ピジョン・ブラッドの殉情

烏代 杳

01 靡く銀、白い首筋

 銀の髪がきらきらと光を弾く。──長く艶やかなそれを風に遊ばせ、楽しげに子守歌を口ずさむ少女ユリの姿を横目に見ながら、月方光希つきがたみつきは貯水槽に背を預けた。

 陽の暮れかけた空は夜と混ざり合い微か、紫めいている。少女の制服の裾がはためいて、生白い太腿がちらちらと視界を掠めた。


「──わたしね、この時間の空の色、好きなんだ」


 歌が止む。風に靡く銀を片手で押さえながら、光希と目を合わせ、ユリは小さく微笑んだ。


「黄昏時。誰そ彼時。どこか、遠くへ行けそうな気がするの」


 湖面の様に美しい碧眼が、沈みかけた陽の照り返しを受けてか、紅玉の色を宿す。光希はふいと視線を外した。あの目を見ていると、心臓の奥がぎちぎちと音を立てて無性に痛むのだ。

 スカートの裾が一際強い風にはためいて、ばたばたと音を立てる。視線は外したまま、光希は制服の襟元を手繰り寄せて、口を開いた。


「僕は陽が出ている時間は余り好きじゃない」

「……ふふ、うん。そうだよね、知ってるよ。それに、光希くんは夜のほうが似合うもの」


 紅玉を宿した碧眼は、まるで宝石の様に光希の目には映る。

 それはこの世に二つと無い至宝。瞬間、生の輝きに満ちた双眸が脳裏に蘇り、無意識に喉を鳴らした。──嗚呼、どうしようもなく渇く。水辺から放り出された魚のように、或いは日照りに晒された犬のように。唇を舐める。フェンスを背にした少女が、両の手を広げていた。


「──ユリ、」


 歩み寄って、その細くしなやかな体躯を搔き抱いた。乱れた襟元の、白い首筋が暮れ掛けの陽に生々しく照らされた。労わるように舌を這わせる。穢れも何も知らなそうな首筋が唾液に濡れる。もうこれ以上は堪え切れない。光希は一言も掛けることなく、唇を落とした。

 ああ、と歓喜の入り混じった色の滲んだ声はきっと、少女のものだった。


「いいよ、あげる。──いっぱい、あげる」

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ピジョン・ブラッドの殉情 烏代 杳 @ushiro_you

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