第64話
「い、言わなきゃダメですか……?」
「当たり前だ」
借りているアパートで起きた異臭騒ぎ。その原因が私の部屋にある。と疑われた。が、ソレに心当たりがあった。けれど、大勢の人に聞かれると思うだけで、顔が火照り始めた。
「あの……衛兵さんお一人だけに話すってのは、ダメですか……?」
「ダメだ。私が他に話せば同じ事だからな」
「こんな大勢の前で女の子に言わせるんですかっ?!」
「聴取に男も女も関係無い」
ごもっともで御座います。逃げられない事を悟った私は、観念して言う事に決めた。
「な、流し忘れたんです……」
「流す……? 何をだ? 死体か?」
「ちちち違いますっ」
膝に置いた手をギュウッと握り俯く。今私の顔は、熟れたトマトの様に真っ赤になっている事だろう。
「――を流し忘れたんです」
私の告白に、場の空気が凍り付いた。事実、衛兵さん達と共にルレイルさんの動きも止まっていた。
「すまん。今、何を言っているのか理解出来なかった。もう一度頼む」
こんな恥ずかしい事を二度も言わせるのっ?!
「ですからっ! 三日前に出したのを流し忘れたんですってっ!」
半ばヤケになって大声で叫ぶ。そう、異臭の原因は、三日前に出したアレ。休日が終わっている事に気付いて慌てて出社した時に、流し忘れていたのを忘れていて今に至る。
「そ、そうか」
露出した部分が引き攣っているのが丸分かりだった。
「な、ならば、今スグに処理して貰えるかな……?」
「……分かりました。出て構いませんよね? マスター」
「え、ええ。しかし、
「はい……分かりました」
渡された
「アユザワさん。ソレを忘れては動物と変わりありませんよ?」
分かっとるわっ! 皆まで言うなっ!
地面を揺らす勢いでロッカーへと向かい着替えを済ます。そして、受付へのドアを開けたと同時に、先輩方のみならず並んでいる人達からも熱い視線を注がれた。
「え……? な、なに……?」
「アユザワさん……コッチまで聞こえて来てたわよ」
ローザ先輩の言葉に、顔が瞬く間に赤に染まる。そして、もうお嫁に行けないわっ。そう思いながら、その場から脱兎の如く逃げ出した――
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