第102話

 サクッとした外皮の食感。中のぷるん。とした脂身からじんわりと旨味が口に広がってゆく。その唐揚げは悶えて声に出そうなくらいに美味く、レイモン。つまりレモンを絞るとまたなんと言えぬ美味さとなる。思わず内股をキュッと締めてしまうくらいだ。


「それは骨鶏こっけいの唐揚げですわね」


 リリーカさんの言葉に、私の手からフォークがガラン。と零れ落ちた。リリーカさん食事中ですよ。はしたない。




「ふふ、幸せそうなお顔をしておりますわねカーン様」

「え……? そ、そうですか?」

「ええ」


 マリエッタ王女はニコリ。と微笑んだ。出会った時とは打って変わって幼さは微塵も感じられず、歳の割には落ち着いた雰囲気を纏う。これが同じ人物だとは、誰も信じないだろう。


「あ、あの王女殿下」

「そんなに堅苦しくなくてもいいですよ。あの時の様にマリーと呼んで下さって構いません」

「え……あ、いや。しかし……」


 私は王様にチラリと目配せをする。流石に一国の王の目の前でご息女をそう呼ぶわけにはいかない。


「ああ、アレは気にしなくて大丈夫です」


 父親をアレ呼ばわりか!?


「何か文句を言ったら黙らせます。娘を溺愛する親なんてちょろいもんですから」


 それ本人の前で言っちゃダメだろう。


「で、では……ま、マリー様……」


 チラリ。と王様に目配せをする。一瞬王様と視線がかち合ったが、王様は視線を元に戻して食事を進めた。せ、セーフ。


「マリー様はいつから私を男ではなく女だと分かったのですか?」


 今思い返しても、マリーちゃんと一緒の間はボロは出していない。にもかかわらず、王女は私を彼女、お姉様方と呼んでいた。


「んーそうですね。カフェで背を凭れた時ですよ。首に感じたポヨンとした柔らかいモノで分かりました」


 結構最初からじゃないか。晒しを巻いただけだからなぁ。


「後は、手を握った時とか、お尻を掴んだ時とか」


 あれワザとやってたの!?


「まあ、全体的な線の細さを見れば殿方で無い事は一目瞭然ですよ」


 見た目で既にバレバレか。私が男だと思っているのはフォワール親子くらいだな。


「ところで、リリーカさん」

「はい。何で御座いましょうマリエッタ様」

「噂で聞いたのですけど、どうしてリリーカさんはこの方と、婚約しているなどと言い触らしているのです? 女性ですのに」

「それは、その……」


 言葉に詰まるリリーカさん。どうしてソコで黙るんだ? 言ったら良いだろうに……仕方ないここは私が。


「それは、フォワール卿に言い寄られている為です」

「お姉様!?」


 俯き加減だったリリーカさんは、驚きの表情で私を見つめていた――

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