デート・ランナー

「行ってきまーす」

「はいっ! では行きましょう!」

「えぇ……」

「やだもう謙之介先輩ったら! そんなに嬉しそうな顔されたらドキドキしちゃいますよーむ!」

「玄関開けたら一秒で黒井さんだったから純粋に驚いてるんだけど……とりあえずおはよう……」

「おはようございますー!」

「声でか……」


 挨拶は大事ですから。インパクトも大事!


「いよいよセンター試験当日ですね! 謙之介先輩っ!」

「だね……」

「忘れ物とかありませんかー? スマホは? おさいふは!? 受験票とか筆記用具とか大丈夫ですか!?」

「散々確認したから大丈夫……」

「あれ、もしかして緊張してますか? でしたら、私の手を握ると緊張が解れますよー! 少なくともマイナスに作用する事はないのでぜひ! さあっ!」

「緊張とかじゃなくて、黒井さんが玄関前にいる事に驚いてるんだって」

「しれっと流された! 兎にも角にも、激励に参った次第です!」


 ぴしっと敬礼なんてしてみたり。ちょっと狙い過ぎてるかなあなんて思ったりもしたけど、あざとい系が効かないというか、こっちが可愛いアピールしてるって事にまるで気が付いていないのか、まるで刺さらないのよねー。びっくりするほどの天然さんである。そんな所も素敵っ。


「はあ」

「って事で行きましょう! 今朝はダイヤの乱れは無いみたいですが、速く行くに越した事はないですからねー!」

「……もしかして、駅まで一緒に」

「えっいいんですか!? やったあ!」

「確認のつもりだったんだけどなあ……」

「なんだか元気ないですねー! 今日は大切な日です! 元気出していきましょー!」

「それもそうだね……よっしゃ。行こう」

「はいー!」


 早朝の来訪に驚きはしても、決して嫌そうな顔を見せない謙之介先輩の左に立つと、チラッと視線を寄越してから歩き始めた。え、何今の流し目。効果音聞こえたよバキューン

! って。謙之介先輩、素敵だなあ。優しいなあ。好き。いっぱいちゅき。


 赤嶺邸から最寄り駅までおよそ五分。こよ数分間で好感度……違う。今はそういうのはいいんだ。私なりの激励をしなきゃでしょ。やるべき事をやれ、私っ!


「小春に合わなくていいの?」

「今夜バイトで顔合わせるんでその時で大丈夫です。小春には何か言われました?」

「頑張って、だってさ。超やる気出たよ」

「小春らしいなあ」


 小春ったら、お兄ちゃんのツボをわかってるねー。流石はツンデレ系ブラコンの王道みたいなロリ巨乳。強すぎる。お前を義妹にしてやろうかー!?


「私からの頑張ってもやる気出ます?」

「そりゃあ誰から言われたってやる気が」

「その誰かよりも出ませんか!? 小春と白藤先輩には届かなくても、その少し下くらいのポジションに私は来ませんか!?」

「や、そんな気になる事?」

「気になりますとも!」


 暫定でも適当でもなんでもかんでも、謙之介先輩内のランキングの何処に私が位置しているかって事が、気にならないわけがないじゃないですか!


「黒井さんの拘りポイントはよくわかんないなあ」

「それでどうです? 私、上の方にいますか!?」

「そうだなあ……小春がいて親父とお袋とココアがいて……し、白藤がいて……」


 白藤先輩の所だけ小声になっちゃう謙之介先輩可愛い。ずっとずっと好きな人だったんですから、ちょっとの事くらいで嫌いなったりなんて出来ませんよねー。わかりますわかります。時々ですけど私の脳内にも山吹先輩がチラつきますから。悔しいけど、やっぱカッコいいんですよねー山吹先輩。


