M.8「間違い探し」
この団地が沈んじゃうんじゃないかってくらい何日も降り続いた雨がようやく上がり、久し振りに晴れ間が見えた日。
「やだ」
あたしは首を振っていた。
「どうしても?」
「やだ」
何度も何度も、横に振っていた。
困ったなあと苦笑する奏太パパは、頭を掻いていた。常日頃から若々しくてカッコいい奏太パパにしては、すごくおじさんくさい仕草だった。
「だって奏太パパが言ってるのおかしいもん。だからやだ」
「何がおかしいの?」
どうして奏太パパは何がおかしいのかわからないんだろう。あたしはそう思った。だって、奏太パパが言った事だったもん。
「ママ、神様の所に遊びに行っただけだもん。だからおうちでお留守番してなきゃいけないもん」
「千華……」
あたしと目線の高さを合わせた奏太パパの顔が悪い方向にくしゃってなった事、よく覚えてる。お洒落な腕時計が光る左手を握り込んで、あたしたちを育ててくれた団地の地面を小突いていた事も。
今更遅いけど、ごめんなさい、お父さん。どうにかこうにかあたしを悲しませないようにと言ってくれた事だったのに、空気読めなくて。ずっとずっとママと仲良しだったお父さんを余計に苦しめるような事を言わせてしまって、本当にごめんなさい。
「だからここにいるの。ここでママが帰ってくるの待つから、奏太のおうちで暮らすのはダメなの」
千華。俺たちの家で、一緒に暮らそう。
奏太パパに奏太ママ。みんなのパパママ。奏太。元気。修。夏菜。美優。みんなが見てる前で、奏太パパがあたしに言ったの。だからあたしは首を横に振ってたの。いっぱい横に振ったんだよ。
「千華……」
奏太パパだけじゃない。パパママたちはみんな困った顔をしていた。手の掛かる娘でごめんなさい。
今にして思う。奏太パパの提案は、咄嗟の思い付きとかじゃなかった。初めからこうするつもりみたいだった。それは奏太パパママの意向なのか。パパママーズの総意なのか。ケイトとおじいちゃんおばあちゃんも認めているのか。ママが望んだ事なのか。さて正解はどれでしょう?
答え。全部。
誰か一人でもそれを望まなければ、奏太パパの口から聞く事なんてなかった話だって、あたしは思うの。だから、全部正解だ。
そういう大人たちだからずっと一緒に生きて来られたんだって、今のあたしは知ってるから。
「あのね、ママだけじゃないの」
「どういう事?」
あたし、覚えてた。当たり前だ。あたしが忘れるわけなんてないんだから。記憶力がヤバイとか関係ない。
「ママがね、あたしのパパもいつか帰って来るって言ってたの。だからここにいなきゃなの。だってママとパパが帰って来た時に誰もいなかったらびっくりしちゃうもん」
ママからのお願いを、あたしが忘れたりするもんか。
「でね、いつかパパが会いに来てくれるから、その時に仲良しになるの。あたしとパパが仲良しになるとママは嬉しいんだって。だからここでパパを待って、仲良しになって、ママに喜んでもらうの」
ママが喜んでくれる事を形にしたかった。あたしなりに頑張ってみたけど、十年以上経った今でも叶えられていない……かな。ごめんね、ママ。
「千華のパパは……」
「うん」
「まだ帰って来れないんだ」
「そうなの?」
「そう。アメリカでお仕事をしてるんだって聞いてるだろ?」
「うん」
「とっても忙しい人だから、急に帰って来たりは難しいんだ。わかるか?」
「わかんない。わかんないのは、おかしいからわかんないの」
「おかしい?」
「あたしね、奏太ママがお熱出した時、奏太パパがお仕事から走って帰って来てたの覚えてるの。夏菜が転んで怪我をした時、夏菜のママが急いで帰って来て夏菜を抱っこしてあげたのも覚えてるの。じゃあなんであたしのパパは帰って来てくれないの? ママがお熱あったのに帰って来ないの、おかしいと思うの」
「千華……」
詰問しているみたいだったなあ。嫌な攻め方するね、このチビは。昔からずっと、困らせてばかりだ。なんと謝ってよいのやら。
