第63話
「我々と同行願おうか」
顔だけを露出させた兜を被り、鎖を編んで作った鎧を着た衛兵さんの一人がそう言う。その厳しい視線の先には、間違いなく私が居た。
「へ……?」
唖然として自身を指差すと、衛兵さんは揃ってコクリ。と頷いた。その瞬間、私の背後に居る人物に向かって言ってる訳じゃない事が確定した。
「そうだ。お前に聞きたい事がある」
「おや、衛兵の方達がお揃いで当社にどの様なご用件でしょうか?」
ガシャリ。と身体ごと振り向く衛兵さん達。その隙間から、定番のアルカイックスマイルを引っさげて、通商ギルド『アルカイック』の
「騒がせた非礼は詫びよう。我々はここに居る者に話を聞きに来ただけだ」
「そうですか。ここでは人目に付き過ぎます、聴取をなさるのなら奥の部屋をお貸し致しますよ。勿論、私も同席させて頂きます」
衛兵さんの一人がガシャリ。と音を立て、指の腹を顎に当てて考え込んだ。
「場所の提供、誠に有難い。同席の件も認めよう」
「有難う御座います。それでは、奥の部屋にどうぞ」
ルレイルさんに誘われ、衛兵さん達はガシャリガシャリ。と奥へと進んで行く。訳の分からぬまま、その後に続こうとした私の袖を誰かが引っ張っているのを感じた。
「ねね。何かしたの……?」
目を輝かせるマリー先輩の好奇心旺盛なその瞳に、全力で首を横に振った――
「私、何もやってません!」
応接室のソファに座らされたのと同時に、刑事ドラマで警察に疑われた人張りのセリフを吐いた。
「まあまあ、アユザワさん。取り敢えずは落ち着いて話を伺いましょう」
ルレイルさんがどうぞ。と言うと、衛兵さんはガシャリ。と頷く。
「カナ=アユザワ。お前は今、『トレントハイツ』というアパートに住んでるな」
「え、ええ。とある人の紹介で借りています」
「
私の部屋から異臭が……? そんな物なんか置いた記憶は……
「あっ!」
口を『あ』の形に保ったまま、衛兵さんの後ろの壁をボンヤリと見つめる目に、あの日の事が映し出された。
「何か思い当たる所がある様だな」
ある。思い当たる事が……。
「正直に答えて貰おう。部屋の中に何を隠している……?」
衛兵さん達から鋭い眼光が私に向けて放たれる。隣にいたルレイルさんも、流石にアルカイックスマイルを維持できない様子だ。
「い……言わなきゃダメ……ですか」
「当たり前だ」
眼光の鋭さが更に増す中、私は内外共に大量の汗を掻いていた――
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