「それで…………まあ……うん。かなり上の方に来てるよ」

「よっし……!」

「そんな喜ぶんだ……」

「もちろん! 謙之介先輩ガチ勢ですから!」

「反応が難しいなあ……」


 照れ臭いのか、ポリポリと頬をカキカキしちゃう謙之介先輩可愛い。こういう仕草を見ると、あの子のお兄ちゃんなんだなあって思う。小春も時々やるから。


「その話はまた今度で! 今日はとにかく集中ですよー!」

「うん……あ、付いてくるならそこの駅までにしてね。川崎であいつらと待ち合わせしてるから」

「了解しました!」


 あの団地の方々との待ち合わせとなると、みなさんの前で実はもう付き合ってるんですー発言でもして謙之介先輩の反応見たい気持ちはありますけど、流石に今日は我慢しましょう。


「どうですか、自信のほどは」

「まあそこそこ。結構やれそうな気がする」

「おお、上向きなお言葉」

「これでもしっかり受験対策したからね。模試もかなり良かったし、落ち着いてやればいけると思う」


 本当に自信がありそうです。この手の発言を聞いてやフラグだフラグだと言うのはオタクの悪い所だが、フラグだなんて私は思わないので。謙之介先輩がそう言うのならそれが絶対であり、そんな先輩を信じるだけだ。そもそも私、空気読める系オタクなので。多分。や、読めますよ? ほんとだよ?


「なら、センターはもちろん、二次試験まで突っ走っちゃってくださいね!」

「そのつもり」

「ちなみに私、志望大学は謙之介先輩と同じ大学なので、そこの所よろしくです」

「いやいや! それはダメ! 自分の将来の夢と照らし合わせてもっと現実的に」

「照らし合わせた結果が謙之介先輩と同じ大学なんです。おかしいですか?」

「いやおかしいでしょ……」

「でも私、他にやりたい事も夢もありませんよ? 私が持ってる夢は、今の所一つだけですので」


 謙之介先輩と付き合って、同じ大学に行く。もっと就職とかそっちの意味合いで将来の事を考えなければならないのだろうけれど、そんな事言われても困る。だって私、永久就職希望なので。何処に勤めるのかって? そんなの決まってるじゃないですかーっ! 野暮な事言わせようとするおバカさんは川崎駅の広場に全裸で磔の刑に処しちゃいますよっ! まったくもうっ!


「もっと他にも良い夢があるだろうに……」

「そうですか?」

「そうですかって…………なんか……黒井さんらしいなあとしか言えないや……」


 半ば呆れたように笑っていらっしゃる。私の性格をバッチリ掴んでくれているのは日々のゴリ押しの成果ですかねー。


「優ちゃんはもうちょい地に足付けた方がいい。押しが強過ぎるし躊躇がなさ過ぎるしで危うさを感じるのよね……そういう所も優ちゃんの可愛い所だと思うけど……不安にもなっちゃうの……」


 とは、私のソウルメイト、天下無敵のロリ巨乳、小春のご意見。私の身を案じてくれてありがとうだけど、小春の不安を拭い去って上げるのは、私にはできないかなあ。


 いやね、言ってる事はわかるの。わかるんだけど私はね、いける時にいくんです。ガンガンいこうぜがデフォなんです、黒井優は。いつでも前のめりなくらいで丁度いいんです。そういう私でありたいのですよ。


 そういう私だから、黒歴史みたいな日々を笑い話に出来る所まで来れたんだから。


「私、本気も本気ですからね!」

「俺が浪人したらどうするの?」

「浪人生を支える内助の功的なヤツになります! そして行く行くは同じ大学へ! 同期生になるのもいいですね! 夢があります! っていうか超萌えませんかそのシチュエーション!?」

「燃えないから! 俺的には悪夢だからねそれ!?」

「酷い! なんでですか!?」

「俺が今年受からない前提の話だからに決まってるでしょ!」

「あ、そうでした。うっかり。てへっ」

「怖い事言わないでよ……」

「ですよねですよね。謙之介先輩には笑顔で卒業してもらわないとですから。その後に、これからの話をしましょうね。話さなきゃいけない事がたくさんありますからねー」

「なんか……俺がオッケーする前提みたいな言い方するんだね」

「そんな風には思ってません。ただ、そういう未来が一番いいなって思うから、それを言い続ける。それだけです」

「……そっか」


 前を向いたまま謙之介先輩が小さく頷くと、少し赤くなった鼻先がマフラーに埋まるのが見えた。え、そのマフラーくん羨ましい……っていうか欲しい……幾らで売ってくれるかな……。