でもね、あの日のあたしはそう思っちゃったの。おかしいなーって。変だなーって。どうしてかなーって思っちゃったんだもん。だから聞きたかったの。
家族が病気になったり、良くない事になっちゃったら、家族の誰かが助けに来てくれる。そういう姿をこの団地で見続けて来たから、おかしいなって思っちゃったんだよ。
そしてこれは……大きな声では言えないんだけども。
ママがいなきゃあたしは一人になっちゃうのに、どうしてパパは来てくれないのって、そう思ったの。
「あとね」
「千華……!」
「わっ」
そうだ。奏太ママにハグされたんだ。ぎゅって抱き締められたんだ。
もうやめて。そう言う代わりの行動だったのかなって、今では思ってる。
だって奏太ママ、泣いてたもん。
あたしたちに一番優しくて、一番怒るのも奏太ママ。やっていい事いけない事。言っていい事いけない事。そういう大切な事をいっぱいいっぱいあたしたちに教えてくれたのが、奏太ママ。正にみんなのママって感じの、強くて優しい人なの。
あたしは、そんな人を泣かせちゃったんだね。
ごめんね、お母さん。
「わかんない事、不思議な事、どうしてって思う事、たくさんあるよね。奏太ママもね、千華とおんなじなの」
「おんなじ?」
「うん。千華のわからない事、奏太ママにもわからないの。奏太ママだけじゃなくて、みんなのママとパパにもわからないの」
「わかんないの?」
「そうなの。だって……いつか……こんな日が来るってわかってたけど……どうしてこんな事になっちゃったのかなって思っちゃうもん。こんな日が来なければ良かったのにって。だからわからないの。ごめん……難しい事言ってるよね」
「う、うう……わかんない……」
「だよね……でもね? 大人だって、子供がわからない事の全部をわかってるわけじゃないの。大人はね、そんなに凄くないの」
「そうなの?」
「うん……カッコ悪い話だけど、私たちはなんにもわからないの。だから……だからね? 一緒に待ってよう? 千華と奏太ママたちみんなで、わかんない事をわかれるように頑張りながら、一緒にいよう?」
「でも」
「でもはわかるけど! わかるんだけど! それでも……そうしなきゃダメなの……お願いだから……!」
「うーん……」
ぎゅっから、ぎゅーっに変わった。ちょっと痛いくらいに抱き締められたあたしは、冷静に物を考えていた。
ママはあたしを放ったらかして、神様って人と遊んでいるらしい。でも、本当だって思えなかった。だってママはいつも言ってたもん。お外で遊ぶのは五時まで。カラスが鳴くから帰りましょのお歌の時間までなんだって。ママもその時間までにおうちに帰るようにするからって。
小さな子供でもわかるような見え見えな嘘を言ったり、小さな見栄を張ったり意地を張ったり意地悪したりするママだけど、本気の嘘をあたしたちに言った事はなかった。
だからママは帰ってくる。今日は無理なのかもしれないけど、きっと直ぐ、カラスが鳴く頃に帰ってくる。
なんて、これっぽっちも思ってなかった。
あたしにはわかってた。だってママは、毎日病院にいたんだもん。全然風邪には見えなくて、もっと酷い何かにしか見えなかったんだもん。
ママを診てくれていた病院の先生たちはあたしたちの前ではニコニコしながら手を振ってくれたけど、あたしたちが見えなくなると直ぐに暗い顔になっちゃうの。なんでかなあと思ったけど、先生たちに聞くのはいけない事なのかなって思ったから聞けなかった。
なんとなくわかってた。駄々を捏ねながら理解していたよ。あたし、ママの子供で、天才だから、わかってた。ママが全然元気じゃなかったこと。何も知らないあたしたちの前で一生懸命頑張って、笑ってた事。そしてママは、神様の所に遊びに行ってなんかいないって事も。もっと他の遠い場所に行っちゃった事も。あの部屋にいても、ママは帰ってきてくれない事も。
