わがまま

 睨み合いって言うには迫力がなくて、睨めっこって言うには可愛げがなくて。あたしたちはただ、互いを見ていた。顔色を窺っているとかじゃない。多分、後戻り出来なくなる前にブレーキを踏む判断が出来るように、とかそんな理由で。


 ここまでで充分過ぎるくらい危険なドライブしちゃってるけど、この先は更にヤバいもん。もしかしたらもしかして、あたしと美優の間に大きな溝が生じかねない、とかさ。


「昔からずっとだよね。あんたも」


 あんたも。その言葉が刺す所がわからないほどアホじゃない。


 そっか。本当で、本気なんだ。


「昔からとか、全然そんなのじゃないし」

「また嘘」

「嘘じゃないってば」

「奏太の事が好きなんでしょ」

「だから」

「あんた、今まで誰にも言えずにいたんでしょ。言ってたとしてもえっちゃんだけかな。そりゃ言えないよね。一つ屋根の下で奏太と暮らしてるんだもん」

「……勝手にわかったつもりにならないでよ……」


 弱々しい物言いになってしまった。これじゃあまるで美優の言葉に白旗を上げてしまってるみたいじゃん。そんなのじゃないのに。


「そか。あんたはわかって欲しいんだね。それなら、本当の事を言いなよ」


 会話というかあたしへの追求めいてきた。自分の部屋だってのに息苦しい。部屋から出ようってのも考えたけど、この部屋の扉は美優に塞がれてる。窓から外に飛び出すわけにもいかないし、さてどうしよう。


「そんな事言ってないじゃん」

「じゃあどうして欲しいの?」

「……なんで怒ってんの?」

「怒ってない。知りたいの」

「知りたい?」

「あんたの本心」

「いつも本心で本音で生きてるけど」

「あんたの本心を知ったからって何をどうしようとも思わない」

「聞いてないし……」

「ただ、知っておきたいだけ」

「知っておきたいだけって……」

「ウザいとかいらないから。わかってるし」

「じゃあ」

「今日しかないよ」

「は?」


 遮られた言葉の代わりに強めの疑問符が出ちゃった。


「ここを逃したらあんたに次はないよ。断言出来る」


 一切臆する様子のない美優。当たり前か。あたしが美優をビビらせてやれた事なんて、一度もないんだから。


「それでもいいの?」

「いいも何も……」


 急にそんな話されても、ってのが正直なところ。だからもうやめよう? も正直なところだ。言っても聞いてくれそうにないけど。


 というか。美優があたしに言った事全てが大当たりだと仮定したら、あたしこそ美優に言わなきゃいけなくなるんじゃないかな。


 美優の言う通りだよ。でも、だったらどうだって言うの? あたしは、それでもいいの? 美優は、それでもいいの? って。


 そういう仮定が頭にあるからなのか、余計にわかんないよ。美優の目的が。人を揶揄うのは好きだけど行き過ぎた事はしないし、ちゃんと引き時を見極められる美優がこんな真似をしている理由が、これっぽっちもわかんない。


「近い将来、あんたがただのビックマウスじゃなかったって証明される日がくると思う。あんたはタフだからね。けど、そんな重たい物抱えたままじゃ上手に生きられなくなる日が来る。絶対来る」


 そういう未来が決まりきっているみたいな言い方だ。過去を余さず記憶出来るあたしの対極。未来を見る力でも得たのかな。


「自分自身に押し潰されちゃうあんたなんか見たくないよ、あたしは。だから……」

「だから?」

「教えてよ。本当の事」

「……なんか押し付けがましくない?」

「そうだね……実際、あたしの為みたいなもんだから……」


 美優の圧が弱まった。常日頃からふにゃーっていうかだらーっとしてる美優だけど、根っこはめちゃくちゃ真面目ちゃんだから、正論とかには結構弱かったりする。


「美優の為になるの?」

「なるよ」

「どうして?」

「ここが……分かれ道だから」

「分かれ道?」

「うん。ここがそう。あたしの分かれ道。あんたにとっても、きっと。っていうか絶対」


 今日まであたしたち、ずっと同じ道を歩いて来たんだから。


 そう言いたいのかな。そうなのかな。あたしはそんな事ないと思うよ?


