第101話

 王女を連れ戻す為に近付いた衛兵の一人が宙を舞い、倒れ伏す。衝撃で脱げた兜が、唖然としている私とリリーカさんの間を転がり抜けた。…………へ?


「姫! 御抵抗はなさらないで下さっ?!」


 今度は別の衛兵が壁際までスッ飛ばされる。鎧の胸当てに左手を添えただけで!? 一体どんなカラクリなんだ?!


 王女が玉座に近付くにつれて王様は一歩また一歩と後退り、ガタリッと玉座をひっくり返しそうな勢いで座り込んだ。いや、王女の気迫に座らされた。と言った方が正しいか。先程の威厳など何処にもなく顔面蒼白になっていた。


「お父様」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 情けない声を上げる王様。周りの文官達は一言も発せず、私とリリーカさんも唖然としたまま室内は静寂に包まれた。


「私の友人であるこの者等を、何の罪もなしに処断しようとはどういうおつもりですか?」

「いいいいや、違う! それは違うぞマリエッタ!」

「何が違うのですか? 現にお父様は彼女を切り捨てようとしたではありませんか。その剣でっ!」


 王女は王様が持っている剣をビシリッと指差した。…………ん? 彼女・・


「ごごご誤解だっ」

「ミミズもゴカイもありませんわ」


 ミミズ? ゴカイ? ……ハッ! それって釣りエサだっ!


「でしたら、何を以って誤解と解くのです? 今スグ見せて頂きましょうか」


 ハァッ。と長いため息を吐いて玉座から立ち上がる王様。


「これは、その者を切る為のモノでは無くだな……こうするモノだったのだ」


 王様が床に剣を突き立てる。すると、玉座の後ろにある壁が揺らめき出した。揺らめく壁が徐々に薄くなって完全に消え去ると、別な空間が姿を見せる。ソコには、奥へと真っ直ぐに伸びる長テーブル。真っ白なテーブルクロスの上には、しろがねに輝くお皿や白磁の器に盛られた見た事もない料理の数々が、ホカホカと湯気を上げている。その様子に、私もリリーカさんもだらし無く口を開け……は語弊があるな。ポカンと口を開けていた。


「な……」

「なに……コレ」

「ぶわははは。どうだ? 驚いたであろうっ!」


 両手を腰に当てて豪快な笑い声を飛ばす王様に、私達の思考が追い付かない。


「娘が世話になった礼だ。存分に楽しんでゆくが良いっ!」

「お父様っ、こんな素晴らしい企みをしておられたのですねっ!」


 企みって……


 歓喜のあまり駆け寄る王女を王様は腕を大きく広げて向かい入れ、親娘の包容が熱く交わされる。直後、王様の身体がビクンと震えたと思うとその場に蹲った。お腹を抱えて床を転がる王様。そんな王様をよそに、マリエッタ王女は正拳突きの構えを取っていた。


「全く……それならそうと私にも教えてくれても良いではありませんか」

「ご、ごべんなざい……」

「さ、お姉様方。冷めないうちに頂きましょう」


 ニッコリと微笑むその笑顔は、あの時に見たマリーちゃんの笑顔だった――


 とんでもメーワクなサプライズだな、オイ。

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