だからこそ余計に、奏太の家で暮らすのは違うって思ったの。
ママ、ちょっと知らない所に行くと直ぐに迷子になっちゃうポンコツちゃんだから、帰り道を教えてあげなきゃなの。こっちから迎えに行かなきゃなの。
あとねあとね、それだけじゃないの。
ママが神様の所に遊びに行ったんじゃなくて、何か他の理由であたしに会いに来れないのなら、その理由を教えて欲しいの。
大きくなったらママよりも可愛くなるんだって。大好きだって。あたしにそう言ってくれるママが、どうしてあたしを置いてけぼりにしたのって。
けどそれは、ここにいたんじゃ難しいかなってそう思った。なんてったって、はちゃめちゃに自由奔放なママだからさ。
奏太の家で暮らすのはダメ。多分、あたしとママの家で待っていてもダメ。ママはきっと、スケールの大きい迷子なんだ。だから迎えに行かなきゃ。ママが行きそうな所をケイトに教えてもらおうかな。お願いしたらママを探すの一緒にしてくれそうだし。おじいちゃんおばあちゃんもお願いしたら一緒に来てくれそうだ。
よし行こう。ここにいても、何の意味もないんだから。生まれてからずっと過ごしてきた団地を。生まれてからずっとほんとのお母さんお父さんみたいに優しかった大人たちの元を。生まれてからずっと一緒に生きてきた同い年の仲間たちの元を。あたし一人で、離れちゃおう。
それが、ガキのくせにそれなりに血の巡りのいい頭を持ってるあたしが出した結論。
「あのね奏太ママ。あたしね」
「なあなあ千華ー!」
それを奏太ママに伝えようと口を開いたあたしを遮ったのは、耳に馴染んだ溌剌とした声だった。
「なんかよくわかんないけどさ、俺んちでいいじゃん! 俺んちでえっちゃん待ってればいいじゃん!」
奏太だった。あたしと大人たちが大切な話をしているって意識はあったのか、声こそ明るかったけど表情の明るくない奏太が、あたしと奏太ママの前に飛び出して来たんだ。よく覚えてるよ。
「えっちゃんが帰って来た時でも千華のパパが帰って来た時でも大丈夫! 俺んち千華んちの隣なんだし! えっちゃんが帰ってきたら直ぐ気付いてくれるよ!」
ううん。そんな事ないよ奏太。だってママ、帰ってこないもん。あたしわかるもん。
きっと、パパママたちには残酷な会話だったよね。
「それにさ俺さ、もしもえっちゃんが帰って来た時に千華が一人ぼっちでいたら、えっちゃん怒ると思うんだ」
「なんで怒るの?」
「なんでみんなと一緒にいないんだー! って言いそうじゃん、えっちゃんなら」
うん……そうだね。その通りだ。
なんでみんなと一緒にいないの! こわーい人が千華が一人ぼっちの時に近付いてきたらどうするの! 千華はママに似てちょー可愛いんだから直ぐにお持ち帰りされちゃうんだぞー! とか、あたしに怒りそう。
なんで千華を一人にするの! みんな優しくないなー優しくない! みんなだって千華と一緒にいた方が楽しいでしょ!? そうだよね!? なら恥ずかしがらないで一緒にいるの! みんな一緒の方がいいのっ! とか、みんなに怒りそう。
自分があたしを一人にした事を棚上げして、あたしたちに怒るんだ。ママはそういう人だから。
「それにさ、千華がうちに来たら……楽しいと思うんだ! そう! 楽しい! 楽しくなるよ! 絶対! それなら寂しいとかそんな風に思う暇もなくなるよ!」
ちょっと悩む素振りを見せてた辺り、言葉を選んでいたんだと思う。本能の赴くまま楽しい事だけやってますー的な子供だった奏太だけど、気配りとかは出来たから。
「だからうち来い! 俺たちもえっちゃんを待ってるから、一緒に待とう! な!?」
あたしに向けて右手を差し出して、奏太はニコッて笑ってた。
そんな風に笑ってもダメ。そんな風にそれっぽい事言ってもダメ。何もかもダメ。奏太の家で暮らすのは、全部がダメなの。
「うん……」
でも、あたしはもっとダメだった。