 でも、それを言えなかった。言えない理由は……なんだろうね。誰か教えてよ。


「だから答えて。あたしたちはもう、ここを通らないと何処かに行けない所まで来ちゃったんだから」


 先に進めない所、とかじゃないんだ。何処かに行けない所、なんだね。


 分かれ道ってヤツを選んで、そこに足を踏み入れても、先に進めるかわからない。


 そういう裏が見えたような、そんな気がした。


「そっか……そうなんだね…………」

「……千華?」

「…………わかんない……」

「わかんない?」

「わかんないの…………なんか……全然わかんないの……」


 いろんなものが見えたけど。大切な事なんだってわかったけど。この言葉以外、今のあたしには選べなかった。


「なんか……そういうのなのかなって思った事はあるの……小さい頃に……でもやっぱ違うのかなって思って……それで……奏太のとこで暮らしてても……なんかやっぱり違くて……でも…………やっぱわかんなくて……だから昔の思い出とか、頭の中にあるの全部引っ張り出して……脳みそ回転させていろんな事考えてみたりして……」

「それでもわからなかった?」

「うん……え? あ……」


 もう十年以上を過ごしている自室の中にいるもう一人の声を聞いて初めて、弱々しくてか細い声で抽象的な事ばかりを並べていたのがあたし自身だったんだと気が付いた。


「あんたは一生懸命だね、本当に……」

「な、何? 何が言いたいの?」

「一生懸命に自分と向き合い続けて、奏太を見続けて、悩み続けてきたんだね」

「別に悩んでなんか」

「わかりたいから悩んでるんだよ。じゃなきゃ記憶も手繰らない。気持ちも探さない。そんな風に悩んだりしない。だから、もう答えは出てるんだよ」

「答えって……」

「わからないなんて誤魔化さなくていいの。繕わなくていいの。千華?」

「何……」

「あんたはもう、わかってる」


 美優は、笑ってた。


「奏太が好きなんだよ。千華は」


 美優の綺麗な顔に付いているパーツ全てを駆使して作れる最強の笑顔で、そう言った。


「…………違うよ……それ……」

「なんで認めようとしないの?」

「ち、違うから違うの! 認めないとかそういう事じゃないの!」

「意地張ったってしょうがないじゃん」

「意地とかじゃないから!」

「はいはい」


 全てを見透かしてますとでも言わんばかりの美優の素振りを見ていたら、モヤッとした何かが体内に発生したのがわかった。普段から美優の振る舞いにイラッとさせられる事が多いんだけど、あの感じとはまるで違った。