「そういえば明日でしたよね、一旦お疲れ様でした会」

「あーふじのやでやるとか言ってたなー」

「それぞれ二次試験とかあるけどセンター試験終わったんだからとりあえず打ち上げをしよう! 絶対やるべき! って言ってましたねー。東雲先輩が」

「なんで既に進路決まってるあいつが発起人なんだよ……」

「皆さんが受験関連で忙しない中で超暇してますからねー。少しでも皆さんと遊びたいんですよ、きっと」

「かまってちゃんだなあ……」


 実際ここ最近、一番私に連絡くれているのは東雲先輩なんじゃないかーくらいスマホを鳴らしてくれる。オタ話で延々と盛り上がれる小春に近い連絡頻度とか、どれだけ退屈持て余してるんですかねーあの可愛い人は。渡米の準備とかしなくていいんですかねー。


 けど、単に暇だから、かまって欲しいからって理由だけじゃない。あと二ヶ月もしたら東雲先輩は、海を渡るから。いい思い出、たくさん作っておきたいんですよね、きっと。絶対言わないんだろうけど。


「明日の一旦お疲れ様でした会には謙之介先輩も?」

「呼ばれてるし、行こっかな」

「なら明日は私が台所番長やります! 問答無用でやっちゃいます! 腕によりをかけまくります!」

「や、小春と白藤の手料理の方が」

「期待しててください。いいですね?」

「はひ。え、急に声低くなるのこわ……そんな怒らなくてもいいじゃん……こわ……」

「やだなぁ! 怒ってないですよぉ! そんな怯えた子犬みたいな顔しないでくださいよぉ! 興奮しちゃうじゃないですかー!」

「いやだってこわ……ん? こ、何?」

「なんでもないでーす!」

「なんか聞き逃しちゃいけないフレーズだったような……っと、着いた」


 え、もう着いたの!? あっという間過ぎない!? もっと早朝デート擬きを堪能したかったのにーっ!


「じゃあここまでですねー」

「うん」

「明日は覚悟していてくださいね。私手製の品々で、謙之介先輩を骨抜きにしてみせますから!」

「骨太で頑丈なのが取り柄の一つなので骨は抜かれたくないなあ……」

「ほらほら、妙ちきりんな顔してないで行ってください! 余裕を持って会場入りした方がいいですよー!」

「妙ちきりんって。じゃあここで。なんだかいい感じに緊張が解れたよ。来てくれてありがとう。また明日」


 控えめに手を挙げてのバイバイを、いつもと変わらない笑顔で、私に届けてくれた。


 こんな朝早くから押し掛けられるだけで充分迷惑だし、その上更に私の将来がどうとかこうとか、今は邪魔にしかならない話をされたって言うのに、社交辞令でもなんでもなしにありがとうって言ってくれる。


 本当、優しい人です。ちょっと心配になっちゃうくらいに。


「あの!」

「うん?」

「えと……この前渡したおまもりって……」

「あるよ。ここ」


 ポンポンとスクールバックを叩いて謙之介先輩は、歯を見せて笑った。


「いつもお世話になってるよ。ありがとね」

「そ、そのおまもり! 絶対力になるので! なんなら私だと思って肌身離さず持っていてくださると嬉しいです! なんなら寝食までも!」

「学業成就のおまもりの範疇越えた活動になってるよねそれ……」


 まだだ。もう一押し。頑張れるよね? いや、やれ。やるんだよ、私っ。やれない私なんて、私じゃない。


「そ、それと!」

「ほわっ!?」


 ぐんっと反動を付け、謙之介先輩目掛けてプチダッシュ。一気に距離を詰めて、先輩の右手を両手で包んだ。


「頑張ってください! 謙之介先輩ならバッチリキメてくれるって信じてます! えと……そ、それだけですっ!」


 うーわぁ……めちゃ大胆な事しちゃってるじゃん私ーっ! うわわわわ恥ずかしい恥ずか死ぬ嬉死ぬヤバイっていうか謙之介先輩の手ゴツゴツしてて男らしくて素敵でわわわうわわわ。


