同時に。
何かが、光ったような気がした。
「な、なんだ?!」
ジェイドの声に、ぎゅっと閉じていた目を開ける。
するとそこは、真夜中だというのに目がくらむほどの光で溢れていて……
そしてその光が、自分の身体から放たれているということに気がつく。
これは……なに……?
「まずい……精霊の暴走だ!この女、制御できないのか……!!」
そう言ってジェイドは、あたしの身体を突き飛ばす。
地面に転がされ、白いワンピースの裾が裂けた。
起き上がりながら、ゆっくりと自分の手のひらを……
白い光を放つ身体を眺めるが。
自分の身に、なにが起きているのかまったくわからない。
いや、わからなくていいか。
ええと、なんだっけ。
ああ、そうだ。
殺すんだった。
みんな、みんな、みんな。
あたしを傷つけるものは、みんな殺すんだった。
悲しみ。
苦しみ。
怒り。
それも全部。
消してしまえばいいんだから。
「──赤キ精霊ヨ」
自然と、口が動く。
自分の身体が、自分のものじゃないような、不思議な感覚。
そして、光を放っている右手で。
あたしは静かに、宙に『署名』をした。
「──壊セ」
────瞬間。
『うわぁぁぁぁああああああああ!!』
森中を覆い尽くすほどの光が、あたしの手から放たれる。
直視すれば失明してしまいそうなほどの、強烈な光──
それに、隊長やみんなが、包まれていく。
そして、目では見えないのに、手に取るようにわかる。
みんながまだ生きていること。
その傷が、みるみる癒されていくことが。
どうやら、あたしの魔法の能力が最大限に発揮されているらしい。
「よか……た…………」
なんだ……やればできるじゃん。あたし。
これでやっと、みんなの力に……
そんなことを、ぼんやりとした意識の隅っこで思う。
…………しかし。
光の中には、ジェイドと術師もいる。
その二人の状況も、手に取るように把握できるのだが…
「ぐああああああああああ!!」
「焼ける……皮膚が………あ…あ……」
二人のそんな叫び声が聞こえた。
あの二人は、ほとんど傷を負っていない。
だから、魔法は…癒しの力は、無意味なはずなのに。
彼らの細胞が、組織が、再生と破壊とを繰り返し……
……死んでいっている……?
これは、どういうこと…?
それじゃあ、このままじゃ再生を進めれば、隊長たちも……
そのことも、何故だかわかってしまう。
隊長たちの傷が、細胞が、あとどれくらいですべて癒えて。
どれくらいで、崩壊し始めるのかが。
「い…いや……待って」
草が、樹が、花が。
森の中の生き物たちが。
「だめ…このままじゃ、みんな……」
光に包まれたすべての生物が、死に近づいてゆくのがわかる。
「ま……待って!止まって!いや!!このままじゃ、みんなを……」
そう叫んで、自分の身体をぎゅっと抱きしめてみるけれど。
体から放たれる光は、ちっとも止まらなくて。
なんで……なんでなの。
やっと力になれたはずなのに。
こんなことって……
どうして、いつもあたしは……
誰かの『光』にはなれないの……?
このままじゃあたし、みんなを…………
「………………殺しちゃう………」
────ふと。
光の中で。
誰かが、泣いているあたしを後ろから抱きしめた。
そして、あたしの右手に自分のを重ねると。
耳元で優しく、囁いた。
それは、もう二度と聞けないはずの。
大好きな人の、声だった。
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