「あんたが奏太を好きなのなんて昔っから知ってたんだけどなー」

「……そんなんじゃないって……」

「大体、あんたが奏太の所で暮らすのを選んだのだって無関係じゃないんでしょ?」

「……っ!」


 カチン。いや。プツン。かも。


 今のはなんか、ブワッてきた。


「人の気も知らないで……!」

「千華?」

「……な、なんでもない……」


 よかった。聞こえなかったみたいだ。ほんとによかった……。


 だって今、なんかヤバかったもん。いいとか悪いとかじゃなくて、よくないあたしになるとこだった感じがしたんだもん。


 キレなきゃ言いたい事が言えないなんて、それはダメでしょ。あたしたちの間じゃ、絶対に。


「っと、今のごめん」

「へ?」

「なんか嫌な物言いになっちゃったね。ほんとごめん」


 ペコッと頭を下げる美優。急にそんなの見せられたらこっちが混乱するっての。


「…………とっ! とにかく! あたしが奏太の事好きとかないから!」

「頑なだね……でもそれなら小学二年の時の」

「あーもうしつこいなあ! っていうか! 美優には関係な」

「ふっ!」

「ひっ!?」


 美優の息遣いが荒くなって、ダンッとフローリングを蹴る音がして。それを頭が理解する頃には、景色が変わっていた。


「さっきの失言があるから……」


 逃げ道を塞ぐみたいに扉に寄り掛かっていた美優が、目の前にいる。


「……今のはノーカンにしてあげる」

「へ?」

「関係ないって言おうとしたんでしょ?」

「それは」

「関係ないわけないって、わかるでしょ?」


 怒ってる。今日一番……いや。知り合ってから一番ってくらいに、美優は怒っていた。


「あんたの事があたしに関係ないわけないでしょ。夏菜と元気の事も修の事も奏太の事も、あたしに関係ないわけないでしょ。あんただってそうでしょ。それともあんたは、あたしたちの事なんて関係ないなんて思ってるわけ?」

「そんなこと」

「じゃあ……二度と言わないで……!」


 怖い。いつでも気怠げ口が悪くて、でも実は誰よりも真面目で優しい美優の事を、初めて怖いと思った。


「……ごめん」


 よかった。変な意地を張らず、ちゃんと謝れた。


 あたしたちの事で美優が関係ないわけがない。況してや今の話題で、美優が関係ないわけないじゃんか……あたしのアホ……!


「うん。許す。あと、あたしもごめん……」

「うん……」


 ごめんなさいの交換を終えてあたしから距離を取ると美優は、再び扉に寄り掛かった。威圧的な感じはこれっぽっちも感じられなくなっている。


「……頑張ってみなよ」

「え?」

「あんたの事……応援してるからさ」

「応援って……あたしはそんな……」


 美優から貰った言葉が意外過ぎて、あたしはテンパった。だっておかしいじゃん。頑張ってみろとか応援してるなんて、絶対おかしいじゃん。


「って、っていうか美優の方こそ!」

「うん?」

「ほら……言ってたじゃん……」

「奏太の事好きってヤツ? あれ嘘」

「そっか……………………はあ!?」

「溜めたなー」


 怒鳴り声に近い声を上げちゃった。その声の向いてる先には、いつもみたいに飄々としていゆ美優がいるだけだった。


「は? ちょ、え? 今の……え? っていうか今までの……!?」

「全部嘘だよ」

「はぁ!?」

「そもそも好きな人がいるってとこから嘘だし」

「はああああああ!?」


 叫べ叫べ! あたし叫べ! いつもの美優に対して沸き立ついつもの苛立ちを形にしろ! あたし!


「だってあのまま夏菜と元気弄るブーム続いちゃったら、夏菜の校内生活に支障を来すじゃん? あたしが夏菜とイチャイチャ出来なくなっちゃうじゃん? このあたしがそんなの許せますかっての」

「いや! は、はあ!?」

「それに、わんわんと黒井さんの方も気になったからね。あの二人は知り合って日が浅いし、外野にピーピー言われない二人の時間を作るのが大切かなーって思ってさ。だもんで、しばらく盛り上がりそうな話題を投下してみたのだ。効果はバッチリ。あっちこっちに向いてた意識がぜーんぶこっちに向いたもんね。どう? ナイスな着眼点でしょ? 三年連続ミスコントップの看板が初めて役に立ったかもねー」


 驚き過ぎて下顎が戻ってくれないもんで口は開きっ放しだし、得意気に語る美優から目は離せないし、頭の中は大渋滞だしで、なんかもうてんやわんや状態。


「何その面白フェイス。その間抜け顔でミスコン入賞は無理でしょ」


 さっき見せた怖い顔の影すら滲ませない美優、どうやら嘘じゃなさそうだけど……。


「えと……」

「なになにー?」

「なんで……奏太の事が好き……って?」


 途切れ途切れになっちゃったけど仕方ないよね!? 普段通りに話せとか無理無理! まだ動揺ヤバいもん!


「奏太の名前を出したのは、あんたの中にある物を引きずり出したかったから。あたしの考えが的外れで、あんたが奏太の事をどうとも思ってないっていうならそれも聞きたかったし。ま、あんたの反応で確信出来たけどねー」

「……あたし……一本取られた?」

「うん。一本取ったった。いぇい」


 顔の前で横ピースしてるんだけどこの女。何をそんな……この女……この女は……!