「……なら俺は俺と、黒井さんが信じてくれた俺と、黒井さんがくれたおまもりと、黒井さんを信じる。それに……」


 私の両手の中からすり抜けた謙之介先輩の右手が、今度は私の右手を握った。


「うん……確かに、緊張が解れたような気がする」

「へ?」

「さっき自分で言ってたじゃん。私の手を握ると緊張が解れるーって」

「や、え? あ、はひ……」

「自信はそれなりにあったけど、緊張もしてたから……でも……うん、いい感じだ。繰り返しになるけど、来てくれてありがと。今度お礼するよ」


 そう言いながら私の手を優しく振り解いて、謙之介先輩は駅構内へと歩みを進めた。


「……じゃ、じゃあ!」

「うん?」

「その…………わ! 私と! デートしてくださいっ!」


 い、言えたぁ……っていうか、言っちゃったぁ……! 絶対今するべき話じゃねーじゃん私のバカーっ!


「……や! その、今のは一旦ほ」

「わかった」

「りゅふぅ?」

「何感情のリアクションなのそれ……じゃあ、春が来る前に行こう。約束ね」

「……は、はひ……」

「じゃ、いってきます」

「い……いっへらっひゃい……」


 間抜けヅラを晒す私に小さく手を振って、謙之介の先輩の背中はエスカレーターに運ばれ消えて行った。


「……し…………しぬ……」


 無理。ヤバイ。好き。悪いニュースばかりが飛び交う息苦しいこの世の中であんなにも純粋な優しさを持っていられる謙之介先輩、好き過ぎる。


「……え? っていうかしれっと、デートオッケーしてもらえたな……えっマジ!? オッケーしてくれてたんだよね本気で! いやいやマジかーっ! え!? もしかしてもしかして謙之介先輩って私の事好きなんじゃねそうなんじゃねー春来てるんじゃねー!?」


 やべ、急に興奮してきた。ムラムラきてるまである。顔あっつ。やばやばのやば!


「ママーあのお姉ちゃん一人で喋ってるー」

「しっ、見ちゃダメよ……」


 うるせー! しらねー! 少しくらいここで発散させろよー! それくらい許せよバカチン親子がーっ! 


「はぁ……はぁ……」


 お、落ち着け……とりあえずこの昂りを永久保存……いや出来るか。データちゃうわ。しばらく忘れられそうにないけど、冷めちゃう前に一旦家に持ち帰ろう。悶々するのは自分の部屋の方がいいから。


 それに、あんまりふにゃふにゃしてもいられない。この後一つ、約束があるんだ。無理を言って頼み込んで取り付けた約束が。シャキッとせねば、シャキッと。けど、最後にもう一押しだけさせてください。


「……頑張れ……謙之介先輩……」


 もう見えなくなった大きな背中にこの言葉が届きますように。


「うーっ……くぅ……!」


 祈るように両手を組んだら、特に右手がやたらと暖かくて、また一つ悶々ポイントを増やしてしまう私なのだった。


* * *


「ほわぁ……」


 ここは何処にでもある喫茶店。そのはずなのに、私の眼前にいらっしゃるお姉さまお一人が店内にいるというだけで、ここは異世界か何かなんじゃないかーと思ってしまうくらい、場が華やいでいる。というか、浮世離れしている。当然、お客さんたちの視線はこの方に釘付けである。