あたしに伸ばしてくれた奏太の手を掴んでしまっていた。自分でも理由がわからなかった。よくない事だってわかってたのに。ママに会いたいなら、たとえもう二度と会えなかったとしたって、これじゃダメだってわかってたのに。
「よし! そうこなくちゃ! そうと決まったらお引越しだ! やるぞやるぞー!」
あたしと繋いだ手をブンブン振り回して笑う奏太は、あたしが頷いた事が嬉しいみたいだった。
「うん……」
わかんない事だらけで、ダメな事だらけだったけど、あたしが奏太を笑わせてあげられたって思った。それが嬉しかった。これだけは間違いがなかった。
「千華のお部屋用意しなきゃ」
「ああ。すぐやっちゃうからなー」
奏太ママと奏太パパも笑ってた。ママともパパとも違う、お母さんとお父さんがあたしに出来た瞬間だった。
それは、十年以上前の事。
今ならはっきり言える。
みんなと出会えた事は間違いじゃない。それでもあたしは、違う道を選ばなきゃいけなかった。間違えたんだ。間違ったまま、一人を知らずに大きくなってしまった。
あの晴れた日。奏太と手を繋いだ日。
あたしは、全てを間違えてしまったんだ。
* * *
この団地が流されちゃうんじゃないかってくらい何日も荒れ狂った台風が何処かへ消え去り、久し振りに晴れ間が見えた日。
「奏太? どうしたの?」
あたしは奏太に尋ねた。
「ねえどうしたの? 学校で何かあったの? ねえ。ねえ奏太ってば」
何度も何度も、奏太に尋ねていた。
けど奏太は何も言わない。机に突っ伏して動かないまま、あたしの事を見ようともしていなかった。何度も問い掛けても奏太が答えてくれるとは思えなかったから、待つ事にした。奏太が何かを言ってくれるまで。
そうして三十分くらいかな。何もせず、何も言わずに座っていたら、奏太の声が聞こえてきたんだ。
「……さっき……」
今まで聞いた事がないくらい奏太の声は小さくて、あんまり聞こえてこなかった。それでも言葉にしてくれたのは、あたしに聞かせたいとか聞いて欲しいとか、そういう気持ちがあったんだと思う。
「うん?」
「下で……団地のおばちゃんたちが話してた……えっちゃんの事……」
瞬間、気分が暗くなった。
えっちゃんがあたしたちの前からいなくなってから三ヶ月くらい経って、夏になった。えっちゃんはまだ、帰ってきてない。いつになったら帰って来てくれるのかな。
いいや違う。パパママたちは言わないけど、あたしはわかってた。えっちゃんはもう、帰って来ない事を。
だって、千華の事もあたしたちのこともあたしたちのパパママの事も大好きなえっちゃんが、いたずらにあたしたち。寂しがらせるような事するはずないもん。
「なんて言ってたの?」
「…………死んじゃったんだって……えっちゃん……」
奏太の声は震えてた。あたしの手も震えてた。そういう事なんだろうなって思ってたけど、いざ言われてみたら、怖くて怖くて仕方がなかった。
死。そんな言葉、あたしたちには遠い言葉だと思ってた。だってまだ子供だから。毎日楽しいから。そんな怖い言葉、あたしたちには必要なかったから。
「……そうなんだ……」
「うん……」
奏太だって気が付いていたんだと思う。でもやっぱ、言葉にして突き付けられるのは痛いよ。すっごく痛いんだよ。
「…………っく……」
「奏太……」
「ぅ……な、泣かない……俺は泣かないぞ……絶対泣かないんだ……」
あたしに悟られたと思ったのか、自分に言い聞かせるように何度も泣かない泣かないと言いながら、奏太が背中を起こした。
「千華が頑張って我慢してるのに……俺が泣いたらいけないから……だから絶対に……泣いちゃいけないんだ……」
どうしてと聞くに聞けずに震えるあたしの前で、ここじゃない何処かを睨み付ける奏太の頬が、ふるふると震えていた。
奏太は我慢していた。寂しいのも悲しいのも泣きたいのも、全部全部を飲み込もうと頑張っていた。なら、あたしだって泣くわけにはいかなかった。