「……………………はあ……」


 なんかもう……美優だなあ、くらいしか出て来ないや……。


 けど、ちゃんと言っておかないと。


「……ねえ」

「うん?」

「ちょっとちょっと」


 ちょいちょいと手招きをすると、すすすっと寄ってくる美優。もう目の前に立っている。だからあたしは、やってやるのだ。


「美優」

「うん」

「最低」

「あぅ」


 美優のもちもちすべすべほっぺを、ぺちっと音が出る程度のパワーでビンタした。


 そう言えば、こうして誰かの事をブツの、生まれて初めてだ。


「知ってる」

「嫌いになってたとこだよ。美優じゃなかったら」

「そ。なら、あたしで良かったや」


 あたしに頬をペチペチされたまま笑う美優は、いつもの美優に見える。見えるけど……なんというか……なんだろ……うーんなんかモヤモヤするよーっ!


「……もういい?」

「うん。充分話せたし」

「……なんか楽しそうだね……」

「あんたにそう見えるならそうかもねー」


 あ、わかった。今わかった。


 美優が、いつも通りに見え過ぎてるんだ。


 今まで一度もした事のない話をして。美優があたしに詰め寄って。あたしが美優のほっぺをぺちっとした。


 こんなにもいつも通りじゃない事ばかりなのに、美優がいつも通り過ぎるんだ。


「ほら、勉強するんでしょ? 続き頑張んなさいよー。あ、その本は千華にあげるって言ってたよー」

「うん……」


 美優から受け取ったリスニングの教材を指先でつんつんして振り返る美優。


「ねえ美優」


 その背中を、黙って返すつもりなんてなかった。


「んー?」

「さっきの、全部嘘なんだよね?」


 嘘の中に少しばかり真実を混ぜ込むと、嘘の信憑性が増す、的な話を聞いた事がある。それが本当ならば……。


「そだよー?」


 美優はあたしに背中を向けたまま。どんな顔をしているのか読めない。


「……美優?」

「うん?」

「奏太の事が好きって話、アレだけは嘘じゃないんでしょ?」


 だからこそ、思いっきり踏み込めた。


「……ううん。嘘だよ」

「でも」

「嘘だって。本当に」

「…………そっか」

「うん。おやすみー」

「……おやすみ……」


 振り返らないまま部屋を出る美優を目で追う。すると。


「…………う」


 美優の口が、ある言葉を紡いだのがわかった。


 何も言えないまま。何も行動出来ないまま。あたしと美優の間を裂くみたいに、扉は閉められた。

 

