第11話 今、そこにはあるものとは①



「おっはよ〜 胡桃!」

「おはようございます。奈津美ちゃん良かったねぇ」


 昨夜、奈津美ちゃんから喜びのRYAINリャインが入ってきたのは家に帰って間も無くだった午後七時頃。その時の彼女のはしゃぎ様ったら凄かったです。すぐにRYAINリャインのやり取りでは追いつかなくなり、電話にスイッチするや否や、カッコイイだの、待ち遠しいだの、散々惚気話を聞かされました。そして圧倒させられたのはその熱量。昨日の帰り道に大型書店に付き合わされて、シェリカの専門誌や自動車雑誌を奈津美ちゃんは数冊買っていました。


「ほんと坂下さんにお願いして良かったぁ」

「本当に車買っちゃうんだね、奈津美ちゃん」

 昨日まるっと自販でオートオークションに入札した後、坂下さんと軽く雑談を交わして帰路についた訳ですが、坂下さんはその後セリ市を見守ると言っていました。詳しくは私も解っていないのですが掻い摘んでみると……


 オートオークションは色々な物が開かれており、規模も開催日もまちまちである。まるっと自販が加入しているオークションは規模も大きく毎週日曜日のみの開催の為、扱う車両数も一千台規模だとか。

 それを午前九時のスタートから数台ずつまとめてセリがおこなわれる。競りの時間はわずか二十秒程しかないので、あっという間に終わってしまう。この刹那の時間のなかで、値段の交渉が行われるのだから、勢い余ってかなり高額まで競ってしまうことも有るそうです。

「ほんと競り上がらなくて良かったよ。マニア向けで値段が上がっても可笑しくないって言ってたし」

「坂下さんには感謝しないとね」


 結局のところ、シェリカの競りは何も起こることは無く、淡々と物静かに終わったそうです。数件が入札していたそうですが、まるっと自販の入札以降は新たな入札も無く落札出来たそうです。坂下さんも多少強気で入札したのが良かったと言っていたそうです。


「でも結局二百三十万円で落札したからけっこうオーバーだよね。他にも諸経費とかあるのでしょ?」

「そうなんだよねぇ。お父さんは気にしなくて良いって言ってくれてるけど、それだけあれば軽自動車とか、グレードにこだわらなければ小型車も新車で買えるそうだし」

「奈津美ちゃんも頑張って親孝行しないとね」

「はいはい。でもその前に自動車免許取らないとね」

「そうだよねぇ。私も取れるのなら取りたいなぁ」

「でも胡桃のお母さんも費用出してくれるって言ってるんでしょ。それでもやっぱり?」

「うん、やっぱり悪い気がして。少しは家計も助けてあげないとね」

「そうかぁ。ところで胡桃、今日の放課後予定ある?」

「特に無いよ?」

「じゃあさ、坂下さんにお礼と必要書類を取りに、まるっと自販付き合ってくれない?」

「うん、いいよ」



 ◇◇◇



 私達は学校が終わると真っ直ぐまるっと自販へ向かいました。えっ? 他に用事はないのかって? ……二人共、彼氏なんて居ませんけど何か?


「奈津美ちゃん、今日は私、此処で待っていますね」

「うん、わかった。お礼言って書類もらうだけだからすぐ戻ってくるね」


 私は展示場の入口で待つことにしました。昨日の今日ですし、坂下さんもお忙しいだろうと思い遠慮しました。奈津美ちゃんも書類を貰いに行くだけで、車が届くまで何も打ち合わせが出来ないので今日はすぐ帰ると言ってましたし。でも正直に言いますと、昨日のあの青い車が気になってたんです。


「あの…… 君を何処かで…… ?」

 誰も聞いていないだろうと、私は青い車にそっと手を触れて話しかけていました。不思議と気持ちが安らぐ気がしたのです。

「君の、名前は…… 」

 まるでつい最近観た、某大ヒットアニメ映画のラストシーンを彷彿とさせる、演技地味たセリフを吐いていました。


 私だって女の子です!あんなドラマチックな出会いに憧れているんです。私も三葉みたいに「私も!」とか「君の名前は?」とか言ってみたいのです!そして声高々に「私は胡桃です!くるみでっす!クルミデース!」とか世界の中心で叫んでみたい!はぁはぁ…… おや?何か混ざりましたね。


 兎に角です、私がそんな妄想にどっぷりと浸かっていたわけですが……


「ん〜? ……そいつは『ノーツ』って車じゃぞ」

「はひっ!?」


 見られていました…………

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