「どうかしたか?」

「えと……改めて、とんでもなくお綺麗だなあと……」

「私か?」

「はい……本当……素敵だなあ……」

「身に余る賛辞だ。ありがとう、優」

「ひ、ひえぇ……」


 感謝の文句も所作の一つ一つがいちいちイケメンでイケウーメンで最強無敵過ぎる。やべぇ、惚れそう。いやいやちゃうちゃうそれはちゃうんや。私には謙之介先輩がおるんや。


 それにしても、ホットコーヒーの注がれたカップに口を付けているだけでどうしてこんなにも画力がつよつよなんでしょう。実はこの人、破天荒路線じゃなくリアル路線の絵画から飛び出して来たんですーとか言われても信じちゃうレベル。存在そのものが芸術まである。憧れちゃうなあ……私もこれくらい恵まれた容姿で生まれていたら、人生スロースタート勢になる事もなかったのかなあ。あ、今のは両親への当て付けとかじゃないよ? ほんとだよ? 可愛く産んでくれてありがと、ママ。パパは知らん。というかウザい。人様の恋愛事情を深掘りしようとするのマジで勘弁。私が謙之介先輩を連れて行くまで大人しく待ってて。


「それにしても驚いたな。次に日本に来る機会があったら二人で会えないかなんて連絡を優から貰うだなんて。まるでデートの誘い文句じゃないか。なあ?」

「デート…………ふへへ……」

「優?」

「い、いえいえなんでも! ちょっと思い出しトリップしていただけなので!」

「思い出しトリップとは……」


 意味不明なワードに首を傾げるケイトさんと、まさかまさかのサシでのエンカウントである。いやめっちゃ緊張したからね! ケイトさんに連絡するの! 夏菜先輩ママにお願いして連絡先を教えてもらったはいいけど、流石に躊躇しましたよ、電話鳴らすの! 初対面の日以降、一度も言葉交わしてなかったんですから! 電話口で大層驚かれたいらっしゃいましたよケイトさんも! っていうか国際電話とか初めてしましたわ! めっちゃドキドキした!


 ドが付くほどの緊張感に苛まれてまでも、ケイトさんと連絡が取りたかった。どうしてもお願いしたい事があったんです。


「本当にすいませんケイトさん……お忙しい中足を運んでもらってしまって……」

「そんなに畏まらないでくれ。いい機会をもらえて感謝しているくらいなんだから。優とはもっと話してみたかったからな。しかし、生憎と今日はあまり時間がない。昼過ぎに顔を出さない所があってな」

「わお、ハードスケジュール……」

「半分仕事で半分プライベート、って所か。そうだ。折角だしこの後、優も来るか?」

「は、はいぃ?」


 半分プライベートって言っても、もう半分はお仕事でしょう? そこに私が同行させてもらえるとか、何が何やらです。ケイトさんのお仕事に付いては知っているもので、正直興味はありますけど。有名人に会えるんじゃないかなー的な。


「何、ガチガチな大人の世界などではない。今日は特別ラフな場に行くので心配は無用だ。こういう世界、こういう人たちがいるんだという社会勉強にもなろう。それに、君がよく知る顔も来る」

「私の知ってる人?」

「お楽しみって事で詳細は伏せさせてもらおう。どうする?」

「めーっちゃ興味あります! お邪魔にならないのでしたら私も同行させてください!」

「決まりだ。ここで早めの昼食を済ませ、その足で向かおう。構わないか?」

「大丈夫です!」

「いい返事だ。溌剌としていていいな、優は」

「アグレッシブなのが私の取り柄なので!」

「大切にして欲しいな、その個性。さて、早速本題に入ろうか。先の様子だと、何やら相談などがあるようだったが」

「はい……私より遥かに人生経験豊富な歳上のお姉さんであるケイトさんに、聞いて欲しいお話がありまして……」

「聞こう」


 真剣な私の様子を見てか、ケイトさんの表情がきりりと引き締まる。やっぱりだ。このカッコいいお姉さんならばちゃんと聞いてくれる。親身になってくれる。迷う私が行くべき道を示してくれる。そう感じた私の感覚は間違っていなかった。この人ならば、自身の経験や人生観に基づいた、説得力のある、筋の通ったお話を聞かせてくれると。


「あのですね……」


 時間がもったいない。臆するな、聞くぞ、私っ。


「つ、付き合い始めて初のデートで初体験って、おかしいですか!?」

「…………うん?」


 切れ長なケイトさんの目が、何か妙ちきりんな物でも見たかのよう、丸くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る