「…………はあ……」


 ため息を一つ吐き出して、両腕を交差させて作った枕に額を預け、机に突っ伏す。


「今は……もう……」


 あたしの耳を信じるなら、美優はそう言っていた。


「……バカ……」


 本当に。なんなんだ。


「バカ美優……」


 聞こえるように言うな。あたしに押し付けるな。


「もっと上手に……嘘付いてよ……」


 それは、誰に宛てた言葉なのか、あたし自身まるでわからなかった。


* * *


「何普通にあたしの部屋入ってんの」

「普通に俺の部屋に入ってマンガとか参考書とか持ち去って行った犯人を探していたらここに行き着いてね」

「やるじゃん。名探偵」

「そりゃどうも。けど……こればかりは推理のしようがない事だから教えてくれ。何があった?」

「何もないよ」

「じゃあなんで泣いてるの?」

「泣いてないよ?」

「泣いてないように見えるだけで、でもやっぱ泣いてるよ、美優は」

「は? 意味わかんない」

「はぐらかすな。話してくれ。頼む」

「なんでそっちが必死になって聞き出そうとしてんの」

「必死だからだよ」

「そんなにあたしが」

「心配に決まってるだろ怒るぞ」

「……ごめん」

「話せるか?」

「話したくない」

「じゃあ話したくなるまでここにいる」

「変態。ストーカー。強姦魔」

「美優」

「……やめて……」

「……なら、次が最後。断られたのならこれ以上の追求をしないって約束する。いいね? 聞くよ? 何があった?」


 美優は何も言わない。それならば仕方がない。約束通りにに退散しますかと、美優に強奪されていた書物を手に持った。


「千華と話して……」


 すると、直ぐに反応があった。


「話して?」

「……ケリ……付いちゃった……」

「…………もしかして……」


 全部わかった。美優の事を知り過ぎている俺に、わからないはずがなかった。


「……あたしね? 自分の事がわからないなーって思ってたの。っていうか考えた事もないなーって。でもね、考えた事ないのも当然なんだよね。だってそれどころじゃなかったもん。あたし……あたしの事を考えるより先に……みんなの事を考えてたかったの……うん……あたしはそういう人間なの……」

「……だから?」

「…………あの子の敵には……なりたくないなあ……って……」


 笑っている。美優が笑っている。


「ほんと……バカだな……」


 浅葱美優は優しい。その優しさで自分が傷付いてしまうとわかっていても、優しくしてあげたい人たちを傷付けられない。裏切れない。


「うっさい」

「でも…………優しいね、美優は。俺らの中の誰よりも優しいよ」


 きっと、優しさとは違うんだ。それでもやっぱり、優しい美優だから。どんな物に形を変えてしまっていようとも、美優自身の優しさから生まれた物であるから。


「それやめて。聞きたくない。あたし……そんなんじゃない……」

「美優のその優しさ、好きだ。大好きだ。けど嫌いだ」

「意味わかんない」

「美優自身に優しくしてあげられない優しさなんて嫌いになって当然だろ」


 大切な美優が、自分で自分を傷付けてるのなんて見たくない。見たいわけがないじゃないか。


「……そっか」

「うん」

「…………なんか……疲れた……」


 俺のベッドに座り込んで、窓の方に視線を向けてしまった。


「こんな……ね……なんか……おかしいよね……ねえ?」

「知らない。聞かない」


 自分自身に苦しめられている女の子の背中に背を向け、勢いよくベッドに座り込む。


「わ」


 マットの揺れに遊ばれた華奢な背中が、俺の背中とぶつかった。


「……修?」

「俺は何も見てないから。何も聞こえてないから」

「は?」

「だから……とりあえず泣く?」

「泣かない」

「泣いてもいいんだよ?」

「泣かないもん」


 自重しない俺に怒ったりとかあるかなって思ったけど、俺の背中に掛かる体重が増した事で、その展開にはならないんだと理解出来た。


「泣くような事なんて……ないもん……」

「……そっか」


 背中に掛かっていた重さが遠退き、直ぐに戻ってきた。背中全面に圧を感じていたさっきまでと違って、今度は背中の上方一点のみに重量を感じる。向こうを向いていた美優がこっちを向いたみたいだ。


「絶対……泣くもんか……」


 俺の背中を枕代わりにしている女の子から、微かな振動が伝播してきた。


「美優は強いね」

「うん……あたし……強いもん……」

「知ってる。昔から知ってたよ」


 嘘だ。知らなかった。こんなにも俺たちの事を大切にしてくれていただなんて、昔の俺に知るわけもなかったんだから。


「はあ……疲れた……」

「うん。お疲れ様」


 今年の夏休みも、こんなような事があったな。それ以降も何度か。


 こんな事ばっかりだ。俺と美優は。


 こうして、誰にも見せたくない姿を見せなければ何処にも行けない所なんて、泣きたくなるくらいそっくりだ。


「っていうか……何も聞こえてないんじゃなかったの」

「だったね。地獄耳でごめん。ここからは何も聞かないって約束するから」

「バカ……ほんと……バカ……」

「美優には負けるよ」

「……ごめんね……」

「いいんだよ」


 翌日が自由登校日で良かった。


 震える女の子とベッドの上で寄り添っていたら一睡も出来ませんでした。


 なんて、誰にも言えるわけないもんな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る