「えっちゃんに頼まれたんだ……千華の事をよろしくねって……だから……」
「うん……」
「千華が泣かなくていいように……千華の事……俺が守ってやるんだ……」
奏太の横顔はもう、震えていなかった。
楽しい事が大好きで最優先だけど根っこはすっごく真面目で、自分の楽しいよりも誰かの苦しいや悲しいに過剰反応して、ネガティブで満たされた沼から無理矢理に引き摺り出そうとする。困ってる人を放っておけない、優しくて頼もしい、あたしたちのリーダー。やっぱりカッコいい男の子だ。山吹奏太は。そう思った。
そんな奏太だって知ってるから、思う事が他にもあった。
奏太がえっちゃんとしたっていう約束。奏太には大変なんじゃないかなって思った。だって奏太は、頑張っちゃうもん。明確なゴールのない目標だからって関係ない。頑張って頑張って頑張って、必ず果たそうとしちゃうもん。そこだけを見て、それだけを目指して。
だからきっと奏太は、他の子を見れなくなるんじゃないかって。
まだ幼かった日のあたしの頭の中にあった物を言語化するとそんな感じ。
心配だった。あの日のあたしには上手く言えるわけもなかったけど、どうしてかものすごく不安な感じがした事はよく覚えている。奏太の決意に水を刺すような真似をしたくはなかったけど、どんな形でもいいから奏太に伝えたかった。頑張り過ぎちゃダメなんだよって。
「えっちゃんと約束したから……絶対やるんだ……」
でも言えなかった。あたしじゃない何処かを見ている奏太の横顔を今以上に曇らせるような事、言えるわけなかった。
代わりに、こんな言葉が出て来てしまった。
「あたしも手伝う」
「え?」
それを聞いて初めて奏太は、あたしの事を見てくれた。
「千華が寂しくないように、いつでも笑っていられるように、千華を元気にしてあげるの。あたしも頑張るの。奏太と一緒に」
「美優…………おお! 頑張ろうな!」
笑ってくれた。今にも泣き出しそうだった奏太を、笑わせてあげられた。
「うん……頑張る……」
それが嬉しかった。元気のない奏太を笑わせてあげられたのが、ほんとに嬉しかった。喜んでる場合じゃないのに。
その日から、あたしと奏太とは頻繁に目が合うようになった。アイコンタクトを交わして、千華を弄りに行ったり。千華に変な事言いそうなクラスメイトたちの邪魔を二人でしに行ったり。
千華の為に結託して、千華を中心に、あたしと奏太は近くなっていった。
楽しかった。奏太と仲良くなれて、凄く嬉しかった。
実を言うと昔のあたしは、奏太の事があまり得意じゃなかった。嫌いだったとかじゃないよ? ただ、あたしが欲しいなって思ってる物を奏太は全部持ってるような気がしてたから。憧れ半分嫉妬半分、ってところだったのかなーと思う。
奏太を嫌いになるなんてあり得なかったけど、今よりもっと仲良くなりたいとか、奏太の持ってる物を分けて欲しいとか、そういう気持ちがあった。それ以外にも……なんていうか……いろんな気持ちがあったのは……本当なんだけど……まあそれはそれとして。
あの日のあたしは気が付いていなかった。奏太と仲良くなるって意味を。千華が中心にいるという事の意味を。そうしてみんなと一緒に大きくなる過程で、あたしは理解した。
あたしは、奏太みたいにはなれない事。
あたしは、奏太が好きだって事。
あたしは、奏太と仲良くなる方法を間違えてしまった事。
あたしは、自分でも思う以上にずっとずっと千華が大切で、大好きになってしまったんだって事。
後悔なんてしていない。もう一度やり直したいだなんて思う事もない。それでも、こう言うしかない。
あの晴れた日。奏太を笑顔にさせられた日。
あたしは、全てを間違えてしまったんだ。
そんな風に思ってしまう事が一番の間違いなんだって、わかってはいるけれど。
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